タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎
「狼はガガーリン空港へ行く」を主宰している男
の書いた制作記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。
>>これまでの記録
<140> 6月25日(火)
■■ 濡れて候 ■■
取材で渋谷へ。
桑田佳祐の新譜「東京」発売日だったので
渋谷はそのプロモーション一色ですごかった。
Qフロント、HMV、タワレコなど、どこもかしこも
桑田桑田桑田桑田桑田桑田桑田桑田桑田桑田…!
東京東京東京東京東京東京東京東京東京東京…!
いやはや。俺はここ数年サザンインポ化が
深刻になっていたのだけど、
最近、急に直りつつある気配。
古いCDをひっぱりだしてリハビリに励んでいる。唯一持ってなかったCD「バラッド2」も買ってきた。
KUWATA BANDの「PAY ME」を聴きたいがために
「スキップビート」のシングルCDまで買った。
リハビリは快調だ。すっかり勃つようになってきた。いや、サザンの場合は“濡れる”と
表現する方がしっくりくるか。そんな絶妙なタイミングだったから
「東京」も、もちろん買った。
クジをやったらポスター(ビリの商品)をもらった。ただ、サザンインポが直ってきたといっても
それは古い曲に対してであって、
新しい曲に対してはどうなのか
正直不安だった。最近の桑田佳祐の曲にノレなくなった理由は
たぶんいろいろあるのだろうけど、
「TSUNAMI」の大ヒット以降
あからさまに顕著になった気がする
産業ロック化というか、
出す曲出す曲が売れ線の再生産にしか
思えなくなってきたことが大きい。サザンが大好きだった理由も
同じようにいろいろあるのだけど
桑田佳祐の根底の部分にある
様々なものに対する「切実さ」みたいなものが
一番好きだったんじゃないかと思う。巨大化していく桑田佳祐
電通化していくサザン桑田佳祐本人も常日頃、
そんな状況に対しての違和感を表明しつつも
プロレスラー気質の彼らしく
みんなが求めるサザン像に見合う
トップロープ最上段からの大技を繰り出し続け、
一方で、それに抗うような地味な関節技も
仕掛けてバランスを取ろうとした。そのメジャーゆえの苦しみと闘う
桑田佳祐が好きだった。
切実な叫びがいつも聴こえる気がした。けれど、「TSUNAMI」以降(だと思う)、
プロモーションの更なるスケールアップとともに
桑田佳祐の声は、切実なものに聴こえなくなってしまった。
聴く側の変化もあるのかもしれないけど、
桑田佳祐の中で何かが変わってしまったような気がした。
何かを諦めてしまったとでもいうか。
それとともにサザンインポ化は深刻になった。自己模倣をしているかのような新曲達。
切実さが感じられない形だけのラブソング。
大メジャーになったがゆえの保守感。
…偏見かもしれないが、
俺にはそう思えてきてしまった。
それは悲しいことだった。「女呼んでブギ」の頃のような
切実な性衝動を歌うことはもう年齢的に無理かもしれない。
「いとしのエリー」のような
リアリティのある恋愛の叫びはもう書けないかもしれない。
でも、今の年齢に見合った切実さもあるはずだ。
まだ前に進むことはできるはず。
ビートルズだって、前へ前へと進んだじゃないか。
(で、解散してしまったけど)
もっと違う曲を聴かせてほしい。ずっとそう思っていた。
で、「東京」である。
表題曲「東京」は、前回のソロ「孤独の太陽」の続編、
といったかんじで新しさは感じなかったけど、悪くない。
ただ、それよりも、わざわざこの暗く内省的な曲を
メインに持ってきたことに意味があるのだと思えた。2曲目「夏の日の少年」は、なにかのCMで
サビだけはよく耳にしていたけれど、
「あ〜またこれ系ね」と思い、正直好きじゃなかった。が、CDでちゃんと聴いてみると意外によかった。
しかも歌詞を読むと、現在の自分を否定しているような
えらくネガティブな自己嫌悪を歌ったような曲だった。
今の桑田佳祐の切実な本音に思えた。
それが、なんだか無性に嬉しかった。で、次は一転して「稲村ジェーン」を思わせる
軽快なDJ風つなぎ曲「EBOSHI RADIO STATION」が入り、
オールディーズ風な王道サザン路線「可愛いミーナ」になる。
コカコーラのワールドカップCMソングだ。
これもCMではやっぱり「ああ、またこれね…」と思ってしまって
あまり好きになれなかった。むしろ、嫌いだった。なのだけど、これもちゃんと聴いてみるといい。
ワールドカップの試合終了後にもかかっていたせいか、
この6月がいきなりノスタルジックな想い出となって
ワールドカップの様々なシーンが甦ってきた。
祭りの終わりのような、せつない気持ちになってしまった。
W杯のことは別にしても、甘酸っぱい良い曲だった。この4曲入りのCDを聴き、
桑田佳祐がこっち(どこだろう?)に
帰ってきたような気がした。
やっぱり今もふたつでベクトルの狭間で揺れていた。
“鏡の真ん中に汚れた僕がいる
幸せの暖炉に跪き 嘘と妥協に心を灯す”(夏の日の少年)“帰らぬ夏の想い出に 現在を生きる”(可愛いミーナ)
葛藤、諦念、あるいは開き直り…
現在の桑田佳祐の様々な思いが込められた一枚に思えた。
久しぶりに桑田佳祐の声が、せつなく切実に聴こえた。
濡れたぜ乾杯!
(つづく)