渡辺さんの俳句傑作選









12月の俳句




白秋碑 島大根は みな小振り
                     詩人北原白秋の碑が城ヶ島にある
                               <城ヶ島の雨>は歌にもなっているほど有名な詩だ
                               そのなかの一節「利休ねずみの雨が降る」の一節は
                        白秋本人が最も気に入っていた部分で
                  他の詩にも引用されたそうだ
                            そこに並んでいる大根は慎ましやかに小振りだ
                             利休ねずみと比喩された細雨に洗われて・・・・・




小太りの アベック猫や 石蕗の花
        12月とはいえ
                      今年は陽が出ればまったく寒さはなく
                       陽だまりで目を閉じて夢心地の猫二匹
                          人間の状況をよく映している動物たち・・・・・
                都会の猫は特に栄養過多で
                     パッと見て太ってるという言葉が出る
                      しかし、暖かそうで気持ちよく野辺で
                     居眠りしている二匹の夢は何だろう




秋の鳶 マグロランチは 九百円
                      晩秋の空を鳶が羽ばたくこともせず
                        あまり大空とはいえない日本の空をゆっくり回っている
                           今の日本ではたとえ空から見渡してもエサは取りにくいだろう
           ゆうゆうとイスに腰掛けて
                  まあまあの値段のマグロランチを注文する
                       千円を越えないところで注文する、微妙だ・・・・・
                  窓から空を垣間見るとまだ鳶が飛んでいる
              ただ待っているだけでいい食事が
                    うらやましいかどうか・・・・・聞いてみたい



小春日や 富士遠景に 海鵜舞う
                            寒風吹きすさぶという日はほとんどない昨今だが
                       それでも寒いなという日が続くことがある
                                       そんな隙間の日に、いやに気持ちのいい空気感を持った日がある
                       こういう日は海岸に出て富士を眺めたい
                    だいたい澄んだ富士山が見えている
                                 銭湯の湯船の壁面のようだといってしまえばそれまでだが
                          その富士山をバックに海鵜が飛び回っている
                            富士山の真っ白い雪にバラ撒かれるシミのようだ
                        あまりきれいな比喩にはならなかった・・・・・


ハリポタの ぎっしり並ぶ 冬の書肆
                            世界的な大ヒットとなったハリーポッターシリーズ
                       しかし、今年の新刊は売れ行きが悪く
               先行きが心配されていた
                           このシリーズはすべて書店の買取となるので
                                 売れないまま書店のハリポタ倒産があるのではないかと
              騒がれていた時期もある
                                 このクリスマス月間を前に本棚にぎっちり隙間なく並べ
                              手に取ることも力ずくになりかねないほどきつくして
                 最後の追い込みをかけている
                                  まあ、あまり関係なく店じまいというのが多かったと思うが

                
        



短日や 十指に余る 飲み薬
                    今の時期は冬の中でも最も陽が短い
              明るい時間が短いのだ
                     朝仕事に行く時はいやに陽が低い
                     仕事を始めた頃にはもう昼になる
                  なんだかよく分からないうちに
                           仕事がノッてきた時はもう真っ暗になっている

                           
  それだけで疲れてしまっている自分がいる
                     嫌になるほど残った仕事を諦めるのも早く帰宅
                          夕食後、あれこれガタがきたところに効くという、アレだ
          薬を手のひらに取ると
            小さく山になる・・・・・
             背中がいきなり丸くなる時だ



 木枯らしや 路上彫刻 微笑んで
             12月、木枯らしが吹く
            その寒さに思わず身が縮む
                           枯葉が舞ってその何枚かが足元にぶつかって飛び去っていく
               一枚が顔のすぐ横を舞っていった
                 顔を上げると道端に彫刻が置いてある
               なんだろうと思わず立ち止まって
                    よく見るとほほ笑んだ人の顔が彫られている
                 この冷たい風の中でその顔の回りだけ
                        少し湿り気があり、空気の流れが穏やかな感じがする
                 きつくなった気分がほっとした瞬間だ







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