タイトル■叫ぶ奇人の怪
書き手 ■ヘドロ岡林

これはノンフィクションである。
叫ぶ奇人……、この怪物は実在する!
不夜城・新宿大久保に生息する
このミステリアスな怪物の正体に迫るべく
取材を重ね、その様子をリアルタイムで
報告していくのが、この企画の主旨だ。
繰り返す。“この怪物は実在する”!!

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◇◇ 第二十一話 ◇◇
エ ピ ソ ー ド 1

以下は、俺が少年時代に見聞きした話である。

「厄払い」に関連する話だが、
一応のスタンスとして、俺は今も昔も
「オカルト否定主義者」だということを、まずここで表明しておく。

そんな俺でさえ、思わず凍てついた話である。

本題にはなかなか入らないが、
この長ったらしいエピソードを聞かされたポンちゃんの気持ちを哀れみつつ、
我慢して読んでいただきたい。

◇   ◇   ◇

小学生時代、同級生に「金村」という男がおり、一時期よく一緒に遊んでいた。
と言っても親友というわけではなく、
金村はあくまでも「高瀬(第六話〜第九話参照)のオマケ」だった。
高瀬と金村は同じ団地の隣同士に住んでおり、
俺が高瀬を遊びに誘うと、漏れなく金村が付いてきた時期があったのだ。
小学校低学年の頃の話だ。

デリカシーがなく、顔が黒く、声が大きい高瀬を「番長」とするならば、
センシティブで、色白で、無口な金村は、高瀬の「家来」といった佇まいだった。
高瀬は元シカゴブルズのマイケル・ジョーダンみたいな顔だが、
金村は現巨人(元西武)の工藤投手みたいな顔。

現実の工藤は生意気で鼻持ちならない男だが、
金村は、顔が工藤に似ているというだけで、性格は工藤とは正反対。
ちょっと困ったことがあると、大きな目をキョロキョロさせて、
口をとんがらせて、色白の顔を真っ赤に染めて、無言で右往左往するようなタイプだ。

だから俺と高瀬は、よく金村をイジメていた。
ワケもなく半ズボンを脱がせたり、は朝飯前。
ある時など、こんなワケの分からないイジメもした。

当時、「ブランコ鬼」という遊びがあった。
ブランコ乗り場の周囲に線を引き、
鬼はそこから中へは入って来れない。
線の外から、いずれかのブランコに乗っている
人間にタッチをできれば、鬼は交代……という遊びだ。

※下図は、上空から見た図
※下図でいう、縦線からのタッチは反則。
 横線からのタッチのみ有効。




御覧のように、ドン臭い鬼は、
延々とブランコのわまりを走り続けなければならないという、過酷なゲームだ。
ちょっと賢い鬼なら、
フェイントを連発したり、
端っこのブランコを狙い打ちにしたり、
疲れたフリして相手の挑発行為を待ち伏せしたりして、
なんとかタッチに漕ぎ着けることができるのだが、
運動神経が鈍かったり、あるいは性格が素直すぎたりすると、
半永久的に鬼が続くことになる。

金村は、運動神経はまずまずだったが、性格が優しすぎた。
おまけに泣き虫で、なぜだかよくオシッコも漏らした。

その日もたしか、学校でオシッコを漏らしたのだと思う。
放課後、近所の公園で催された「ブランコ鬼」で、
金村が鬼になった時、俺と高瀬はこんな命令を下した。

「小便を漏らした罰として、鬼の間ずっと『一休さん』を歌え!」

なぜ「一休さん」なのか。今となっても、その理由はサッパリ分からない。
しかし、金村は命令に従った。

「♪好き好き好き好き好きっ、好きっ。愛してる」
「♪好き好き好き好き好きっ、好きっ。一休さん」

当時、テレビアニメで流行っていた
「一休さん」のテーマ曲(とんちんかんちん一休さん)を歌いながら、
走り始める鬼の金村。
子供ながらに羞恥心があるのか、顔は赤らみ、目線は宙を彷徨い、足取りも重い。
当然、タッチはおぼつかない。
いつもタッチ寸前で、俺たちのブランコは、金村をあざ笑うように逆サイドへ逃げて行く。

絶望と羞恥で、金村の歌声にだんだん張りがなくなってくる。

「♪…とんちは………あざやかだよ 一級品…」
「♪………度胸…は満点…だよ…… 一級品…」

俺と高瀬は残酷だから、そんな金村を見てゲラゲラ笑う。
そして、ブランコの上に涼し気に腰かけながら、こんなヤジを飛ばす。

「全然聞こえねぇよ、馬鹿野郎!」

金村はやがて泣き出した。
泣きながら走り、なおも律儀に「一休さん」を歌っている。

「♪………いたずら…厳しく 一級品…」

もはやタッチする気力もないのか、
ただただ右回り一辺倒にノロノロ走り、シクシク泣きながらダラダラ歌い続ける金村。
それを見て、馬鹿笑いしながら、「聞こえない!もっと大声で!」と叫ぶ俺たち。

「♪だっけどけんかはからっきしだよ!三級品!(ヒック=嗚咽)」
「♪分からんちんども!とっちめちん!(ヒック)」 
「♪とんちんかんちん!一休さん!(ヒック)」

ボロボロと大粒の涙をこぼしながら
「一休さん」をヤケクソ気味に大声で歌い、
延々とブランコのまわりを走り続ける金村であった。

(つづく)






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