渡辺さんの俳句傑作選








10月の俳句







ドングリをポケットに入れ友見舞う
          秋のこの時期に、
                          とにかくたくさん落ちているのがどんぐり・・・。
                 胴が細いのから太いのまで、
               濃い茶色とうす茶色・・・。
                             どんぐりとひとからげに言っても種類があるのだ。
                                こまにしたり楊枝やマッチの軸をさして動物を作ったり、
               パチンコの玉にしたり・・・。
                        ま、食べることは昔も今もしないようだ。
               いくつかドングリを拾って、
                           ポケットに入れた手のひらでコロコロ転がすと、
                         幼い日の遊んだ感触がいきなり戻ってくる。
              甘酸っぱい記憶の中で、
               元気な友の幼い顔がある。
                           今、病に伏している病院へ自然に足が向いた。








   定年の自由不自由零余子飯(ムカゴめし)
                       仕事には定年という失職する時がある。
                       定年というのはその人その人によって、
                大きく受け取り方が異なる。
               定年という扉を開けると、
                      そこから自由という切符を受け取る、
           と思っている人・・・。
                 これが一番楽しい発想だろう。
                  しかし、この門をくぐったとたん、
                         財布という背負っていたものもなくなる・・・。
                いきなり不自由が発生する。
                            定年を前にやはり覚悟が必要ということだろう。
                    不自由と思えば自由が付いてくる。
                    自由と思えば不自由が付いてくる。
                   自由の比率を少し上げてくれる、
                   ムカゴ飯を今日は炊こう・・・!!
                     節約した後の自由を楽しみに・・・。







日の本に石川遼や初嵐
                       スポーツの世界が若年化してきている。
                             フィギアスケートの浅田真央、卓球の福原愛・・・。
            23才なんて言うと、
                           なんだかけっこいっている感じを受けてしまう。
                                芸能界にしてもモーニング娘など若年齢化の象徴だ。
                             日本の大人は子供で稼ぐ式の稼ぎ方が全盛だ。
                         儲かる以上この傾向は変わらないだろう。
         親も子供達が、
                                 ちやほやの最高のステージに上がることを拍手喝采だ。
                                 ついにというかゴルフの世界にもその波は押し寄せた。
                        大人真っ青の少年ゴルファーの誕生だ。
                  しかも優勝までしたしまった。
             プロゴルフの世界に、
                           子供は無理だろうというのがあっさり覆った。
                     こういうのを同年代の子が見ると、
                         いきなり刹那的考えになるんだろうな・・・。
                 これから嵐が吹く世の中だ。
                  どう眺めたらいいのかなぁ・・・。








就職の内定なくて障子張る

                         いきなり世界的金融不安が持ち上がった。
                                  北京オリンピックまでの好景気はどこへ吹っ飛んだか・・・。
                        どこへ吹っ飛んだか探す旅もいいのだが、
                    その旅にも先立つものはいる・・・。
                しかし、不景気というのは、
                     人にお金を渡さないシステムだから、
                       探す旅に出られないようになっている。
                       誰も探し当てられなくて右往左往する。
                         秋深しから学生の就職戦線が形作られる。
                   好景気だと進軍ラッパとともに、
           なにおも突破して、
                   目的地に誰でもたどり着けるが、
              不景気の壁に当たると、
                        ほとんどは目的地にはたどり着けない・・・。
                   陣地から出ることもできない・・・。
                        自宅待機となり冬に備えての障子張りだ。
                             障子くらいで厳しい冬の不景気風を防げるか・・・。
                              まあ、ないよりも風邪をひかなくて済むというものだ。








老い猫のボンネットに臥す小春かな
                車のボンネットというのは、
                     日差しに放置するとかなり暑くなる。
               温度の上がり方といえば、
                  夏はもう火傷する勢いだ・・・。
                       晩秋の太陽の通り道も短くなったころ、
                風も冷たさを増すころ・・・、
                     陽にさらされたボンネットの温度も、
                   手の平を当ててちょうど良くなる。
                 老いて動きの鈍くなった猫は、
                      この温度の具合を良く分かっている。
                        そこに目を閉じてうっとり寝そべっている。
           老いを重ねただけ、
                            四季を通じての居場所を確実に確保している。
                         居心地のいいポジションの位置は確かだ。
                             人間というのは窓際になってから右往左往する。
                          人間ほどその場面で見苦しい動物もいない。
                                人間ほど老いてからのポジショニングのだめな動物は、
                     地球上に人間だけかもしれない・・・。
                    知恵と体が回るうちだけがよくて、
                                  あとは猫ほどのポジショニングもできないのが人間か・・・。






主催者吟


秋時雨あがりて空の高さかな

思い出は思い出のままに秋来る

位置変えて燃ゆる朝日や鶸(ヒワ)の声

道路に似せたるバッタ目のうつろ

葉を突きて五色にのびる秋朝陽





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