渡辺さんの俳句傑作選






2011年 9月の俳句






整体師指軽やかに敬老日
             いまわが街を眺めると、
                           整骨院という場所が近くに4か所固まってある。
             個人商店はほぼなくて、
                ドライクリーニングと美容室、
              これまた多い歯医者・・・。
               ほとんどこの4つの名前で、
                                 街の貸しスペースが埋まっていると言っても過言じゃない。
                          まあそのほとんどがつぶれるということもなく、
                                仲良くかどうかは知らないが共存しているということは、
                             まあ、そこそこ儲かる産業ということなのだろう・・・。
                                  最近できた整体院などは300メートルくらいしか離れてない。
                                これは新しい方が殴り込み状態で来たということだろう。
                                    前からある整骨院の先生の指の動きが重くなった気がしていた。
                      そりゃあ、そうだろうと思っていたのだが、
                            敬老の日に行ってみるとこれがいやに威勢がいい。
                 それもそのはずと納得するのが、
                 敬老の日のせいか高齢の方が、
                  付き添い付きで並んで待っている。
                   こうなれば指の動きも100万馬力。
                   軽やかしかも深くとどいてくる・・・。
                     敬老の日のもう一つの風景だった・・・。








新蕎麦や病談議に花が咲き
                        ある程度まあ、55歳過ぎるころからか、
                           会うとまず体調の話があいさつ代わりになる。
              還暦過ぎるあたりから、
                         あいさつがわりから本題の話に成長する。
                             その話題がなくどこも悪いところがなく元気だと、
                   これはもう話に入っていけない。
                        若い時とは逆の現象になっていくわけだ。
                     若いときはちょっと調子が悪くても、
                  とりあえず話の中にいる時は、
                             元気な顔をしていないと話にのっていけない・・・。
                               これが還暦くらいになるとあまり元気な顔をしてると、
                        話の輪から一歩引く事態になってしまう。
                      人間の一生の不憫なところだろう・・・。
                                新蕎麦が美味しいといっては薬の話などになるわけだ。
                                これが高齢化日本の会話のパターンになっている・・・。








燈火親しこなれた指で電子辞書
                             人間の外に出た部分で一番働いてくるのが指だ。
                 目、鼻、口、耳、足の裏・・・。
                どれも重要な働きがあって、
                    生まれてこの方よく働いてきてる。
                                     しかし目に見えるところでよく動いてきたのはやはり指だろう。
                    精力絶倫の時代から枯れるまで、
                        いろんなところで実によく働いてきてる。
                                    まあ、こなれてきたという表現が一番ピッタリな部位だろう。
                              使い続けた指もさすがにくたびれてくるときがくる。
                                こなれ方も頂点を過ぎるとがたっとスピードが落ちる。
                              ほとんど間違えないように電子辞書のキーを叩く。
                「こなれた果てかなぁ・・・」
                     と、秋の燈火の下でつぶやくのも、
                                ここまで来たという感慨持つ者の感性なんだろうな。








名月や部長囲んで天文部

          秋の中秋の名月。
             やはり月の輝きが違う。
                           満月というのは一年でも何度もあるわけだが、
                   空気が澄んでくる季節の満月は、
              一段と輝きを増している。
                               こういう夜は部のみんなでお月見という話はよく出る。
                      部長を囲んでとなるのが一般的だろう。
                            こういうところでコソコソするとばれた後が怖い。
                      こういうことの恨みは仕事の恨みより、
                 より深いところで闇になる・・・。
                         後は押して知るべしの結果になったりする。
                         部の部長を囲んで天文部の一夜の開設だ。
                              こういう場合やはり部長が部長になるのが定石だ。
                                 そうなるともうみんなが知っている月の話から宇宙の話、
                         宇宙船の話からハヤブサの話まで出てくる。
                        誰でも知っている話のオンパレードだ・・・。
                             ここで初めて知ったような顔をできるかどうか・・・。
                               一夜の天文部に入ったものの腕の見せ所となる・・・。








台風一過取り出してみる昆虫記
                       今年の台風12号は大変な台風だった。
             災害の範囲と大きさも、
                             ここのところ経験したこともないような台風だった。
                  大震災の時に出た帰宅難民が、
                  またして出現した台風でもある。
                                 テレビで見てるとどこかで見たことある風景だなと思うと、
                      3.11の夜の情景とそっくりだった・・・。
            台風の後というのは、
                時たま見たこともないような、
                 虫や鳥を運んでくることがある。
          こんなのいたっけ?
                                 と、不思議な気分にさせる生き物が出現することがある。
                               不思議なものを見ると人間というのは解明したくなる。
                   なにも虫に限ったことでもないが、
                            この解明したいという欲求が強いとオタクになる。
              不思議なものを見た後は、
                             いろいろ専門書を引っ張り出してみるのもいい・・・。
             その中に普段は見ない、
                        昆虫記が混じっていてもおかしむない・・・。







主催者吟

流れゆくテールランプの先の月

君が呼ぶ声よみがえる古日記

ざわめきを離れ虫聴くカフェの隅

雹降ればトレモロ町に鳴り響き

ある思いかすめし霧のカフェの窓





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