タイトル■狼男の記録
書き手 ■谷田俊太郎
「狼はガガーリン空港へ行く」を主宰している男
の書く生活記録でがんす。略して「狼男の記録」。
狼男といえば、「ウォーでがんすのオオカミ男♪」
でおなじみの「がんす」でがんす。でも面倒くさい
ので、本文では「がんす」は省略するでがんす。
>>これまでの記録
<171> 12月3日(火)
■■ ボブ・サップ!ボブ・サップ!ボブ・サップ! ■■
朝、新聞を開く。とりあえずテレビ欄を見る。
そして思う。「うわ〜っ今日もだよ」
ここ数週間、その文字を、その顔を
見ない日はないような気がする。
“ボブ・サップ”
今日もふたつ見つけた。
「ジャンク 野獣ボブ・サップ登場」
「サイボーグ魂 ボブ・サップ分析」土曜日も日曜日も月曜日もテレビでボブ・サップを見た。
“めちゃイケ”でも新庄を押しのけて主役だったもんなぁ。家人によると、彼女の会社でも
プロレスにも格闘技にもまるで関心のない人たちが
「ボブ・サップ!ボブ・サップ!ボブ・サップ!」
と熱にうかされたように話をしているそう。そりゃあそうかもなぁ、あれだけテレビに出まくってれば。
今や格闘技界を越えて、世間的にいっても
ボブ・サップは一番の売れっ子タレントになっている。
今やテレビ界は、ボブ・サップ大フィーバー。なにしろこの1ヵ月の間に約40のテレビ番組に出演していて、
200件の取材依頼と20件のCM出演依頼があるそう。
先週は「ぴあ」の表紙にもなってたんじゃないかな。もう「すごすぎる」の一言。
日本人・外国人を問わず、これだけの人気者になった
プロレスラーや格闘家なんて今まで誰もいない。2m170Lの巨体で、怪物みたいなんだけど、
実はインテリジェンスもあって、
愛嬌があってかわいくて、
笑いも恐怖もなんでもござれ。どんな番組に出ても場の空気が読めて
求められているキャラをきちっと演じきることができる
最高にクレバーな、プロ中のプロ。
言うことなしの完璧なスターなんだよな〜
売れっ子になるのも当然というか。それでいて今も
山手線に乗って移動してるっていうんだから
憎めないよなぁ。そして、本当に強い。マジに強い。ミラクルなほど強い。
なにしろボブ・サップは、この半年間だけで
K-1で一番の選手、アーネスト・ホーストにも勝ってるし、
プロレスで一番の選手、グレート・ムタにも勝ってるし、
PRIDEのチャンピオン、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラにも大善戦していて、
たぶん今年の年間最高試合に選ばれるはずの超名勝負をしてるんだ。これはホンッッッッッッッッット〜〜〜にすごいことなんですよ、奥さん。
ドがつくほどスゴイことなんですよ。
突然現れて、マット界の3大ジャンルをあっという間に制覇しちゃったんだから。それぞれルールも違えば、戦い方も異なる別々の競技で
どのチャンピオンとも戦えるだけでも奇跡としか言いようがないのに
2人のチャンピオンには勝っちゃってるんだから。で、もっともっとすごいのは
ボブ・サップはまだデビューして、まだたった半年なんだよね。
それまでは、完璧にまったく知られてない存在だったし、
アメフトを辞めた後は、プロレス界に入ったんだけど
鳴かず飛ばずの2軍選手だったんだもんなぁ。
それが突如、本当に突然、大ブレイクしちゃった。何の段取りもなく、特に売りだされたわけでもなく、
自分の力だけで夢を掴みとっちゃった。正真正銘の突然変異というか
空前絶後のポッと出というか
奇跡のジャパニーズドリームなんですよ。こんなアンビリーバボーな夢が
現実にあり得るってことを見せてくれたことが
ボブ・サップの最大の功績なんだろうなぁ。永ちゃん以来の史上最大の“成り上がり”ですよ。
新世紀になったにもかかわらず
世紀末的だとか言われる、この夢のない時代に
思いがけない巨大な夢を見せてくれているのが、
きっとボブ・サップなんだ。ボブ・サップ
それは21世紀のリアルな夢のかたち
時代が望んだ新しい希望のすがた
ユー・アー・グレーテスト
ユー・アー・ミラクル
ユー・アー・ドリーム
…ポエムまで浮かんできてしまったよ
ってポエムか、これ。まあ、いいや。そんなボブ・サップの今年最大の大勝負がいよいよ近づいてきた。
K-1ワールド・グランプリ!もうチケットは完売してて当日券もないっていうんだから、
これまた前代未聞。たぶん東京ドーム史上最高の観客動員になるはず。
それもすべてボブ・サップ効果ってのが、すごすぎる。さあ、時代を味方につけたボブ・サップは
果たして優勝できるのか?
見どころはもうこの1点に尽きるでしょう。しかも1回戦は、因縁の相手アーネスト・ホースト。
“スリータイム・チャンピオン”と呼ばれてるホーストは
3度もグランプリを制覇している、
間違いなくK-1で世界最高の技術を持った選手。にもかかわらず、初対決で
ド素人のサップにまさかの敗北を喫してしまった。もしも二度もポっと出のド新人に負けるなんてことがあったら
ホーストは自分の人生を完全に否定されるようなもの。
すべての努力が、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄〜ッ!と
決定づけられてしまう、本当に恐ろしいことなのだ。「俺の人生ってなんだったんだ…」
とアムステル川に身を投げてしまったって誰も責められない。
これはもうホーストにとって
全人生・全人格を賭けても負けられない一戦だ。いや、グランプリに参加する全選手が同じ気持に違いない。
何年も何年もコツコツと努力して身につけてきたことが、
サップ一人のおかげで全否定されようとしてるんだから。これを自分に置き換えてみたら
こんなにつらいことはないよ。仕事でも恋愛でも何でもいいけど
ある目標に向かってコツコツ地味にやってきた努力が
たった一人のおかげで
すべて否定され、台無しにされようとしてるんだから。あるいは、30年ローンでやっとの思いで建てた念願のマイホームが
一瞬の暴風雨であっという間に吹き飛ばされてしまいそうというか。で、ここで考えてしまうのは
自分はこのサップvsホーストに、K-1に、
どんなことを期待してるのかってこと。コツコツ地味に生きている自分としては
サップ以外の選手の方が感情移入しやすいから
誰かがサップを倒してくれるシーンを
心のどこかで望んでいるような気がするんだけど
なんかそれも古い価値観に縛られているみたいで
ダサイかなぁって気持もあったりして…サップが一気にこれまでの世界をぶち壊して
奇跡みたいな夢が本当にあるって現実を
ドカーンと見せてくれる方がいいのかもしれない
なんて思ったりもしつつ…でも、とりあえずサップは決勝までいくけれど
現在のK-1の象徴であるジェロム・レ・バンナには負ける、
ってストーリーの方がベストかなぁ
なんて妥協案も考えたりしつつ…う〜ん、迷う、迷うよ、何を望んでるんだ、オレ!
わからん、わからないんだ、わからないんですよ〜!
これはもう自分の生き方を問われてるというか今回のK-1グランプリで自分の心の正体が見える!?
ボブ・サップは自分の願いがわかるリトマス試験紙?オレが、アナタが、
望むのは、見たいのは
どんな結末?サップの優勝?敗北?
才能がすべて?努力は力なり?
(いや、サップはすごい努力家でもあるんだけど)
まったく新しい価値観?今まで大切にしてきた価値観?
破壊?保守?
それとも、ある程度の妥協案?
…さあ、今のアナタが選ぶのは、DOTCH?
…勝利の女神がほほえむのは、DOTCH?
…時代のこたえは、DOTCH?すべての答が出るのは、今週土曜日、12.7.東京ドーム!
まったなし!!
(つづく)