タイトル■女湯物語
書き手 ■加藤さこ
『女湯』と書かれた暖簾(のれん)をくぐると、
そこには男達の想像を超えたドラマが渦巻いている……。
というのは大げさだけど、お風呂屋さんの「女湯」って、
利用している女の私でも摩訶不思議な物語があるのです。
週に3回は必ず風呂屋に行くライター加藤が、
暖簾の向こう側の世界の「禁断の話」をお届けします。
■バックナンバー
第4回『風呂屋に住むおばちゃん』
以前、オーガガの掲示板で市川先生は、
昔、お風呂屋さんの上に住んでいたと
話してくれました。
その環境、私はすごくうらやましいなと
思いました。でも、市川先生のように風呂屋の上の階でもなく、
ずばり、風呂屋そのものに住み着いている
女性の話をしようと思います。
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今日の話は、銭湯ではありません。
24h営業の健康ランドと呼ばれる某風呂屋。
以前から、ここで暮らしている人がいる
というウワサは聞いていました。
しかもひとりだけではなく、
何人もいるというのです。6月頃、私は女性専用のラウンジで
そのひとりと話をすることができました。
みんなに「おばちゃん」と呼ばれている人です。
インタビュー記事のようになっちゃいますが、
そのときに聞いた話を紹介します。
※「お」=おばちゃん
−−美容院に行ったばかりみたい。
髪の毛、きれいな色だね。お 「そう、行ってきたのよ。
たまにはオシャレしないとね。
息子みたいな美容師のお兄ちゃんがいてね、
その子に会うのが楽しみなんだよ」−−じゃあ、今日は昼ごはんを外で
食べてからここに戻ったんだ?
(注:健康ランド内にはレストラン施設があります)お「今日はね、外でうどん食べてきた。
でも昨日は、ここの焼そば。
塩っからいのよ。あんた食べたことある?こんなの年寄りが食べたら、
血圧上がってコロッといっちゃうよね(笑)。
値段は高いくせに、ぜんぜんおいしくない。
お姉ちゃんは今日、泊まりなの?」−−私ですか? 家が近いから、
まだ泊まったことないんですよ。
○○町だから。お「私の家に近いじゃない。××商店のそばでしょ。
あ、私はここで暮らしてるけど、家はあるの。
主人の持ち家だったから。でもね、年に数回、帰るくらいなんだよ。
寂しいじゃない、ひとりぼっちなんて。主人が死んじゃってから、
私には身内がひとりもいないの。子供もできなかったし。
親戚は、ぜ〜んぶ死んじまったから、
ひとりっきりなんだよ」−−他にもここで暮らしてる人がいるって聞いたけど?
お「中には住むところを引き払って来てる人もいるね。
私は違うけど。あんたね、単純に計算してみなさいよ。
アパート借りて光熱費払って、なんだかんだ払って、
ここに寝泊りするよりぜったい高くついちゃうから。それにね、老人の一人暮らしなんて、
部屋なんて貸してくれやしないよ。私だって家に帰ったって誰もいないでしょ。
ここなら必ず、誰かいるから。
ここの人はみんな、私の家族なんだ」−−泊まるのはここだけ?
他の健康ランドに行くことはある?お「他の人はどうか知らないけど、
私はここだけだね。この町は長年住んできたから安心できるし、
店の人とも常連とも、仲がいいから。今日はまだ、私のお友達がひとりも来てないみたい。
夜になるとみんな帰ってくるんだけどね」−−みんな、お昼にはここにいないんだ?
お「私も昼はいないよ。
朝起きて、朝食食べてから出かけるの。私ね、生まれは原宿だから、
たまに今、どんな風になってるか見に行くの。もちろん、私があそこで育った頃とは
ぜんぜん違う町になっちゃったけど、
それでもときどき、行きたくなるのよ。行けば、あまりにも汚くてがっかりするんだけど、
それでも若い子に混ざって歩いてると、元気が出るね(笑)。昔のお友達の家に遊びに行くこともあって、
そのときは、浅草に行ってお饅頭を買っていくの。
あの人の好物だからね」−−それで、夜はここに戻るんだ。
毎日健康ランドにいるから、
おばちゃん、健康なのかな(笑)。
肌もきれいだよね。お「もう、私はおばあさんだよ。
あんただって、孫みたいな年だろ。
私はね、今年で69歳。あら、もう10時だ。
毎日、10時には寝る準備してるから、
悪いけどレストルームに行くわ。じゃあね、いろいろ話ができて楽しかったよ。
ありがとう」−−こちらこそ。今日はすごく楽しかったです。
またお話してくださいね。おやすみなさい。
【お風呂屋さんワンポイント情報】
●健康ランド
浴場やリラックスのための設備や、
飲食施設などが充実したお風呂屋さん。
シャンプー&リンス、石鹸、タオルや浴衣など、
お風呂グッズはすべて用意されているので、
手ぶらで行くことができる。
宴会などもできるので、団体客の利用が多い。
24時間営業のところもあって泊まることもできるが、
宿泊用の設備はないので、リクライニングシートと
ブランケットで一夜を過ごすことになる。
料金は、2000円〜4000円くらい。
深夜に追加料金を取られるところもある。
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