渡辺さんの俳句傑作選
2月の俳句
春待つやたっぷりつける歯磨き粉
今年は寒い冬になった。
いつもの暖冬のイメージで気分もゆったり、
もう暖かくなるだろうとたかをっくっていたら、
待てど暮らせど来ぬ暖気・・・。
寒さばかりがひどくなるばかり。
数年ぶりに雪まで降った。
あまり寒さが深まると、
風呂に入るのに裸になりたくない・・・。
寝る前に歯を磨くのもめんどう・・・。
磨いた後の冷たい水ですすぐ口の中が寒い。
いちいち細かく寒く感じる・・・。
要するに暖冬に慣れきった体は、
知らぬ間にわがままになっているのだ。
そういうゆるんだ精神に、
緊張感を呼び起こすためには、
歯を磨く時に歯磨き粉をたっぷり、
歯ブラシの毛の上に乗せて、
メントールの刺激を、
脳天のつむじまでびりびり響かせることだ。
春のおとづれを緊張感を持って待とう・・・。
気がつけば皆サユリスト鮟鱇鍋
今、「母べぇ」の吉永小百合がいい。
「吉永小百合」といえば大女優の一人だ。
世代的には清純もののイメージが強いが、
その時からのサユリストとなれば筋金入りだ。
でも、世代的に見れば、
ほとんど共通している現象かも・・・。
しかし、最近若い連中にもサユリストが増えているという。
おにゃんこクラブの「国生さゆり」じゃなくてだ。
これも結構古いといえば古いが、
このサユリストはもう残っていないだろう・・・。
吉永小百合のサユリストはいまだ健在。
本物志向の強い世代のためか、
思い込みが残っている。
いまやプラスアルファの世代が、
サユリストの名簿に載りつつある。
この世代は本物志向とは縁遠い世代だから、
近日中に雲散霧消となる運命だろうな。
今が盛り上がればとりあえずよしということか・・・。
リモコンで回りをかためおでん鍋
立春を過ぎても寒い毎日・・・。
かなりの雪が降った記憶などというのはもう昔に感じる。
しかし今年の冬はしっかりと雪が降った。
公園には雪だるまのラッシュが起きていた。
しかし、さみしいことに雪だるまの、
目、鼻、口に使う炭がどこいもない・・・。
どの雪だるまの顔ものっぺり状態だ。
「水木しげる」ワールド、真っただ中という状態・・・。
そんな雪だるまを見て深々と冷え込む夜は、
鍋をつついてテレビ・・・。
リモコンを手元に置いて音なしの構え・・・。
これだけ寒いとトイレに行くのもぎりぎり我慢。
シビンを置いておくこともできないので、
最後には立つわけだが、
ついでのリストをしっかり順序立ててから立ちあがる。
なぜか、指定の場所に戻る時に、
絶対に忘れものをしてはならないのだ!!
落ち葉炊き愛猫の背のまるさかな
落ち葉炊きという言葉が生きていたのも、
実は30年代までかと思う・・・。
今や路地でのたき火は勇気がないとできない。
広い庭でレンガの窯を作ってするくらいだろう・・・。
日本はどんどん狭くなっているということだが、
マッチを擦るのもはばかれる時代になってきた。
枯葉を集めて火をつけて、
さつまいもを火が回るようにうまく入れる。
出来上がったおいしさは子供の記憶には貴重だ。
今の子供の記憶とは、
ゲームの記憶なのかもしれない・・・。
落ち葉が煙をあげて燃えるとき、
猫が暖かそうに背を丸めて寝ている。
そういう記憶が大人になってからのハートを、
ホットにすると思う。
いよいよ狭くなってきている日本じゃそれも無理だな・・・。
悴むや肋骨はめて人体模型
人間の骸骨を組み立てるという作業には、
何となく快感が伴う・・・。
なぜか、人間の意識の奥深くには、
生贄、食人の気質が眠っているあるのかと思う。
生きたまま焼け石の上に突き落とし、
蒸し焼きにして食べるというのがあったらしい。
表の意識においては受け入れられないが、
人間裏側の意識は、
意外に表とはかけ離れているものだから、
骸骨を組み立てるときなど、
裏側の意識の中でニヤリかもしれない・・・。
深々と冷える夜、夜中・・・。
スリッという音とともに冷たくなった指先で、
最後の肋骨を一本はめるとき、
快感はピークに達するのかもしれない・・・。
主催者吟
寒風や肺に飛び込み咳一つ
砂塵巻き雲を汚して春一番
電線で鳩着膨れて霜の朝
陽に向かう梅切り抜きぬ青さかな
すすきの穂冬越し明けに輝く日
オリオンを追うごと踏みぬペダルかな
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