タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎

はガガーリン空港へ行く」を主宰している男
の書く生活記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。

>>
これまでの記録


<155> 8月19日(月)

■■ 代官山は別の顔 ■■



ひさしびりに代官山を訪れた。

最後に来た時には、
取り壊し中ではあったけど、
まだ「同潤会アパート」があったから、
何年かぶりである。

東横線の代官山駅を降りて、
俺は混乱した。
「どっちに歩けばいいんだ!?」

本当に、右も左も、北も南も、
どっちが渋谷でどっちが恵比寿かも
わからなかった。

取材先のお店の地図はもっていたものの、
方角がわからないと歩きようがない。
砂漠で磁石をなくしたような状態だった。

もともとそれほど縁のない街だったけど、
この変わりようは、すさまじすぎる。

俺にとって代官山は
「同潤会アパート」のある街だった。
あの一帯を中心として、
街の地図が頭に中に組み込まれていた。
あそこが代官山の「へそ」だった。

それがなくなってしまった今、
この街はまったく見覚えのない
見知らぬ場所に変貌していた。

アゴが長くないアントニオ猪木、
背の低いジャイアント馬場、
丸顔で二本足の王貞治
…それはもう別人である。

代官山はそんな別人になっていた。
のっぺりした顔の。

通り名と地図を照らし合わせて、
なんとか進むべき方向がわかったが、
見知らぬ外国を歩いているような感覚だった。

カフェやらセレクトショップやらが
びっしり並んだ通りを歩く。
こんな道あったっけ?

昔、少しだけ親しかった女の子と再会したら、
整形手術で別人のようになっていて、
会話しててもどうにも落ち着かない、
そんな気分だった。

入り組んだ路地にある目的地に着き、
(ここはなかなか素敵な場所だった。
 なにしろリスがいるそうだ)
取材を終えて、別の道を歩いて帰る。

ここも見覚えのない店ばかり。
いったいどこなんだ、ここは?

でも少し歩くとドガーン!!!!
とそびえる緑色のゴツくて古いビルが見えた。
「ゴルチェだ!」

ようやく少しホッとした。

それにしてもねえ…

表参道も近い将来
こうなっちゃうんだろうなぁ。

プラダだかヴィトンだかエルメスだか
その手の店をじゃかすか作るのもいいけど
「同潤会アパート」がなくなったら
もう表参道じゃないよなぁ。

ていうかそんなの全然オシャレじゃないぞ!

でもきっとそうなる。
とても哀しい。


(つづく)





[トップへ]