タイトル■突刊マット
書き手 ■谷田俊太郎


マット界(プロレス・格闘技界)に関する
読み物企画です。書き手も内容もいろいろ!

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<第15回 2002.8.27> 8.28 Dynamite! 前日
いよいよ明日、桜庭vsミルコ!
真夏の夜にサクが咲く!

史上最大の格闘技ワールドカップ
「Dynamite!」が、いよいよ明日に迫った。

格闘技界初の国立競技場での開催!
格闘技界初の10万人規模の興行!
格闘技界初の「K-1」「PRIDE」完全合同興行!
柔道金メダリスト吉田秀彦、初参戦!

…などなど「初」や「!」だらけの
真夏の夜の他流試合スターウォーズ!
史上空前のサマーナイトフィーバー!

難航していた全試合のラインナップもようやく決定した。

ドン・フライの相手がマーク・ハントからジェロム・レ・バンナに変更!
シウバの相手は、極真空手の岩崎達也に変更!
急遽、松井大二郎も出場が決定!
聖火リレーの最終ランナーはエリオ・グレイシー!
猪木が3000メートルの上空から闘魂ダイブ!
…などなど、今朝の新聞を見るとトピックスも山盛りだ。

が、正直そんなことはどーでもいい!

アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラvsボブ・サップ!
究極の技が勝つか、究極の力が勝つか!? 

注目の一戦だが、正直それもどーでもいい!

吉田秀彦vsホイス・グレイシー!
柔道vs柔術!50年越しの因縁試合!

必見の一戦だが、正直それもどーでもいい!

どうでもよくない試合はただひとつ!

桜庭和志vsミルコ・クロコップ!!!
これだけである。

桜庭が勝ってくれること!
大事なことは、これだけだ。

明日に限っては、サクさえ勝てば、
あとの全試合が大膠着の大凡戦だってかまわない。
それくらい桜庭の勝利は最重要問題なのだ。

「K-1」「PRIDE」の2大人気ジャンルによって
格闘技はここ数年、空前のブームを迎えている。

民放各局も格闘技はキラーコンテンツと認識し、
昨年大晦日の「イノキ・ボンバイエ」(TBS)や、
先日の「小川直也vsマット・ガファリ」(日テレ」など、
テレビ局主導型のビッグイベントを開催するようになった。

かつてドマイナーだった格闘技というジャンルは
今や、一般的話題としても十分通用する
超メジャーなスポーツへと変貌しつつある。
いや、した、と断言してもいいかもしれない。

だが、ぐんぐん伸びていく遠心力とは反比例して
肝心のソフト自体の求心力は落ちていく一方である。

なぜか?
日本人が勝てなくなったからである。

日本は異常といっていい
格闘技大国である。
その礎を作ったのは、誰だろう。
力道山だ。

悪いガイジンを日本人がやっつける!

このシンプル極まりないコンセプトが、
敗戦のショックから立ち直ろうとする日本人に
勇気と感動を与え、
異常ともいえる社会現象を巻きおこしたのだろう。

それが50年以上がすぎた今でも
プロレスや格闘技が特殊な人気を
保っている要因になってるはずだ。

時代背景が変わった今でも、
日本人が最も熱くなれる根本的なものは変わってない。
それは先のワールドカップでも改めて証明された。

やっぱり、悪いガイジンを日本人がやっつける!
このコンセンプトが一番燃える。

まあサッカーの場合、悪いガイジン、というのは当てはまらないが、
もしベルギーやロシアやトルコが憎らしい国というイメージがあれば、
ワールドカップ・フィーバーはあんなものではすまなかったろう。

日本人に限った話ではなく
良し悪しはともかくとして
要するにナショナリズムというものほど
心を熱くさせるものは他にないのだと思う。

そう考えると、人間は本質的に
戦争を欲している生物なのかもしれない。
今はその代わりとして、スポーツや格闘技が
人気を集めているのだろう。

で、桜庭和志vsミルコ・クロコップである。

桜庭和志が、これほどの人気者になったのはなぜか?
悪いガイジンを倒し続けたからである。

悪いガイジンとは、グレイシー一族である。

「なんでもあり」と呼ばれる総合格闘技という
新しいジャンルにおいて、日本人は負け続けた。
特に、グレイシー一族には負け続けた。
誰も彼もが負け続けた。

そこに現れたのが、桜庭だ。
桜庭は、日本人にとって憎むべき敵となった
極めつけの“悪玉”グレイシー一族を次々と倒していった。
そして、救世主と呼ばれるようになった。

桜庭は“平成の力道山”なのだ。

特に20世紀最大の名勝負と名高い
2000年のホイス・グレイシー戦では、
90分を超える死闘の末、
「絶対にギブアップしない」と公言して
はばからなかったこの一族に
タオルを投げさせた。

ここが日本の総合格闘技史の
最終回だったら、どんなに素晴らしかったろう。

現実というものの厄介な点は、
終わりがないことだ。

時間とはエンドレス。止まってはくれない。
「つづく」「つづく」「つづく」
果てしなくつづいていってしまう。

その後、
船木誠勝がヒクソン・グレイシーに敗れ、
石沢常光がハイアン・グレイシーに敗れた。
時間はまた、引き戻された。

それでも、日本には桜庭がいる。
これが我々の心のよりどころだった。

だが、悪夢が訪れる。
2001年3月、桜庭はまさかの伏兵ヴァンダレイ・シウバに敗れた。

アクシンデントだろう。多くの人はそう思おうとした。
だが、同年11月。
リベンジを挑んだ桜庭は再びシウバに敗れた。
絶望の時代の到来である。

桜庭だけではなかった。
これと前後して、日本人総合格闘家は
再び外国人に勝てなくなってしまった。

悪夢は連鎖するのか?
もはや名前を挙げるとキリがないほど、
日本人は対外国人において敗北し続けている。

レベルが上がりすぎてしまった
総合格闘技の現状において、
日本人が勝てる可能性はもう絶望的だ。

希望を託せる選手は、もう誰もいない。
そう断言してもいい状況である。

そして、そんな中、
桜庭に土をつけられ商品価値を落としてしまった
グレイシー一族に代わって、
急激に台頭してきたのが
K-1のミルコ・クロコップだ。

桜庭に続く、日本期待の“総合の星”だった
プロレスラー藤田和之との他流試合で、
まさかの勝利を得るや、快進撃を始めた。

高田延彦、永田裕二、中迫剛を次々と撃破。
昨年のK-1王者マーク・ハントからも勝利を奪い、
桜庭を破った、PRIDEミドル級王者
シウバとも対戦し引き分ける。

“プロレスハンター”ミルコは、
今や最大の賞金首となった。

憎々しい発言を連発する
このクロアチアの特殊警察官は、
キャラクター的にも、
ヒクソン・グレイシー以来の
“憎める”ガイジンである。

このミルコと、復活を賭ける桜庭が闘う。

最も憎いガイジンと、日本の救世主の一騎討ち!

これほど燃えられるシチュエーションの試合は、
もう当分ないだろう。
日本人vs外国人の頂上対決だ。

“悪いガイジン”がなかなかいなくなった
昨今において、ミルコは貴重な悪玉。

一方、桜庭は究極のベビーフェース。善玉。

善対悪の最終戦争。
ウルトラマンvsゼットンみたいなものだ。

シウバに2連敗したとはいえ、
桜庭だけは、まだ可能性を感じさせてくれる。
最後の、本当に最後の“希望”だ。

だが、もしも負けるようなことがあると、
桜庭でさえも、一気に「並」の選手という評価に
急降下してしまうだろう。

そして我々はもう誰に期待することもなく
外国人同士の対決を「クールに」「それなりに」楽しむような
観戦スタイルに切り換えざるを得なくなるだろう。
多くの人にとっての、あのワールドカップ決勝戦のように。

イチローが出るからメジャーリーグに注目する。
日本代表が出るからワールドカップに熱狂する。
そういうものだろう。

もしも日本人が出場しないオリンピックがあったら、
果たしてどのくらいの人が見るだろう?

桜庭が負ければ、盛り上がった格闘技熱は
急激に冷めていくことになるはずだ。

外国人同士が戦うだけの総合格闘技は、
ウルトラマンがいなくなって、怪獣同士が戦うだけの
『ウルトラマン』という番組と一緒である。

そして我々にとってのヒーローは、
日本人のプロレスラー、でなくちゃ困るのだ。

だから、吉田秀彦じゃなく
桜庭和志なのだ。

我々にはもう後がない。

小川直也にもはや期待できなくなった今、
本当に日本には、桜庭しかいない。

まさに総合格闘技の未来を賭けた一戦だ。
この試合の命運が、多くの人々の
今後の格闘技観を決定することになる。

もっと大袈裟にいっちゃえば、
我々の今後の人生観さえも左右するだろう。

たのむぞ、サク!

心からそう叫びたい心境である。

だが、桜庭ならやってくれる。
そういう予感がある。

ニコニコして勝利者インタビューに
答えている桜庭が見える。
10万人の歓喜の声が聞こえる。

真夏の夜にサクが咲く


そんなシーンが見える。

見せてくれ、サク!
咲いてくれ、サク!

星に願いを
サマーナイトフィーバー・イン国立

みんな、心の街頭テレビにかじりつけ!

ん〜ダイナマイッ!!




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