タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>
これまでの記録


<126> 6月9日(日)

■■ ピース!〜映画「模倣犯」の感想〜 ■■

映画「模倣犯」観てきました。

ズバリ賛否両論分かれる作品でしょう。

ひとつ言えることは
宮部みゆき版「模倣犯」と
森田芳光版「模倣犯」は
明らかに別の物語です。

似ているストーリーですが
人物設定も、結末も違います。
物語の感触も違います。

僕は小説を読んでから観たので
原作を読まずに映画だけを観た人が
どう思うのかはわかりません。

では、どっちもまだの人は
映画と小説、どちらを先に見る(読む)べきかというと、
ミステリーとしての醍醐味を味わうなら
やはり小説からかな、と思ってました。

でも単なる謎ときの物語ではないので
どっちが先でも後でも
それぞれ楽しめるような気がしてきました。
それくらい両者違う味わいの作品です。

どっちも楽しむのが
やはり一番の贅沢だとは思いますが。

で、ちなみに僕は映画の方が好きです。

観終わった瞬間は結構とまどっていたのですが、
投げかけられた疑問をひとつひとつ解こうとすると、
それぞれのパーツがまるで別の見え方をしてくる。
もう一度観て、自分のたてた仮説を確かめたくなります。

素直に楽しめる原作版よりも
想像の余地(謎)が多い。

小説を「感動ミステリー」とするなら
映画は「知的パズル」とでも言いますか。
組み合わせ次第で、いくつも違う物語が考えられます。

久しぶりに物語が終わってからも余韻が残るというか、
劇場の外に出ても引きずってしまう映画でした。

ですから、スカッとする単純娯楽作品ではないので
不満に思う人も多いんじゃないかと想像できます。
事実、ある映画評論のHPでは酷評されてました。

でも、きっと主人公ピースはこう言うでしょう。

「どうして僕のレベルに来てくれないんだ。
 僕はいつも普通の奴に計画を邪魔される」

そういう映画です。
実に森田芳光らしい映画です。

そうそう、そのピースを演じる
俳優・中居正広は予想以上に良かった。
「中居くん」ではなく、「ピース」でした。

それを見るだけでも、価値のある映画でしょう。
きっとびっくりすると思いますよ。

では以下、原作を読んだ人向けに
感想を書きます。
原作の内容に触れるので、ご注意ください。
知りたくない方はここから戻ってください。

ピース!























<小説を読んだ人向けの報告> ※でも白紙で楽しみたい人は読まない方がいいです

長い物語ですから当然ですが、
小説にあった重要なエピソードがなかったり、
設定も変わっていたり、結末も違います。
そのへんに少しとまどいます。

でもピースは小説より映画の方が
断然魅力的でした。断言します。
それは僕にとって大きかった。

僕は、小説では正直言って最後にガッカリしたんです。
というのは、ピースには人間を超えた「悪」の
ようなものを期待しながら読んでいたからで、
最後の最後、彼も単なる小悪党だったことが判明しますよね。
あそこにはかなりガックリきました。

逆にそこにホッとする人もいたと思いますが、
僕はもっと「怖い存在」を期待してました。
「ジョジョの奇妙な冒険」のディオとか、
「モンスター」のヨハンとか(彼も僕には期待外れだった)のような
人間ではない、「悪」そのものを。

でも、その部分において映画版ピースは
僕には小説以上に魅力的でした。
新しいタイプの「悪」を感じさせてくれました。

評論などを読むと、ドストエフスキーの「罪と罰」や
黒澤明の「天国と地獄」を彷佛とさせるらしいのですが、
僕はどっちも未見なので、語れず。残念。

原作は多様な群像劇で
重厚なドラマを作っていましたが、
映画版は、ピースの物語にテーマを絞ってます。

新しい「悪のヒーロー」誕生。
映画版「模倣犯」はそういう作品として
位置づけられると思います。

中居正広版ピース、ホントいいですよ。
「ハンニバル」のレクター博士に負けてないです。

ピースだけでなく
キャスティグ、人物設定が
全体的にとても良かった。

栗橋弘美もいいですよ。
映画版ヒロミは、なかなか魅力的です。

高井和明の藤井隆も思った以上にハマリ役だった。
あと出番は少ないけど明美の小池栄子もおもしろい。
そうそう、鞠子の伊藤美咲もキレイだったなぁ。
もちろん山崎努に問題があろうはずありません。

そしてラストも原作と違うので
そこからフィードバックして考えると
「模倣犯」にまた違った物語が見えてきます。
これは、面白いですよ。

観た人の人間性を試すために仕掛けられたトラップ(罠)、
あるいはリトマス試験紙、そんなラストです。

とはいえ、やっぱり賛否両論分かれるでしょう。
宮部みゆき版の濃厚な人間ドラマを重視する人には
全然ダメな映画かもしれません。

でもせっかくですから見比べてみるのを
オススメします。

その上でいろいろ語り合うのは
楽しいんじゃないでしょうか?

ピース!

















<個人的メモ:地球光と模倣犯>

ずっと評価を迷っていた作品がある。

劇場版「∀ガンダム 地球光」だ。
それが映画「模倣犯」を観て、
わかったような気がする。

テレビ版∀ガンダムが宮部みゆき版「模倣犯」で
映画版∀ガンダムが森田芳光版「模倣犯」だったんだ。

映画「模倣犯」は、あの膨大なストーリーから
主人公ピースに話を絞って新しい物語を作ってみせた。
同じように、「地球光」は黒歴史という人類の負の遺産に
焦点を絞って、新しい物語を作っていたんだ。
そう見るべきなんだ。

いや、わかっていたことだけど
今一度スッキリできたような気がする。

DVD発売も間近。
もう一度、そういう観点から見直してみよう。

ピース!


(つづく)





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