タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

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これまでの記録


<125> 6月8日(土)

■■ 思い出の森田芳光 ■■

さあ、いよいよ映画「模倣犯」が公開。

原作も面白かったけれど、
俺にとってはあくまでも森田芳光の最新作
として非常に楽しみな映画。

森田芳光という監督は、初めて
「映画」というものの面白さを教えてくれた
俺にとっては特別な存在だ。

高校1年の初夏。たぶん今頃の時期。
深夜に放送していた『家族ゲーム』という映画を観て、
俺はかつてないような衝撃を受けた。

当時、俺は映研に所属していたのだけど、
別に映画が好きだったわけではなくて
ただ単に勧誘に来た先輩に誘われるままに入っただけだった。
そもそも映画なんて怪獣映画やアニメ以外、
ろくに観たこともなかったし、
マイナーなものにしか価値を感じなかった当時は、
いわゆるハリウッド映画的なものには何の関心もなかった。

そんな俺にとって、
『家族ゲーム』はすべてが新しく刺激的だった。

ホームドラマなのにSFのような奇妙な雰囲気。
先がどうなっていくのかまったく読めないストーリー。
すべてが記号的で意味深な映像。
有名な横一列の食卓に代表される普通の光景を歪ませるレイアウト感覚。
音楽をまったく使わない手法…などなど。

特に目玉焼きをすする音や、豆乳を飲む音など
本来、生活の中で普通に聞こえる音が
デフォルメされることでこんなに面白いものなのか!
ということには驚いた。
(影響を受けすぎて、家族が食事する音を録音して
 音楽のように聞いていたこともあった)

映画っていうのは、ただ物語があるだけでなく
こんなに複雑な面白さを出せるものなんだ〜〜〜!

典型的サブカル好き高校生だった俺は
今まで観たことのある、いわゆるエンターテイメントとは違う、
マイナーな匂いのする実験的な映画に初めて出会い、
痺れた。痺れまくったのだった。

当時ようやく我が家にもビデオが導入されたので、
さっそくレンタルビデオに行き、「家族ゲーム」を借り、
電気屋でダビングしてもらった。
当時はまだビデオテープが1000円以上した時代だと思う。
ダビング料金も結構なものだっただろう。
総額3000円以上の出費だったような気がする。
月の小遣いが5000円の高校生には、かなりの高額だ。

しかし、その元を取る以上に観た。観まくった。
毎日毎日、それこそ全てのセリフを暗記するくらい観た。
でも何度観ても面白かった。
見れば見るほど新発見があり、まったく飽きなかった。

森田芳光という監督は、俺にとって最大のアイドルになり、
「思い出の森田芳光」という本はバイブルになった。

その後、「ときめきに死す」(心のベストテン第1位映画)を観て
「家族ゲーム」に匹敵するようなショックをまた受け、
「それから」で古典をモダンに撮ってしまうカッコよさにまたシビれ、
その次が、とんねるず主演の「そろんばんずく」という
振り幅の大きさ、バランス感覚にまたシビれた。
「の・ようなもの」「メインテーマ」…語りだすとキリがない。
しんとと…しんとと…。

「映画って面白いなぁ〜!俺も作りたいな〜!」

やがて自分でも8 ミリ映画を作るようになり、
やがて映像の専門学校にまで通うことになったのだから(中退しましたが…)
この映画との出会いは本当に大きかったのだろう。
いわゆる、「人生を変えた一本」ってやつだと思う。

これで俺で映画監督になっていれば
美談になるのだけれど、残念ながらそうはならなかった。
ただ、「編集」という仕事をする際にも、
森田映画に受けた影響は大きかったような気がする。

20代になると、10代で受けたほどの衝撃は感じなくなったけど
「(ハル)」「39」はやっぱり良かったなぁ。

さあ、そんな森田映画の最新作「模倣犯」。

「キッチン」などでも原作を独自の解釈で
まったく新しい作品にしてしまった魔術師モリタが
今回はいったいどんな映画にしているのか?
胸は高鳴るのである。

というわけで、さっそく行ってきます。


(つづく)





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