渡辺さんの俳句傑作選








4月の俳句






春落ち葉霊長類なる頚木かな
                           春になるとほとんどの樹木には若葉が満ちる。
                    新緑は冬のモノトーンの世界から、
                人の気持ちを解き放つ・・・。
                               新緑の緑は人工的にはまず作り出すことはできない。
                           ジワッと染みてくるような奥の深さがある・・・。
                      そういう圧倒的な春の季節感の中で、
                突然!葉を落とす木がある。
                         人間というのは変わった動物だと思うのは、
                   圧倒的は新緑の和えで解放感と、
                   誕生する新鮮さを楽しみながら、
                       その中でハラリと葉を落としていく木に、
                     途方もない無常感を感じていく・・・。
                       そのような矛盾をホモサピエンスとして、
                     進化してきた人間の宿命として持つ。
                       はたして人間は絶滅する道を行くのか、
                            はたまた辛くも生き抜く方向性を選ぶのか・・・。
                      そんなこと見て楽しむ人間もいる・・・。








フリーター口だけ達者桃の花
                      現代は戦前を徹底的に否定した上に、
             文化を積み上げてきた。
                       戦前の人間的価値観をすべて否定して、
                  理想とする社会を目指してきた。
                         その結果が自由という名を冠した生き方が、
              肯定されるようになった。
                   それが悪いということは全くない。
             しかし、若さに任せて、
                           アルバイトのみで自分を成り立たせようとする、
                  それが若者の文化になっている。
                       しかし、何の技能も専門性も持たない、
                  フリーター族が社会を支配して、
                                過去に否定した理想的な社会が出現するだろうか・・・。
                        誰も見たことがない故に否定はできない。
                フリーターを是とする若者が、
                       はたして文化を構築できるだろうか・・・。
                            フリーターである自己を肯定しようとする言葉に、
                    文化の萌芽は見受けられない・・・。








アニメとはアニミズムから4月馬鹿

               今やアニメという言葉は、
                           一つの独立した世界を表す単語になっている。
                                パラパラ漫画の発想から生まれた漫画から出発して、
                              極めてメッセージ性の高い映画にまで上り詰めた。
                     アニミズムとは霊魂を指す言葉だ。
                  霊魂が宿って動きが出てくる。
                                  パラパラ漫画をそこまでの思想に引き上げたのがすごい。
                           制作当初は一枚一枚のセル画に色を塗って、
                         気の遠くなるような枚数を手作りした・・・。
                                    今はパソコンによって簡単に作ることができるようになった。
                 当方もない枚数のセル画に、
                         これまた途方もない色づけをする作業に、
                         人が多くかかわることもなくなったわけだ。
                   パソコンで簡便にできるものに、
            魂が宿るわけもなく、
                     大量のアニメが排出されていく・・・。
                                手作りで命を削るような作業を繰り返して制作された、
                   過去のアニメに名作が多いのも、
                               アニミズムという語源に合致していたからだろう・・・。








無呼吸の夫の彼方で蛙鳴く

            春眠暁を覚えず・・・。
                         今や日本にとって脅威の怪物でしかない、
               中国の言葉だと思う・・・。
                             日本には中国の格言が祖像を絶するほどある。
                  それだけ中国の歴史がダメに、
                         塗り固められていたということだと思うが、
                                    ダメなところから教訓というのは生まれてくるもんですな・・・。
                                    しかし、教訓をいくら積み上げても何も変わらんというのも、
                      またこれ想像を絶する疑問だが・・・。
                   よく寝ていて睡眠が深くなると、
                           呼吸が止まってしまうというご仁がおられる。
                     深く気持ちよく眠っているところで、
                   息するのをやめてしまうわけで、
                                 そういう状況は天国から声がかかってるんじゃないかと、
                        だからほっとくわけにもいかないわけで、
            深い静かさの中で、
                カエルがゲコと鳴くだけで、
                        人間の感性は呼び起こされるんですね。
                                あの世の一歩手前で引き返せるというわけです・・・。








太秦の御仏の笑春の雲
                     京都太秦といえば時代劇のメッカ。
                    春の一日つらつらと歩いてみるに、
                          なぜここが時代劇の撮影に適しているのか、
                      なぜ東京の都庁の下ではだめなのか、
                          都庁の下といってもただ下なわけじゃなくて、
                             ちゃんと広大な敷地にセットを組んでの話だが・・・。
                                 それでもまあ、三丁目の夕日がいいところじゃないか・・・。
                やはり空気が違うのだろう。
                                    京都という町が発する空気がもう圧倒的に違うということだ。
                         新鮮組が出てきても違和感のない空気感。
                    今の東京じゃ彰義隊が出てきても、
               まるっきりマッチしない・・・。
                         空気というのはどうすることもできない・・・。
                そういう太秦のセットの仏の、
                           その笑みの中には京都の歴史的戦乱を超えて、
                           現代のわれわれにも訴えかける深さがある・・・。






主催者吟


早春のもみじは赤子の手の温み

網の目に区切るもみじや春の空

花落とし茎のみ並ぶチューリップ

仰向けの畳の冷えや春時雨

満開のつつじや開かぬ雨戸あり





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