タイトル■突刊マット
書き手 ■谷田俊太郎


マット界(プロレス・格闘技界)に関する
読み物企画です。書き手も内容もいろいろ!

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リレー式エッセイ
さよならリングス特集(3)

2月15日・横浜大会を最後にリングスが解散します。
ただ黙って見届けるのは、ちょっとさびしぎるので、
リングスが好きだった人達何人かに、解散の日まで
リングスへの思いをリレー方式で書いてもらいます。
投稿も大歓迎です。tanita@dp.u-netsurf.ne.jp 迄どうぞ。

というわけで早くも解散当日。
今回は主催者である僕が書きました。




<2002.2.12>
さらば!最後の「団体プロレス」


「只今よりィ!
 ファイティング・ネットワーク
 リングス!
 ワールドタイトルシリーズ!
 グランド・ファイナルを開始いたします!」

カン…カン…カン…カン…カン…!(ゴング)

本日19時すぎ
横浜文化体育館では
古田リングアナによる毎度おなじみ
新劇調の大袈裟なマイクが響き渡り、
今日で解散となる
リングス最後の大会が始まるはずです。

とうとう、この日がやってきてしまいました。

年末に突然の解散宣言を聞き、
思いっきり、それこそ
地球の裏まで落ち込みましたが、
約2ヵ月半の時間を置けたことで
気持ちは落ち着きました。

なんにでもムキになる
前田日明の生き方をお手本に
ムキになって落ち込んだのが
功を奏したようです。

終わりは始まり。
グットバイから始めよう。

今日はリングスの
死と再生、
その新たなる旅立ちの日と
考えることにします。

さらば「団体」の時代!
本格的な「個」の時代の幕開けです!

勝手に自分の人生を重ね合せるならば、
僕の20代の始まりに
リングスも旗揚げ。
僕はフリーター生活に
別れを告げ、会社に入った。

約10年、時が流れた。

そして30代が始まり、
僕は会社を辞め、フリーになり、
リングスもまた解散。

「集団」から「個」へ。

不思議なほど歩みが一致する。

お得意の激しい思い込みとは
承知してますが、
今日くらいはそんなセンチな
気分に浸らせてほしい、
…ってゆーか、浸る!

リングスは僕にとって
最後の「プロレスらしいプロレス」を
見せてくれる「団体」だった。

絶対的なエースである日本人がいて、
次々にやってくる未知なる強豪外人を迎撃する
…それが僕にとっての「団体プロレス」だ。

猪木が第一線を退き、
長州の台頭に始まった「日本人対決」全盛時代以降、
そういう「プロレス」は他になかった。

プロレスの本場・アメリカの地位が
日本では失墜し、80年代後半から90年代前半は
外人レスラーに夢がなくなっていた。

そんな中、リングスは
オランダ、ロシア、グルジア、オーストラリアなど
プロレス界的には辺境の地から
「デカくて・強くて・個性豊かな」外人を
次から次へと連れてきた。

彼らは一人もプロレスラーではなく、
柔道家、空手家、キックボクサー、サンビスト
だったが、近年のプロレスラー以上に
プロレスラーぽかった。

しかも、オランダの用心棒だったり、
ロシアの大統領のSPだったり、
中には実は弁護士なんてのもいたりして
リングスは、作為的に作ったわけじゃない
「リアル」なキャラクターの宝庫だった。

そして大技のインフレ
レスラーの小型化が進んでいた
プロレス界にあって、
リングスで繰り広げられる
大男同士のゴツゴツとした
殴る、蹴る、極める、のみに
終始した感情ムキだしの攻防は
新鮮だった。

力道山時代のプロレスは
こういうものだったのかもしれないな
と思った。

強くて怖い外人を
強い日本人が倒す、
これがそもそもの
日本のプロレスの醍醐味だったはず。

前田日明が
世界の強豪を迎え打つという
シンプルな構造のリングスは、
プロレスではなかったにも関わらず、
本来のプロレスの面白さに
重なる部分が多かったと思う。

そしてそれは
前田の引退試合、
世界格闘技界の大物中の大物
人類ヒト科最強と言われた、
アレクサンダー・カレリンとの
戦いで広く世間にもアピールできた。

前田引退以降は、
小さな日本人がデカくて強い外人を
迎え撃つという構造に変わったけれど、
基本的なリングスの魅力は変わらなかった。

その魅力は今では
「PRIDE」に引き継がれたようにも思うが、
見たことも聞いたこともないような
無名の強豪外人がビックリ箱のように登場する
リングス独特の面白さは継承できないだろう。

…あれ、話が脱線してきたかな?

えーと何を書きたいんだったっけ?

ともかく、情報過多な現代にあって
どこか時代錯誤的、秘境的であった
「リングス」という「空間」が
好きだったんです。

言葉足らずですが。

地味で野暮ったくて、でもやたらに強い外人達も、
それに小さな体でひたむきに立ち向かっていく日本人達も。
とにかく「リングス」という空間に
参加するすべての人達を好きになれた
自分にとって特別な「団体」だったのです。

もう、そんな風に好きになれる
「団体」は出てこないだろう。

「個」が「場」を選んで
生きていく、そういう時代になるんだろう。

だから、リングスの解散は
時代の必然だと思うことにしました。

これからは、「個」として「場」に出ていく
リングスに参加していた選手達それぞれを
応援していくことにする。
前田日明ももちろん応援し続けけます。

だから今日は
終わりと始まり。

最後の、自分にとっての「団体プロレス」を
思いきり味わってきたいと思います。

あの薄暗くて垢抜けない
でもほんのりあたたかい空気を
たっぷり満喫してこよう。

そしてリングスの選手達の
新しい門出を見守ろう。

うーん、全然言い足りないけど
今はそんな気持ち。

でもきっと
全然センチな雰囲気じゃなく
今日もぶっきらぼうに
普通に大会は終わるだろう。

でもそれにはもう
慣れっこ。
それが前田日明の
ダンディズム。
それがリングス!

それでいい。

「これを持ちまして!
 ファイティング・ネットワーク
 リングス!
 ワールドタイトルシリーズ!
 グランド・ファイナルを終了いたしますッ!」

最後の古田リングアナの
声を聞く時、
僕はどんな気持ちなんだろう。

カン…カン…カン…カン…カン…カン…カン…カン…カン…カン…!

さて。

大奮発して買った
2万円の特別リングサイド席が
俺を待ってるぜ。

行ってきます!

※今、書き終えて日刊スポーツを見たら
 「前田社長、傷害罪で起訴」の見出し。
 こんな日にこんな報道をされるなんて、
 前田日明はなんてどこまでも前田日明なんだ…。

 






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