タイトル■叫ぶ奇人の怪
書き手 ■ヘドロ岡林

これはノンフィクションである。
叫ぶ奇人……、この怪物は実在する!
不夜城・新宿大久保に生息する
このミステリアスな怪物の正体に迫るべく
取材を重ね、その様子をリアルタイムで
報告していくのが、この企画の主旨だ。
繰り返す。“この怪物は実在する”!!

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◇◇ 第二十話 ◇◇
俺の真面目なアンサーを聞け!

茶化し半分の推理合戦は、ネタ切れとともに終了した。

しばしの沈黙の後、
俺は上体をグイッと起こして、
(ここからは本音を聞きたいのだが…)という表情で、
ポンちゃんにこう問いかけた。

「で、だ。……実際のところ、アイツは一体、何者なんだ?」

床に寝そべっているポンちゃんは、
「う〜〜〜ん」と大袈裟に叫び、
俺から目を逸らし、しばらく黙り込んでしまった。

きっと、まともな答えが浮かばないのだろう。
無理もない。
1年ほど、どっぷり奇人に関わってきたこの俺でさえ、
答えを探しあぐねているのだ。
昨日今日のポッと出の新人が、こんな難題にスラスラと答えられるわけがない。

ポンちゃんは寝そべったまま腕を組み、
おまけに「ひとり足四の字固め」のように足を組み、
しかめっツラで天井を睨んだりしているが、
きっと何も考えていない。
考えている風を装いつつ、考えることを放棄している顔だ。
彼はきっと、俺の見解を聞きたがっている。

任せとけ。
なんせ俺にはシンキング・タイムがたんまりあった。
この1年間、俺はたった独りっきりで、
奇人についてアレコレ考え続けてきたのだ。
完璧とは言えないものの、平均点レベルの真面目なアンサーもいくつか用意している。
聞け!

「いくつか可能性はあるんだが、まず比較的、平和な路線から言うと、宗教だな」

「…宗教??」

ポンちゃんは興味深げにこっちを見た。

「そう、宗教。俺たちの知らない、カルト教団の集会所がこの近所にあって、
そこでいろんな人が呪文を唱えてるのかもしれない。だから時々、声色も変わる」

「そんな宗教、聞いたことないぞ(笑)。『バァ〜ッ!』と叫ぶ宗教なんて」

「そう、だからこそカルトなんだよ! 俺が思うに、外資系のカルトだな」

「たしかにこのへん、いろんな国の奴がいるからな」

と、ポンちゃんも少しだけ納得しかけたこの説だが、実は弱点がある。
これまでの俺の調査によると、
奇人の叫ぶ時間帯は、早くとも始発が7時台、遅くとも終発は23時台と限られている。

夜23時というのはまだ理解できるとしても、朝7時というのはいささか早すぎる。
そんな早い時間から集会を行う教団など、ちょっと想像しにくい。
何人かで合宿生活を送っているということも考えられるが、
ならば時には呪文が重なり合ったり、その他の雑談が聞こえてくるのが自然である。
が、そういった複合音声やノイズは、これまで聞こえた試しがない。
声色こそ若干変われど、いつも奇人は単独で「バァ〜ッ!」と叫ぶ。
それ以外の無駄口は一切叩かないのだ。

それに、もしカルト教団の集会所ないしはアジトがあるならば、
近所で怪しい集団を見かけることが度々あってもいいはずなのに、
この1年間で、そういった風体の輩を表で目撃したことは一度もない。
これもカルト説の弱点である。

「そこで、もう一つ考えられるのが、厄払い説だ!」

「…厄払い???」

「そう。よくあるじゃん。神主みたいな奴が、誰かに取り憑いた悪霊を追い払う儀式。
あんとき、日本人だと『エイッ!』とか、『ヤァッ!』とか叫ぶけど、
外資系だから『バァ〜ッ!』なんじゃないかと」

「……気持ち悪いね。何人(なにじん)だろ?」

気味悪がるポンちゃんをさらに怖がらせるために、
ここで俺は、とっておきのエピソードを畳み掛けることにした。

(つづく)





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