「映画でひとこと」−『ショーシャンクの空に』
（初出　2003/4/21〜24）

"Hope is a good thing."−何の装飾も技巧も凝らされていないこのシンプルな言葉、また、あらゆる芸術作品で使い古されたありきたりで時にはおしつけがましくも聞こえるこの言葉、そしてあまりに眩しくてこっ恥ずかしいこの言葉に、私はなぜこうも感動できるんでしょう。

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最初に警告します。
この映画をまだ観ていない人は、この先は読まないでください。
そして一度観てみることを、私は強く勧めます。
観たあとどう思うかは、勿論あなたの価値観・感性次第で様々でしょうが。

初めて観たのは大学生のときだったように記憶しています。
留学中のホストファミリーをはじめ、いろんな人が勧めてくれたので観てみたんですけど、大感動でしたね。
最近、と言ってももう去年のことですが、DVDをプレゼントしてもらって、久々に再鑑賞。
で、やっぱり感動。
何度観てもいいです、この映画。

全篇を貫くテーマは「希望」です。
私は映画に限らず音楽、小説、詩歌、ドラマ、その他なんでも、この手の作品は苦手です。
一つにはありきたりだからです。
腐るほど多くの作品のなかで、希望や夢が語られます。
うんざりなんですよ、正直。
それに現実味のないものも少なからずあります。
「ウソくさー」と思わせるようなね。
あとはやけに恥ずかしい作品だったりもして。
「やめてくれ」って言いたくなります。
でもこの作品は感動できるんです。
「希望」がテーマでも。
なぜでしょう。

19年−主人公アンディが脱獄するまでにかかった時間です。
彼は19年間刑務所の壁を掘り続けます。
少しずつ、少しずつ。
あれだけ絶望的な状況下にあって、です。
私はコラムの中で何度か書きましたが、なんでもすぐにイヤになってしまってやめてしまう、あきらめてしまう人間です。
しかしアンディは、まさに不撓不屈の精神で、コツコツ壁を削り続けた・・・19年も。
19年もですよ。
私のような人間にとっては、この19年という年月だけで、彼の持つ希望の強さに説得力を感じざるを得ないんです。

そして「必死で死ぬか、必死で生きるかしかない」という言葉も出てきますが、死ないし死の絶望をも描くことによって生、ひいては生の希望を相対化して輝かせている。
初老の囚人ブルックスは、仮釈放になってから自殺し、トミーは刑務所内で殺されてしまいますが、彼らの死をアンディはしっかりと受けとめ、相対化して「おれは生きる」と決心をさらに固めたのです。
対照的なのは、レッドはブルックスの死を初め相対化せず「おれも死のうか」と、自分と重ねて受けとめたということです。
このアンディとレッドの違いこそが、希望の有無であり、作品全体のテーマに関わってくるのです。

さらに、アンディには希望があるだけではありません。
知性があります。
強さもあります。
元大銀行の副頭取というインテリですから、脱獄および脱獄後の計画は、緻密で知的なものでした。
このへんは映画を観た人ならわかるでしょう。
そして強さ。
囚人に暴行をくわえられても決して屈しない。
懲罰房に2ヶ月入れられても、脱獄の希望を捨てない、あきらめない。
勝手に『フィガロの結婚』のレコードを所内で流し、刑務主任にドアをぶち破られるまでやめるどころかボリュームを上げたあの硬骨の精神。
そういう知性と強さを持った彼だからこそ、最後には希望が叶うんだなぁ、と納得してしまうんです。

ラスト近くでアンディがレッドに宛てた手紙の言葉、"Hope is a good thing.（希望は素晴らしい）"は、19年の歳月、死との相対化、彼自身の知性、強さに裏付けられて、これ以上ない説得力を持つのです。
その強力な説得力ゆえ、おしつけがましさは感じられずに素直に受け入れることができ、爽快感がある。
だから感動できるんです。
もちろんこっ恥ずかしさなんか微塵もありません。

ネットで検索すればすぐにわかりますが、この映画は「異常に」人気があります。
それもそのはずで、これほど説得力があって、観たあとに爽快感・カタルシスを得られる作品はそうはありません。
2時間半弱ありますが、無駄なエピソードは一つとしてなく、だれたり飽きたりしません。
巡り会えてよかったと心から思える作品。
そして、DVDをプレゼントしてくれたHN:Sutekingに感謝。

（映画データ）
『ショーシャンクの空に』（米）
原題：『The Shawshank Redemption』
公開：1994年
監督・脚本：フランク・ダラボン
原作：スティーブン・キング
音楽：トーマス・ニューマン
出演：ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン、ウィリアム・サドラー、ボブ・ガントン、ジェームズ・ホイットモア
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