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狼はガガーリン空港へ行く

ところで、話は前後するんだけれど、
「突刊マット」というネーミングについて
悩んでいる時期と平行して、
この「とあるウェブマガジン準備号」を
アップさせた。

まずこんなレイアウトにしたい、
という案を僕が考え、
それをグラフィック・デザイナーTこと
長年一緒に仕事をしてきた戦友(?)
タッキーに実際に形にしてもらった。

準備号らしく真っ白な空間が多くて
文字がポツポツと少しだけ浮かんでるような
「白い宇宙」(?)イメージにしたかった。

そこに少しずつコンテンツが増えていき、
空間がうまっていけば、準備の進みっぷりが
表現できるってわけである。

その案を、タッキーが
すばやく形にしてくれた。
そして、そのレイアウトを作っている
「ページミル」というソフトの使い方を
教えてくれた。

準備号を作った目的のひとつは、
僕がホームページの更新作業を
練習するためでもあった。

この「ページミル」、
できることに非常に制限がある
今や絶滅寸前のホームページ作成ソフト
らしいんだけど、
いざやってみると、作業は本当に簡単だった。
「僕にもできた!」なのである。

あー
だからみんな作れていたのか!
…やっとわかった。

凝ったページを作るのは
無理らしいんだけど
もともと「凝った」ものにするつもりはなく
極力シンプルで読みやすいホームページに
しようと思っていたので問題なかった。

これを使いこなせれば
ウェブマガジン本編も自分で作れるかも…!
最大の懸案事項に希望の光が差してきた。

最初から知っとけよ!
と思われるかもしれないが、
人間は体験でしかモノを学べないものなのだ!
…と言い訳をしておくことにしよう。

原稿を書き、そのレイアウトにコピーし、
各ファイルごとにリンクを貼る…
最初は慎重に何度も見直し、
恥をかかないように原稿を何度も読み直し
恐る恐るアップした。
インターネット・デビュー。

アップしてしまうとその瞬間、
インターネットに繋がっている
世界中の誰もが読めてしまうわけである。

隣に住んでる奥さんはもちろん、
絶対に接点のあり得なかった、
ジャン・リュック・ゴダールだって、
オサマビン・ラディンだって
見ることは可能なのである。

事実上、接点が生まれた。

ドキドキした。
怖かった。

誰がどこで自分の書いたものを
読んでいるのかわからない。
それをどう思っているのかわからない。

これはなんだか途方もない
いままで経験したことのない感覚だった。

未知なる宇宙に
フワフワと漂っているような
なんともいえない
頼りない浮遊感だった。

インターネットは海に喩えれることが多いし、
僕もそんなイメージを持っていたが、
「宇宙」のイメージの方が
より近いのかもしれない。

想像できないほど広く、
無数の星と無数の住人がいる。
地図を描くのが不可能な世界。
誰かが新しい星を作るたびに、
その宇宙はまた広がっていく。

上下左右の感覚もない、無重力感覚。
初めての宇宙旅行みたいだった。

自分のいる星だか宇宙船だかが
宇宙のどこに位置しているのかもわからない。
太陽系なのかアンドロメダ星雲なのか。
月の近くなのか木星の近くなのか
バッフ星の近くまで来ているのか?

やがて僕のいる星だか宇宙船だかを
見つけた人から連絡が届くようになる。

互いに孤独な宇宙漂流者同士が
ETみたいに一瞬、
指と指を触れあわせることができる。
(もちろん比喩的表現です)

メールという方法で
繋がる。「接触」する。

むろんそれは一瞬にしかすぎないことだけど
その一瞬の「接触」は
「孤独」ではないような気にさせてくれた。

もちろんそれは錯覚だ。
人間は死ぬまで「孤独」だろう。
でも錯覚でもいい。
その一瞬が、
「希望」になったりするはずだ。

しかし不思議なものである。

パソコンの画面を見ている時は
必ず一人である。孤独な時間である。
にもかかわらず、
日常生活より多くの「接触」ができてしまう。

「孤独」が悪いものじゃないように思えた。

むしろ、孤独を自覚できる者同士が
「接触」できると、
孤独を認識できていたことを
良かったとさえ思うことができる。

糸井さんの言う「Only is not lonely」
という言葉が「実感」としてわかる気がした。

僕が子供の頃から大好きだった絵本に
佐々木マキ先生の「やっぱりおおかみ」
という作品がある。

世界で一匹だけ生き残っていた
ひとりぽっちの「おおかみ」が
仲間を探して毎日うろついている。

「どこかにだれかいないかな」

うさぎの街、やぎの街、ぶたの街、しかの街…

「なかまがほしいな
 みんな なかまが いるから いいな」

「もしかして しかに なれたら 
 あそこで たのしく あそぶのに」
 
だが、「だれか」はどこにもいない。
「だれ」にもなれない。

やがて
自分をどこかに連れていってくれそうな
気球を発見するのだけれど、
その気球も離れていき、
「どこ」にもいけない。

そして「おおかみ」は悟る。

「おれに にたこは いないんだ」

「やっぱり おれは おおかみだもんな
 おおかみとして いきるしかないよな」

そう思った「おおかみ」は
不思議に愉快な気持ちになっていくのである。

毎日この準備号を更新し
何かを発信し、
(それは大したものではないにせよ)
それを見た誰かからメールが届く。
そんな生活を送りながら
「インターネットとは何だろう?」
「このウェブマガジンは何なんだろう?」
そんなことを考えるようになった。

そして3才くらいから読んでいた
「やっぱりおおかみ」という本を
やけに思い出すようになった。

そんな新しい日常の中から
このウェブマガジンの新しいタイトルが
フッと浮かんできた。

「狼はガガーリン空港へ行く」

ハッキリした意味はわからない。
だが、自分が得たインターネット感は
すべてこの言葉に中に入ってる気がした。

「狼」とは何か?
「ガガーリン空港」とは何か?
「行く」のはなぜか?
それは、ウェブマガジンを作りながら
答を見つけていけばいい。

そして、この言葉は
これからも新しい何かと
出会えそうな「予感」を
与えてくれた。

インターネット上に浮かぶ
「接触」の場であり機会。
様々な対象への「愛」を持つ人達による、
それぞれの「青春」の姿を
伝えていくウェブマガジン

愛と青春のウェブマガジン
狼はガガーリン空港へ行く

数カ月かかって探してきた
ウェブマガジンのコンセプトと
名前を遂に発見できた。

よし、あとはもう形にするだけである。

              (つづく)


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