渡辺さんの俳句傑作選








2009年 9月の俳句







隠し事二つに増えて秋扇
                             だれしも隠し事というのは事の善悪に関係なく、
                      後生大事に持っているものだろう・・・。
                           生まれて物心ついて歩きまわるようになれば、
                   最初は簡単にばれる秘密ごとを、
                                うまく隠したつもりで尻隠さず状態で持っているものだ。
                長じて隠し方がうまくなると、
                   誰も何もないように動いている。
                           隠し事というのは実際は増え続けるものだが、
                 人間の記憶は便利なもので、
                片っ端から忘れていくのだ。
                              持っていられる隠し事も実際はたかが知れてる・・・。
                            古い隠し事を捨てて新しい隠し事を抱え込んで、
                             それなりに楽しいのが大人っていうことだろう・・・。








揺藍の奔放にある大花野
          季節も夏が去り、
                            秋到来となれば気分は元気印に変わってくる。
                                   しかし、昨今は秋の声を聞いてもしぶとく暑気が残るから、
                                ほんとに元気印がはっきりするのは少し時間がかかる。
                 元気印がはっきりしてくると、
                    見えてる物の印象まで違ってくる。
                          まあ夏には花野群れて咲くなんてところは、
           おおよそ無い・・・。
                          なぜか春と秋には群れて咲く花が多くなる。
                          なぜかというほど難しい問題ではないが・・・
                   夏の暑い中での視界の狭さが、
                    秋になると一気に広がる不思議。
                        同じ花の群れでも倍に見えるだろう・・・。








秋風やローマ帝国興亡史
                      ヨーロッパの歴史はローマから始まる。
                          一番放送されるのがピラミッドとローマだろう。
                          これは繰り返し放送されてなお尽きない・・・。
           歴史界の両横綱だ。
                  まあ、ローマのような大帝国が、
                      どのように興ってどのように滅ぶのか、
                              これは桟敷で見る分には大いに盛り上がるテーマだ。
            国も人間が興す以上、
                            人間の一生の過程と大して変わらない気がする。
           歴史上のどの国も、
                            興ってそこそこ栄えてそしてあとかたもなく滅ぶ。
                                生まれて力強く活動して果てはあとかたもなく滅ぶ・・・。
                 まあ一個の人間と広大な国と、
               どこが違うのかってことだ。
               結局人間の作ったものは、
                          人間の性からは、はみでないものだといえる。








初デートコンビニで待つ秋時雨

               思春期に訪れる初恋・・・。
                         待ち合わせる時のちょっと緊張した気分が、
                           ほとんど一生のうち一番の思い出になる初恋。
                              それ以外はだんだん消えいていくから不思議だ・・・。
                                思春期というのが特別の時代だというのがよく分かる。
              デートの場所というのは、
                  時代によって変化してきている。
                      男女席を同じくせずの時代は別として、
               男女が自由になった時代。
                    待ち合わせの場所の変遷を見ると、
                  今のコンビニなどという場所は、
                   おおよそ想像外の場所に思う・・・。
                              初恋という心理状態が変化しているのがよく分かる。
                              良くも悪くもドライになっているということだろう・・・。
                                    そういう初恋という状況が軽く安上がりになってるというこだ。








鰯焼く銀座の露地の古老かな
                    銀座といえば今や日本のなかでも、
                    特別な場所というイメージがある。
            銀座と聞いただけで、
                 縁なしという気分になるのも、
                けっこう普通なのかも・・・。
                            しかし、近代化ニッポンの象徴であった銀座も、
                当初はちょっと裏に入れば、
                     長屋のある庶民のいる場所だった。
                           おかみさんたちの笑い声に満ちていた場所だ。
            表通りの厳めしさが、
                       徐々におかみさんたちの甲高い話声を、
                   小さく抑え込んでいった街だ・・・。
                             ビルの並ぶ狭い路地で鰯を焼くにおいと老人・・・。
                             銀座に立ってこの匂いがして来てホッとするのは、
              どんなビル店があろうが、
                      やはりここも日本であるということに、
                     一ミリの違いもないということだ・・・。








主催者吟


降りやまぬ秋雨重し秋桜

セミ鳴くを押さえ込みつつ虫の声

障子戸に秋の陽満ちて夢うつつ

オシタシはもってのほかよ雨の朝

屋上の猫のあくびや秋茜




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