「マンガでひとこと」−『死神くん』
(初出 2003/2/3〜4)


おれは死神。
寿命が迫っている人間に死の宣告をし、魂を切り離して霊界に運ぶのが仕事だ。
でも死ぬ予定じゃないのに死のうとする人間がいたり、三つの願いと引き換えに人間の魂を持っていこうとする悪魔がいたりして、いろいろトラブルが多くて大変。
しかし人間ってのは、どうして死に直面しないと生を考えない奴ばっかりなんだろうねぇ・・・

と、いきなりあらすじをセリフ調で書いてみましたが、別に気が狂ったわけではありません。
何回かレビュー書いていると、読むほうもそうでしょうが、書くほうもマンネリで。
ちょっと変わった風に書いてみようとした結果がこれです。
ま、気にしないでください。

実はかなり古いマンガです、これ。
連載開始が20年前・・・でも話自体は全く色褪せてません。
それは一重にテーマが普遍のもの、「命の尊さ」「生の素晴らしさ」だからです。
これはいつ読んでも感動できます、泣けます。
感動できるマンガは他にもありますが、読んで泣いたマンガは『自虐の詩』とこれぐらいです。
このマンガでは毎回死が扱われるんですが、その死をとりまくドラマが本当に感動できるんです。
死に直面した人たち(死ぬ本人だけじゃなく、まわりの人たちも)が、ギリギリの局面で出る行動・・・これがみんなやさしさにあふれてるんですよ。
そのギリギリの状態でのやさしさってのに、きっと涙腺押されるんですね、私の場合。
これだけ感動できる作品を描けるとは、本当に作者に拍手を送りたい。

話の形式はショートストーリーになっていて、一話完結です。
一話ごとの構成がしっかりしていて、読ませます。
短編で、テーマが命で、感動できる・・・『ブラックジャック』みたいです。
実際『ブラックジャック』を範としている部分があるんでしょう。
医者が出てくる回があるんですが(文庫版1巻、中村さんちの名医さんの巻)、つぎひょうたんがでてきたり、「運命のもとでは医者は無力なのか?なんのために医者がいるんだ!?・・・答えろ!」と、ほとんどマンマなセリフがでてきたりします。
とはいえ全体的には全く『ブラックジャック』っぽくはなく、様々なシチュエーションで物語が展開されます。
構成のうまさだけは全篇通じて『ブラックジャック』並ですけどね。
今いった「医者」の回もあれば、戦争、教師と生徒、女優、マラソン選手、野球選手、動物、老人ホーム、相撲取り、登山家、ヒットマン、親子、といった、非常に多彩なシチュエーション、テーマで一話完結のストーリーが描かれていきます。
これだけあっちこっちへと場面設定を変えられるのは、メインキャラの死神くんが非現実的な存在で、どこにでも現れることができるからでしょう。
その意味で全くシバリがないんです。
『ブラックジャック』は主人公が医者で、それゆえ医者の世界から逸脱することができないのと対照化すれば、その場面設定の自由度がわかるでしょう。
しかしいくら自由だからといっても、作者に才能がなければこれほどのバリエーションは生まれなかったのではないでしょうか。
よくあれだけ多くのバリエーションを考え出せたなと、ここでもう一度作者に拍手を送りたい。

生は、死と相対化されて初めてその価値がわかるものです。
だからこそ死は大きな感動を呼ぶドラマになるのです。
わたしたちは普段死を意識することはあまりありません。
それ自体は悪いことではないのですが、そのままいくと生の尊さ、大切さを感じられないまま、ずるずると惰性で暮らしてしまうということになります。
『死神くん』は、平和ボケでやる気がない、生きていることに実感をもてない現代人が、今こそ読むべき名著なのです。
あと、人間関係が希薄になり、人のやさしさに触れる機会が少なくなったという意味でも、現代人にマッチする作品です。
とにかくいろんな人に読んでもらいたい、珠玉の名作。

(マンガデータ)
『死神くん』 全8巻(文庫版)
作:えんどコイチ
出版社:集英社
価格:各619円(税抜き)
2002年8月初版発行(文庫版1巻)
管理人お気に入りポイント(★=1、☆=0.5。最高5):
★★★★☆

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