タイトル■叫ぶ奇人の怪
書き手 ■ヘドロ岡林
これはノンフィクションである。
叫ぶ奇人……、この怪物は実在する!
不夜城・新宿大久保に生息する
このミステリアスな怪物の正体に迫るべく
取材を重ね、その様子をリアルタイムで
報告していくのが、この企画の主旨だ。
繰り返す。“この怪物は実在する”!!
>バックナンバー◇◇ 第十七話 ◇◇
観測史上初のオーバーラップ現象…!
ベランダに飛び出して行ったポンちゃんは、
手すりから上体を乗り出すようにして、
上下左右をキョロキョロ見回している。
「バァァアアアアアアアッ!」
そして、叫びが聞こえる度に後ろを振り返り、俺を見る。
物凄く興奮した顔だ。
(どーして岡林はこっちに来ないんだ!?)
(どーして岡林はそんな風に落ち着き払って室内に座っていられるんだ!?)
と言いたげな顔だ。ポンちゃんよ、
後でお前が部屋に戻ったら
じっくり時間をかけて説明してやるが、
これは今に始まったことではないんだ。
もう1年も前から、毎日毎日起きている怪現象なんだ。
だから俺は、今さら驚いたり興奮したりはしない。
「バァァアアアアアアアッ!」
ポンちゃんよ、
その場所からいくら調べたってムダだ。
そんなことは俺がもうとっくにやり尽くしている。
「ブォアッ…ヌアアアアアアアッ!」
ポンちゃんよ、
そんな顔で見つめたってダメだ。
俺はそっちへは行かない。
自分一人で考えろ。
まずは他人の力を借りずに、まっさらの状態で、自分一人で考えてみろ。
そのものの正体が、一体、なんであるのかを。
俺は心の中で、そんな先輩風を吹かせながら、
ポンちゃんの戻りを待った。
そのうち彼は、自分の想像力の限界にブチ当たり、
打ちひしがれて戻ってくるはずだ。
デビュー戦の初回マウンドで乱れ打ちに遭い、
なにがなんだか分からぬうちに
KOされてしまった新人投手のような面持ちで、
室内に戻ってくるに違いない。
そうしたら、温かく迎え入れてやろう。
そして、これまでの歴史をすべて話し、
お互いの分析を発表し合い、対策協議をしていこう。
「バオアアアアアアアアア」
「あアあアあアあああぁぁぁぁっ……!」
むむっ…!
こんなの初めてだ。
間髪なしの連発だ。
声が一瞬、オーバーラップしたかのようにも聞こえた。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ(笑)!」
「わおおおおおおおおおおおっ(笑)!」
「ぎゃあーーーーーーーーーっ(笑)!」
あの馬鹿野郎ッ!!!!!!!
俺はダッシュでベランダに飛び出し、
ポンちゃんの頭を平手で思い切りブン殴り、
「いいから戻れ!」と襟口を掴み、室内へと引きずり込んだ。そして、窓をピシャリと閉め切ってから、真顔で説教を開始した。
(つづく)