タイトル■突刊マット
書き手 ■谷田俊太郎


マット界(プロレス・格闘技界)に関する
読み物企画です。書き手も内容もいろいろ!

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<第20回 2002.12.27> 
年間ベストバウト&MVPおよび各賞発表!



さて、2002年も残すところあと4日!

まだ大晦日のイノキ・ボンバイエが残ってますけども
(ちなみに29日のZERO-ONE後楽園も)
ここらで僕が個人的に選ぶ、年間ベストバウト&MVP
および各賞を発表させてもらいます!

思い出してみると、リングスの解散、
衝撃の田村PRIDE参戦、そして惨敗
と哀しみ色に染まった今年のスタートでした。

けれど、史上空前の真夏の夜の夢
「Dynamite!」大大大爆発をキッカケに
K-1GP、PRIDE23など、
下半期はビッグイベントがすべて大成功!

ボブ・サップ&吉田秀彦という
超ド級の新人(?)の大活躍もあって
名勝負のオンパレードとなりました。

そんな中、WRESTLE-1という新しい実験も始まったり
もはや封印していた“UWF”という青春が甦ったり、
現在・過去・未来すべてのベクトルが交錯して
それぞれが光を放つという、なんとも贅沢な1年でした。

まさに格闘新世紀!黄金の2002年!無限大記念イヤー!

そんな今年でしたが、
まずは、大豊作だった名勝負の数々から
BEST10に絞って振り返ってみました。


<2002年・我が心の名勝負BEST10>

ドン・フライvsケン・シャムロック(2月24日/PRIDE19/さいたまスーパーアリーナ)
 互いに憎みあっていた男同士の壮絶な決闘!そして芽生えた友情!まるで西部劇のような展開に涙。 
 ちなみにうちの家人が選ぶ、今年のベストバウト大賞。

ザ・ロックvsハルク・ホーガン(3月18日/レッスルマニア18/カナダ・トロント・スカイドーム)
 新旧スーパースター対決は、プロレスの持つファンタジー性が大爆発!まるで神話のような試合だった!

アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラvsボブ・サップ(8月28日/Dynamite!/国立競技場)
 サップのケタ外れのパワーで絶対絶命だったノゲイラが、まさかの奇跡の逆転勝利!
 かつての猪木の名勝負を彷佛とさせるようなプロレス的な面白さを堪能!これこそ現代のプロレスだ!

桜庭和志vsミルコ・クロコップ(8月28日/Dynamite!/国立競技場)
 レスリングvsキックという異種格闘技戦らしい組み合わせ、かつ、典型的なベビーフェイスvsヒールという  
 プロレス的な明確な対立構造もあって、最高にスリリングだった試合!でも結果は残酷。せつなかった…

ボブ・サップvsアーネスト・ホースト(10月5日/K-1GP開幕戦/さいたまスーパーアリーナ)
 まさかサップがホーストに勝っちゃうなんて!K-1の常識を覆し、サップ大ブレイクのキッカケとなった記念碑的試合!

ボブ・サップvsザ・グレート・ムタ (11月17日/WRESTLE-1/横浜アリーナ)
 完成度はともかく、プロレスの未来形を感じた実験的な一戦。武藤のプロレスセンスにも改めて脱帽!

エメリヤーエンコ・ヒョードルvsヒース・ヒーリング (11月23日/PRIDE23/東京ドーム)
 まるで公開処刑!ヒョードルの恐ろしさを満天下に知らしめた一戦!残酷すぎて今年最もブルった試合!
 
吉田秀彦vsドン・フライ(11月23日/PRIDE23/東京ドーム)
 まさかこんなに呆気なく吉田が勝つとは…!吉田のあまりに強さに声を失った。まいったよな、ホント…。

高田延彦vs田村潔司(11月23日/PRIDE23/東京ドーム)
 UWFという巨大な物語の終着駅!壮絶な高田の散り際!田村の男っぷり!まさに感無量!永遠に記憶に残る一戦!!

ボブ・サップvsアーネスト・ホースト(12月17日/K-1GP準々決勝/東京ドーム)
 ただただ興奮!感動!ホーストの王者の誇りと意地、サップのド根性と破壊力が奇跡のようなハーモニーを奏でた!!
 

★ ★ ★ 

…いやぁ、10試合に絞りこむだけでも難しかった!

ちなみにマスコミの間では大絶賛された「高山善廣vsドン・フライ」
僕としては予想の範疇内の試合だったので、あまり心に残りませんでした。
(東スポ認定の年間最高試合賞=高山vs永田はまったく記憶なし)

そう考えると、ここで選んだ10試合は、
展開が予想できなかった試合、
あるいは想像を超えた試合展開や結末だったものばかり。

やっぱりそれが「好勝負」と「名勝負」の違いかもしれません。
そういう意味ではこの10試合以外にも


小比類巻貴之vs須藤元気(2月11日/Kー1 JAPAN MAX/代々木第二体育館)
 K-1初挑戦とは思えない、須藤元気の底知れぬ天才性に仰天!明日のスターはキミに決定!!

ジェロム・レ・バンナvsマーク・ハント(5月25日/K-1/フランス・パリ)
 あなたたち本当に人間?二人の不屈の根性、信じられないほどのドツキ合いっぷりに震えた!

ジェロム・レ・バンナvsドン・フライ(8月28日/Dynamite!/国立競技場)
 バンナの強烈なパンチと、一瞬で壮絶に散ったドンの漢っぷりにシビれまくり!

などがあったし、さらに別腹として


和田良寛vsアステカ(3月30日/DEEP/愛知県体育館)
 レフェリー和田さんがまさかの試合出場!リングスファンを癒し、リストラ・サラリーマンの希望の星に!

ジェラルド・ゴルドーvsスティーブ・コリノ(5月3日/ZERO-ONE/松山市コミュニティーセンター)
 恐怖と笑いが共存した異次元対決の傑作!今年いちばん笑えた試合!!

佐藤耕平・崔リョウジvs坂田亘・横井宏考(5月23日/ZERO-ONE/後楽園ホール)
 かつての新日本vsUWFの対決を彷佛とさせた、緊張感あふれる抗争劇!

ハイアン・グレイシーvs大山峻護(9月29日/PRIDE22/名古屋レインボーホール)
 グレイシー一族の柔道への敵討ちというヤクザ映画チックなストーリーが抜群!ハイアンも男だ!

…このあたりの試合も記憶に残ってます。
まあ、ベストバウトに選ぶには、ちとプチスケールですけども。

そろそろキリがなくなってきたので、このへんで。

★ ★ ★ 

それにしても、やっぱりサップはすごい。
これだけ絞りこんでも4試合もエントリー!

ふつうに考えれば、年間ベストバウトも年間MVPも
サップが独占なんだろうなぁ。

でも、僕にとっては違いました。
いろいろ考えた結果、
やっぱり2002年はあの試合、あの男に尽きました!

というわけで、ぼちぼち各賞を発表します。


<2002年・俺が選ぶマット界各賞>

【年間ベストバウト大賞】
高田延彦vs田村潔司
(11月23日/PRIDE23/東京ドーム)

もうこれしかないでしょう!

高田の失神KO負け〜高田と田村のマイク〜高田とサクの王位継承儀式〜
サク史上最大の苦闘と勝利〜高田のマイク〜全選手リングイン〜大団円

反則かもしれませんが、この試合に関しては
この一連の流れすべてがワンセットでした。

衝撃的な失神KOという、壮絶な死に様を見せることで
図らずも22年間のプロレスラー人生のすべてを表現しきった高田
それを受け止めることになった田村の運命と苦悩、
結果的に介錯することになってしまった、せつない表情…
そして高田引退に我々の想像以上の思いを秘めていた桜庭…

この日、もはや修復不可能と思われていた
高田と田村の因縁が氷解したことで
約20年間のUWFの物語は最高のエンディングを迎えました。

まさかこんな日が来るなんて…!
高田と田村に限らず、UWFに関するあらゆる出来事、
旧UWF、新生UWF、Uインター、リングス…、
すべての伏線はここに繋がっていたんだと思うと
僕らも、これまで味わい続けてきた挫折や絶望や屈折…
そんなネガティブな記憶から遂に救われました。

あの高田vsヒクソンで味わった史上最大の落ち込み
長く続いた絶望のドン底からもやっと開放されました。

ヒクソン戦で「A級戦犯」の烙印を押された高田が
こんな形ですべてのケリをつけてくれるなんて!

もうあの敗戦も「どうってことねえよ!」と思えます。

高田は自分の引退試合で、光の消えかけていた田村も再生させ、
桜庭にバトンタッチすることで、新たな未来も見せてくれました。

もうこの試合は、ありとあらゆるものが内包されすぎていて
とても語りつくせないほどの巨大な物語。

試合自体のおもしろさや興奮度でいえば
サップvsノゲイラ、サップvsホーストだと思いますが、
これらの試合にはない、時間、記憶、といった要素が
この試合にとてつもない“深み”を与えていたのです。

たとえるならば、20年寝かせつづけてきた
極上のワインを一気に飲み干したというか。

まさに20年に一度しか見られない奇跡!

スポーツでも、バーリトゥードでも、
映画でも、ドラマでも、演劇でも、
他の何かでは絶対に味わえない
とてつもない感動!壮絶な人間ドラマ!リアルな物語!

この試合は、本当にプロレスが
他に比類なきジャンルだということを証明するような試合でした。
これこそが、理想の“真剣勝負のプロレス”です!

もう問答無用で年間ベストバウトに決定!!


【年間ベスト興行賞】
PRIDE23
(11月23日/東京ドーム)

夏が終わった時点では間違いなく「Dynamite!」で決まり!
と思っていたのですが、まさかあれを超える感動を味わえるとは!
2002年はとんでもない年でした。

サクvsミルコのPRIDE対K-1の頂上決戦に加え、
サップvsノゲイラの空前の名勝負、吉田秀彦の衝撃デビュー!
そして初の国立競技場での開催!9万人という記録的な大観衆!!

といったかんじで、スケールの大きさや新鮮さ、
マット界に与えた影響という意味では
「Dynamite!」は最大で最高級のイベントでしたが、
やっぱりここでもキーワードは、記憶と時間。

PRIDE23には、高田vs田村だけでなく、
“UWFの20年”という時間軸と記憶がすべて内包されていて
「Dynamite!」以上に壮大なスケールを感じました。

特に僕らリングス・ファンには感無量の大会でした。

見事なPRIDEデビュー戦を飾った怪物・横井
試合はともかく田村と和解してよかった!のヤマケン
ニンジャと世界最高レベルの技術戦を展開したアローナ、
負けはしたものの“らしさ”を発揮した金原
驚異的な強さを満天下に見せつけたKOK王者ヒョードル、
今や“世界最強”の名を欲しいままにするPRIDE王者ノゲイラ

…などなど元リングス勢が大活躍して
まさしく“夢のリングス・オールスター戦”でした。

彼らが5万人の大歓声を浴びている姿を見ていたら
リングスは解散して良かったんだ、と心から思えました。
そして、前田日明はやっぱり正しかったことを
多少複雑な思いもありながらですが、証明できたと思います。

また、そんな感傷的な思いだけでなく、
金メダリスト吉田秀彦が披露した底知れない実力は、
新時代の到来も感じさせてくれました。

オリンピック・クラスの実力者も交えて
真の最強を決めるUWF最終形が遂に完成したんだ!
そう改めて思えました。

そんな吉田やノゲイラやヒョードルという
べらぼうに強いリアル最強男たちも勢揃いしていたPRIDE23には
まさしく、UWFの現在・過去・未来、すべてがありました。

10年以上前に行われたUWF最大のイベントと言われる
“U-COSMOS”の完璧バージョンといってもいいでしょう。

UWFがなければ、このリングにいる選手は誰もいなかった。
約20年前、前田日明が旧UWFの暗い体育館で
「本当のプロレスをやりたい!」と叫ばなかったら
こんな光景を見ることはできなかった。

そう思うと、もう感無量も感無量、
20年分の喜怒哀楽がすべて昇華した夜でした。

“UWFに見た夢”が遂に実現した記念すべき日
それが、2002年11月24日、PRIDE23。

もう問答無用で年間ベスト興行賞に決定!!


【年間MVP】
高田延彦

では、そんなPRIDEを作ってきた男は誰か?
高田vs田村という奇跡の名勝負をプロデュースしたのは誰か?
PRIDEをUWF色に染めて、感動の一夜にした立役者は誰か?

すべて高田延彦です!!

自分はボロボロになりながら、
ひたすらPRIDEに心血を注いできた高田です!

いくらブーイングされてもリングに上がり、
無謀な挑戦な繰り返してきた高田です!

自ら人柱となってバーリトゥードを
メジャーなエンターテイメイトにしてみせた高田です!

そして、高田はとてつもないマジックを引退試合で見せてくれました。

高田はなぜ新日本プロレスからUWFへ行ったのか?
高田はなぜUインターと新日本プロレスの業務提携に踏み切ったのか?
高田はなぜ無茶を承知でヒクソン戦を行ったのか?
高田はなぜ負けても負けてもバーリトゥードを続けたのか?
高田はなぜ無様な負け方をしてもいつもさわやかだったのか?
高田はなぜあれほどまでに後輩レスラーに尊敬されているのか?
高田はなぜあれほどまでにPRIDEにプライドを持っていたのか?

などなど、高田は多くの謎にみちていたレスラーでした。
なかなか本音が見えず、誤解され続けてきたレスラーでした。
ヒクソン戦以降は“負”のイメージで語られてばかりいました。

特にUインター時代の後半やヒクソンに負けた時は
僕も散々罵倒したものです。
今考えれば、俺は何もわかっていなかった!
高田の魅力に気がついたのは、本当に最近のことです。


そして、高田はラストマッチでさらに新たな謎かけをしてきました。
吉田秀彦でも、ノゲイラでもなく、田村潔司を相手に指名!

“高田はなぜ引退試合に田村を指名したのか?”

それらのあらゆる謎のすべての答を、
数々の批判、ブーイングに対する答を
高田は最後の最後になって見せてくれたのです!

言葉ではなく、試合で!
しかも白目をむいて失神しながら!

高田は負のイメージで見られていたレスラー人生を、
たった1試合ですべて逆転させてしまいました!

まるで推理小説の大ドンデン返し!

こんな風にオセロゲームみたいに
最後の一手で黒を白にすべて変えられるなんてことが
人生にはあるんだ!と驚きました。

こんなにカッコイイ男はいない!
こんなに美しい生き方があるのか!
と感動しました。

誤解されてもいい、美しく生きろ!
最後にわかってもらえればいい!
というメッセージをビンビンに感じました。

これがダンディズムか!
とシビレました。

心から泣けました。

けれど、そんなプロレスラー史上最高の引退試合をしておきながら
あくまでも最後まで後輩・桜庭をたてる、最高の兄貴っぷり。

まさに男の中の男です!

もう問答無用で年間MVPに決定!!!


<その他の賞>

なんとなく蛇足っぽい気もしますが、
その他の各賞も一気にご紹介!

【超新人賞】
ボブ・サップ

一応、新人ってことで。説明は不要でしょう。

【裏MVP】
アーネスト・ホースト

サップを大ブレイクさせた功績は絶大。お前も男だ!
偉大なるフォータイム・チャンピオンに敬意をこめて。

【助演男優賞】
田村潔司

ありがとう!

【敢闘賞】
アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ

サップ、シュルトという怪物に2連チャンでぶつけられ、
いずれも一本勝ちしたことは素晴らしいの一言。
まさにリアル・アントニオ猪木。
かなりヤバかったPRIDE24を一人で救った功績も大。
さあ、ヒョードルとのKOK王者対決はどうなる!?

【お前が最強なのでは?賞】
吉田秀彦

ホイスとフライという、我々が幻想を抱いていた選手の光を
あまりにもあっさりと消してしまった無粋な男。
いったいどれほど強いのか?そういう意味では目が離せない。
そして我々は吉田を好きになれる日が来るのか?
それともヒクソン以来の大ヒールになるのか?
これが来年の大テーマでしょう。

【年間ベスト・プロデューサー賞】
石井館長


当然でしょう。素晴らしい夏の思い出、劇的なK-1をありがとうございました!
いろいろ大変そうですが、帰ってくる日をお待ちしてます。


【タイガーマスク賞】
ロウ・キー

まさに初代タイガーマスクのような
ファンタステックな動きにただただ興奮!
世界は広いな、大きいな。
マイナーな存在なのが惜しまれてならない。


【年間ベストマイク賞】
「田村…お前は男だ!ありがとう!」
(高田延彦)

「田村潔司!よく上がってきてくれたよ。よく嫌な役目引き受けてくれたよ」
「サク、お前はやっぱ男の中の男だよ」とセットで。

もう猪木の「ダー!」はいいから、今後は毎回、
高田がその日一番の選手に「お前は男だ!」と言ってほしい。
きっと新たなPRIDE名物になるはず。(?)


【年間ベストコピー】
「ついに来た“UWF”青春の終着駅」
(SRS-DX No.81)

素晴らしい。この言葉だけでジーンとしました。
さすがターザン山本さん。まさしく“Uはお前だ!”。


【年間ベストコラム】
「夫人が語る素顔の高田延彦 向井亜紀」
(『「高田延彦」のカタチ』収録)

涙がこぼれました。高田ファンならずとも必読です!
向井亜紀、あなたは女だ!


【永久追放賞】
ジル・アーセン

ガンジー以来の無抵抗主義者(東スポより)
お前はいったい何しに来たんだ…?


【年間ワーストイベント】
LEGEND
(8月8日/東京ドーム)

あれほど人のいない東京ドームを見たのは初めて!
しかもわずかな人もほとんどタダ券!(俺も)
あれは確かに、伝説だった…。
ガファリを世に送りだした功績(?)もあるけど、
小川に対するわずかながら残っていた期待感を
すべて消し去ってしまった罪はでかいよなぁ〜
とにかく川村社長、恐るべし!


★ ★ ★

というわけで、いろいろあった2002年でしたが
僕的にはやっぱり高田延彦に尽きる一年間でした。
22年間お疲れさまでした。

では、最後にさわやかに一言。

「高田さん、あなたこそ男だ!ありがとう!」






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