タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎
「狼はガガーリン空港へ行く」を主宰している男
の書く生活記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。
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＜159＞ 9月3日（火）
■■ ついてない日 ■■
また昼めしの話です。
日曜日は偶然入った店で
幸せな思いができた俺でしたが、
昨日は一転して不快な目に。
食事に出かけたのが３時すぎだったので
ほとんどの店はランチタイムが終わっていた。
しかも自分で何を食べたいのか思い浮かばず
何の気なしに、まだ営業していた
近所の小さな洋食屋に入った。
ハンバーグ定食を注文。
客はひと組しかいなかった。
初老の男性と中年の女性だった。
男性はスキンヘッドで
ギョロっとした目をしていた。
タコ焼きのCM出演で話題のレフェリー
あのコリーナさんに似ていた。
コリーナ（仮名）と連れの女性は
口論していた。
どうやらコリーナは何かの会社の経営者で
女性は現場の管理をしているらしい。
とにかく二人は激しく言い争っていた。
まあ他人のことだし、
喧嘩しようが何しようが
あっしには関係のない話
…と思っていたが
なにせ小さいお店だし
二人の声が大きいので響く響く。
しかもコリーナの話し方は不快だった。
相手の話に一切聞く耳を持たない
日常的に威張ることに慣れた人の口調。
聞いているだけで不愉快になる。
「この店、失敗だった…」
もう何も食べずに帰りたくなったけれど。
調理場からジュジュッと肉の焼ける音が聞こえてくる。
いまさら帰るのは失礼だよなぁ。
意識的に聴覚を遮断して
読んだいた雑誌に集中しようとしたが、
ますます大きくなる二人の声ばかり聞こえてきて
全然文章が頭に入ってこない。
商売上、もっと客を欺いて
儲けるのがプロだろう
そんなこともわからねえのかおめえは！
…要約すると
コリーナの話はそんなかんじだった。
「でも…！」と抵抗する女性。
話は堂々めぐりしていた。
ハンバーグが運ばれてきたものの、
他人の喧嘩がわんわんと聞こえていては、
まるで味がわからない。
ちっともおいしくない。
だんだん腹がたってきた。
なぜ俺がお金を払って、
こんな不快な思いをしなくちゃいけないんだ。
洋食屋は腹を満たす場所であって
腹をたてる場所じゃない。こんなの理不尽だ。
「あんたたち、ケンカはよそでやってくれないか」
そんな風にシブく言えるといいんだろうけど、
できないよなぁ。キャラ的に似合わないし。
が、このままではハンバーグが半分以上
なくなってしまうというあたりで
ポロっと言葉が出てしまった。
「すいませんが、ケンカするならもっと静かにやってください。
料理がまずくなります」
もうちょっと他に言い方があったかなとも
思ったが、もう言ってしまった。
「んだとぉコラァ！表に出ろ！！」
…という反応を覚悟していたが、
意外にもコリーナは謝ってきた。
「すいませんでした、でもケンカじゃないんですよ（笑）」
そして、二人は３分間ほど無言になった。
いきなり店内はシーンとした。
俺は食べ続ける。もぐもぐ。
そして二人はそのまま会計をすませ店を出ていった。
店を出る前にもう一度コリーナは
「申し訳なかったですね」と謝ってきた。
「いえいえ…」と俺も返事した。
乱闘騒ぎとかにならず正直ホッとしたが
人に文句を言うのも気分のいいもんじゃない。
もやもやした気持が残ったまま
全部食べ終えて（結局、味がしなかった）
俺も店を後にした。
ついてない日だ…、と思った。
昨日はおまけに
クーラーの調子も悪くなり、
本棚のスライド部が故障して動かなくなった。
何から何までついてない。
仕事もはかどらなかった。
つまづきの始まりは、
あの店に入ったからだろう。
そもそもあの店に入ってしまった理由は
ランチタイムを逃したから。
逃がした理由は、寝坊だ。
寝坊したおかげで
すべての行動が遅れ遅れに
なってしまったのだ。
だからこんなことに。
俺は心に誓った。
「明日は早起きするぞ」
（つづく）