タイトル■女湯物語
書き手 ■加藤さこ

『女湯』と書かれた暖簾(のれん)をくぐると、
そこには男達の想像を超えたドラマが渦巻いている……。
というのは大げさだけど、お風呂屋さんの「女湯」って、
利用している女の私でも摩訶不思議な物語があるのです。
週に3回は必ず風呂屋に行くライター加藤が、
暖簾の向こう側の世界の「禁断の話」をお届けします。

■バックナンバー


第1回『チチトモダチ』

これまでの私は、
月に1度くらいのペースで
気が向いたときに銭湯に行く
という単発利用者でした。

それが週に2〜3回利用するようになって、
番台のお姉さんと挨拶を交わしたり、
それなりに、常連っぽくなってきました。
風呂に限らず、常連になるって、
うれしさの中に、ちょっとテレくささも
あるんですね。なんでだろ…。

というわけで、第1回目の女湯物語は、
『女湯常連』として受け入れられた
私のことを紹介します。

では、暖簾をくぐって、
ずずいと奥を覗いてみましょう。

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銭湯に通い始めて2ヶ月ほど
経った頃のことでした。
ある日とつぜん、女湯脱衣所で
私にとって予期せぬ出来事が
起きたのです。

といっても、事件でも何でもなく、
横にいた女性が
「こんにちは。よく会いますね」
と、私に声かけてきただけなのですが。

でも、このとき私は、ちょうど最後の一枚を
脱ぎ始めたところだったので、
一瞬、ギクッと金縛り状態。
なんとか平静さを装って挨拶を返したけど、
かなりビビりました。

汚い表現で恐縮ですが、この状況って、
うんこをしている野生動物の気持ちに
似ているかもしれません。
無防備な格好のときに、
いきなり予期せぬ出来事が起きると、
一瞬、体が硬直してしまうのですね。

声をかけてきたその女性とは、
今では世間話などをしながら
一緒にお湯に浸かる仲になりました。
それにしても、まさか銭湯で
おしゃべりできる友達ができるなんて
夢にも思っていなかったから、
ちょっとビックリ。

銭湯は他者とのふれあいがないから、
人前でハダカになっても平気なのだ、
他人の姿を見て見ぬふりしていれば
自分のハダカも注目されないだろう。
私は今まで、そんな風に思っていたのです。
なんだかひどく排他的ですね。
でも、銭湯って意外とフレンドリー。

それからも、三段腹なオバサマ、
左足が少し不自由なおばあさん、
アメリカ人のリンダなど、
次第に交友が広がっていきました。

もちろん、最初に声をかけてくれた
女湯友達の彼女とは大の仲良しになって、
タメ口で話をするようになりました。

が、最近、妙なことに気が付いたのです。

私は彼女の顔をぼんやりとしか
覚えていないのです。
目、口、鼻はもちろん、
髪型や顔の輪郭といった
ディテールがうまく思い出せない…。

彼女について真っ先に思い出すのは、
『胸』なのです。
それこそ、色、形といった特徴を
細部まで思い出すことができます。
ふつうなら、友達を思い出すときは
まずは顔が浮かぶでしょう?
それなのに、彼女は銭湯で出会ったがために
ハダカの胸が『顔』になってしまったのです。

実は、彼女もまた、私のことを
顔で認識していないのではないか
という気がするのです。
思い返してみると、私達、
服を着たときに話しかけあったことが
一度もないから……。

彼女にとって私の『顔』は、
一体どこなのだろうと
気になり始めたこの頃。
もう少しお互いの距離が詰まったら、
一度聞いてみたいと思ってます。

(つづく)


【お風呂屋さんワンポイント情報】

☆現在の公衆浴場の入浴料金

東京都
 大人400円(12才以上)
 中人180円(6才以上12才未満)
 小人80円(6才未満)

千葉
 大人385円
 中人170円
 小人70円

埼玉
 大人380円
 中人180円
 小人70円

※別途洗髪料金は、全国的に廃止されつつある。
 実施しているのは大阪、岡山、佐賀、沖縄のみ。

☆親子ふれあい入浴(東京都)
大人と一緒に入浴する未就学児は2名まで無料。





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