タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>
これまでの記録


<114> 5月19日(日)

■■ 「愛の世紀」は夢のように ■■


ゴダールの「愛の世紀」を見た。

映画館でゴダールを見るのは
いつ以来かも思い出せないけど
とにかく久々。

たぶんまた映像と音楽はカッコいいけど、
話は1ミリも理解できないんだろうなぁ〜
と思いながら見に行ったのだが、
その予想はすこし外れた。

映画が始まってしばらくは
相変わらずの難解な台詞や、かみあわない会話に
なかなか入りこめずウトウトしていたのだが、
しばらくするとバッチリ目が覚めた。

物語はさっぱり理解できないのだけど、
途中でこの映画の見方に気がついたのだ。

これは夢だ。

暗闇の中に次々と浮かび上がる、
脈絡のない美しすぎる白と黒の映像、
主観的で連続性がない展開、
けれど心に刺さる言葉たち。

現在の時間とは別に存在しているように見える
人々や風景、音、旋律…

そういうのって夢そのものじゃないか?

そうだよ、これは
ゴダールが見ている夢なんだ。
映画の神が見ている夢。

見ていて不思議だった。
一見なんでもない映像や音が
なぜ旅をしている時のように
いちいち心にしみこんでくるのか。
強く記憶に残るのか。

夢だからかもしれない。
夢は理解できなくても
頭の中に確かな感触を残す。

夢に物語性はない。
奇妙に脱線し、ゆがみ、
大筋とは無関係なものをクローズアップする。
けれど、刺激的だ。

夢は、ふくらみ、変形し、別の形になった
現実の記憶。
そしてそれが不連続的に連なっているもの。

そんな記憶の断片が流れていくさまを、
行方のわからないまま眺めていればいい。
それが夢の見方だ。

理解しなくていい。
好きに見て、考えればいい。

パリの雑踏、雨の音、風で揺れるカーテン、
自動車の騒音、椅子の配置、女性の美しい腕…

ただ背景として映っている場面のいちいちまで、
それがごく普通の景色であるにもかかわらず、
なぜだかすべてが意味ありげに見える。

“私は求めない。見出すのだ”

なるほど。映画の筋とは関係なく
そうやって見始めると
やたら面白い映画に思えてきた。

こんな台詞が流れる。

“何かを考えるとき、実際はほかのことを考えている。
 ほかのことを考えずに何かを考えることはできない”

わかりにくい物語なのではなく、
そうやって見ればいい映画なんだ。

“存在は楽しめるが人生はムリ”

そう、世界の存在を楽しめばいいんだ。
そうすれば、こんなわかりやすい映画はない。

映画は2部構成になっていて
後半は2年前に時間が戻る。
するとモノクロだった映像が
いきなりカラーになる。

この色彩がまた度胆を抜かれるほど美しい。

こんな色をした美しい海を
こんなに激しい波を
そしてまた
こんなに生き物のような海を
初めて見た。

そして
これほど大地を揺るがすような
波の音は聞いたことがなかった。
まるで天地創造だ。

“誰もが人生を消費するだけ。
 創造しない。
 僕が代わりに創造するのか?”

やはり、これは夢だ。
映画の神が創造した
美しく激しい夢。

現在は白黒で
過去はカラー。

ゴダールにとって
現在はもう既に終わった世界なのだろう。

そうだ、こんな台詞もあった。

“だが記憶は残っている。
 記憶は残る”

美しい記憶だけを
映画として記録し始めた?

そういえば、この作品の前に
公開されたのは「ゴダールの映画史」だった。
そして「愛の世紀」ーーー。

ゴダールは終わった世界からターンして
うしろに進み始めたのかもしれない。

いってみれば
∀ゴダール?

そして、この映画では
ゴダールが初めて「愛」という言葉を
タイトルに使った。

けれど、愛についてなんて語られない。

“それは別の話だ”

そんな台詞が繰り返される。

“だが、決して別の話はしない。

 別の言い方が必要なのに、
 使う勇気がないんだ。”

映画においては「神」かもしれないゴダールが、
生活においては、ただの男なんだとも感じられた。

そんなゴダールだから好きだ。

やっぱりパリの映画だった「男性・女性」で、
シャンタル・ゴヤを延々と口説き
しかしつれなくされ、
「いつも変な女を好きになってしまう」
とぼやくジャン・ピエール・レオを思い出す。

ゴダールはいつも夢と現実の狭間で
葛藤し、それを隠さない。

「愛の世紀」は
映画の神を演じる孤独な男の見た夢。
そういう映画だったのかも。

高校生の時に「気狂いピエロ」を初めて見て
ドえらく衝撃を受けた時のような
焼けつくような激しい興奮ではなく、
今回はすごく静謐なものだったけど
久しぶりにゴダール映画に興奮した。

夢のような映画だった。

**********

ゴダールは、この映画の中で
「スピルバーグ株式会社」なんてのまだ出して、
徹底してアメリカ(ハリウッド)を批判していた。
(毎度のことではあるけど)

「スパイダーマンも面白かったですけど」
なんて言ったら、えらく怒られるだろうな…



(つづく)





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