タイトル■叫ぶ奇人の怪
書き手 ■ヘドロ岡林

これはノンフィクションである。
叫ぶ奇人……、この怪物は実在する!
不夜城・新宿大久保に生息する
このミステリアスな怪物の正体に迫るべく
取材を重ね、その様子をリアルタイムで
報告していくのが、この企画の主旨だ。
繰り返す。“この怪物は実在する”!!

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◇◇ 第二十二話 ◇◇
エ ピ ソ ー ド 2

そんな残酷なカースト制度はやがて崩壊し、
小学校3年になった頃には、俺と金村はなぜか対等の立場になっていた。
細かいいきさつはよく覚えていないが、
いっときなど、高瀬ヌキで、1対1で遊ぶような関係になっていたのだ。

そんなある日、金村から、「家に遊びに来い」と誘われた。
「いいものを見せてやるから」と。

家に行くと、金村の妹が2人いた。
上の梨花ちゃんが当時7歳、下の満里ちゃんが当時3歳。そのぐらいだったと思う。
梨花ちゃんは、7歳にしては派手で大人びた顔をした、峰不二子のような美女だった。
満里ちゃんは、3歳にしては地味で哲学的な顔をした、モナリザのような幼女だった。

「早く!岡林、早く!」

部屋でまどろんでいると、
金村が背後で突然、そう叫んだ。
振り返ってみて、驚いた。
なんと彼は、自らの妹である梨花ちゃんを横四方固めで押さえ込み、
力づくでパンツを脱がそうとしているではないか!

「やめてお兄ちゃん!やめて〜っ!」と大声で泣き叫ぶ梨花ちゃん。
「ほらっ!岡林!女のアソコだぞ!早く見ろ!」と叫ぶ金村。

なんてことをするんだコイツ!
と幼心に思ったが、俺はあっけに取られてしまい、というか、
正直に言うと異性のアソコに関心があったので、
その異常事態を黙ってずーっと傍観していた。
罪悪感があったからこそ、ここまで記憶が鮮明なのだと思う。
梨花ちゃんには、この場を借りて深くお詫びしたい。

ちなみに、小さい妹の満里ちゃんはその時、
兄たちの喧噪をよそに、部屋の隅っこで地味にスヤスヤ眠っていた。
金村の両親はその日、家には不在だった。

そんな衝撃的な思い出を2つ提供してくれた金村だが、
小学校5年の時、突如として隣の区へ転校することになった。
その頃には、クラス替えの関係などでお互い交友関係が大幅に変化しており、
俺と金村はかなり疎遠になっていた。
だから俺は、特になんの感慨も抱くことなく、
「ふ〜ん」という感じで、彼と別れた。
別れたというより、気付いたら居なくなっていたという感じだ。
さよならパーティーにも参加した記憶がない。
実にアッサリしたもんだった。

ところが、親同士は、そうではなかったようだ。
引っ越し後も、たまに連絡を取り合っていたらしい。

時折、うちの母親から、
聞いてもいないのに、金村家の最新情報を聞かされた。

「金村君は、中学校で野球部に入ったらしいわよ」

「上の梨花ちゃんは、クラスの人気者なんだって」

「下の満里ちゃんが小学生になったんだって。
 遠足になると、納豆のお弁当ばかり持って行きたがるって、
 金村君のお母さんがこぼしていたわ。満里ちゃん、納豆が大好きなんだって。
 さすがに弁当箱に納豆をそのまま入れるわけにはいかないから、
 油揚げに包んで持たせてるって、言ってたわ」

まったくうちの母親は、そんな話を俺に聞かせてどうするつもりだったのか。
でも、納豆の話を聞いた時は、さすがに笑った。
あのモナリザみたいな顔をした地味で大人しい子が、
いっぱしに小学生になり、そんなヘンテコな自己主張をしているのかと思うと、
無性に可笑しかったのだ。
普通、女の子は、たとえ納豆が好きでも、それを隠したがるものじゃないのか?
そのへんのこと、あの子はまったく気にならないのだろうか?
だとしたら、ちょっと変わってるなと思った。
地味ながらも超マイペース。
これは、「アソコ見せてやる騒動」の時に、
一人だけ爆睡していた様子からも窺えるように、
満里ちゃんの持って生まれた性格なのかもしれないと思った。

だが、微笑ましいニュースはここまでだった。

ある日、高瀬からこんな情報が飛び込んできたのだ。

「金村んちの満里ちゃんが、『馬の霊』に取り憑かれたらしいぞ!」


(つづく)






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