渡辺さんの俳句傑作選
2011年 11月の俳句
百歳のカリスマ医師や冬の薔薇
百歳のカリスマ医師と言えば、
ほぼ誰でも知っているあの方です。
聖路加病院のあの医師です・・・。
今やその長寿と年齢に合わない、
聡明さは謎となってきている。
後から続く我々は尊敬していいのか、
その長寿をいかにして手に入れるのか、
はたまたその長寿をたんに妬ましく思うのか・・・。
微妙な心理状態でテレビ画面を眺めている。
だいたい百歳にして新たなことにチャレンジしようという、
その気力はとても自分と同列には考えられない。
本人は特殊なことではないという・・・。
これが特殊なことではないと言いたい気持ちは、
だれでもあるだろう・・・。
あんまり長いのは拒否という人にとってはほとんど敵だ。
そのうち伝説になる強力な候補だ。
伝説になってから語りたいと思う自分である・・・。
リビングで子猫の襲う木の実独楽
日がなぼけっとしている足元で、
子猫が独楽とじゃれている。
木の実で作った手作りだ・・・。
猛然と子猫がダッシュでじゃれつく。
じゃれてと見えるのは人間の一方的な感覚で、
子猫にとっては立派な大人へのステップだ。
猫というのはそもそも猛獣のトラなどと一緒の類だ。
本能的に生きている動物がエサになる。
その襲う本能を最小限にとどめたのが猫だ。
まあ、ネズミを追いかけるくらいにまで小動物化している。
人間もそこまで小動物化していれば、
足元でじゃれていても不安はないわけだ。
それでも子猫のうちから気迫だけは保っている。
長ずるに及んで人間社会を理解すると、
もう動くものにも反応しなくなる。
本能をダラッとさせていくのが、
大人になったと言えるかどうか・・・。
人間に置き換えて考えてみたい・・・。
木枯しが腸のトンネル吹き抜ける
年末になるとあちこち人間ドックに入る話が出てくる。
まあ、ある程度の年齢になれば、
だいたい気になってくるもんだろう。
人間ドックに入って一週間目に倒れる話もあるから、
これが絶対ということもなさそうだ。
まあ、安心料と言えばそうなるかもしれない。
人間ドックに入ってのハイライトと言えば、
バリウムを飲んでの胃の検査。
胃カメラという手もあるがこれは高くつく。
だいたいはバリウムで済ませる。
しかし、これは飲むのも地獄とまではいかないが、
そうとうなんとも言えない気分になる。
そして次のハイライトがこれを出す作業だ。
なんともこの世とも思えない強力な下剤が出てくる。
これを飲んで早けりゃ30分、
遅くともも半日。
一気に腸の中を風が吹き抜ける。
この一気という感覚がまたなんとも表現に苦しい・・・。
ここでは木枯らしと言っている・・・。
寒々とした気分になることを考えると当たりか・・・。
クラス会みんな還暦鳥渡る
ひと仕事終わって、
還暦の声を聞くと仕事の第一線からは外れる。
後は嘱託という身分で仕事に励むことになる。
第一線のバリバリもいるにはいますが、
少数派じゃないかと言える。
その少数派を多数派は、
なんとなく諦めのまなざしで見ていたりする。
羨望のまなざしも少しいるのかもしれない。
まだやるの・・・派が見ると、
往生際が悪いという気分になるかもしれない。
それにしても仕事の区切りと同時にクラス会の幕が開く。
それまで完全に遠のいていた行事が、
いきなり小学校時代から始まる。
始まって参加してみると、
老人ばかり目に入ってくる。
不思議な気分というのはこのことだろう。
だいたい自分が還暦になっていることを、
こういう時はまず忘れている。
自分もそうなんだと気付くと、
カラスの鳴き声も聞こえてくるというものだ。
問診を筆談でして冬に入る
筆談という言葉が出てくると、
いよいよ終末って雰囲気が頭の中に広がる。
問診が筆談という情景が頭の中でイメージとして広がると、
こりゃあ、終わりの一歩手前の情景。
冬だという設定だといよいよ暗い・・・。
この秋から冬にかけては訃報がいやに多かった。
ほとんど次々という状況だ。
気温の変化が想定外のことだった、
ということが影響しているとつい思ってしまう。
実際は自分の年齢との関係が一番深いわけだ。
ま、軽く受け入れて後から重々しい気分になる・・・。
筆談で・・ということは、
もうほとんど力も湧いてこない状況なんだろうな。
自分の最後がチラッと見えてきそうでなんだかな・・・。
肯定も否定もできそうにない・・・。
主催者吟
切れ目なく枯れ葉の続く歩道かな
木枯らしや首たれ犬の横切れり
敷きつめし枯れ葉の色を数えけり
上げ下げの気温の愚痴や冬薔薇
湯豆腐や眼鏡くもりて旅の宿
メニューへ
topへ