「SCW 蓼科ツアー2002 〜 私を女神湖に連れてって 〜

OK編

 「夏休みは、どうだった?大変だったよ。プログラマーから
がんがん電話かかってさ。ビール10杯分だね。」

10日ぶりの職場、上司がにやけながら僕の元にやってきた。

「ええ、実家とサッカーの合宿に行ってきましたよ。
 これでご勘弁を。」

僕は、ごそごそとカバンから7日前に買った八ツ橋を差し出した。
こういう時、京都生まれは、便利だ。
京都の土産="八ツ橋"という方程式は、何十年も前からの黄金率。
僕は、この図式が崩れるまで、これからも買い続けるだろう。

上司への挨拶も終え、いつもの自分の席に座る。
始業時間は、8時40分だが、僕は、いつも8時10分に来る。
そして、永福のママ とも言われるおばちゃんの店で買った
日経新聞、玄米茶、しゃけおにぎりを机の上に広げる。

"日銀が銀行保有株式買取を検討"
(日銀も結構、大胆にきたな。
 銀行もこれから、金融庁のみならず、日銀にも大きな借りを作るのか?
 今頃、山本や大田は、どうしてんのかな?
 強引な営業を今も続けてるのかな?)

おにぎりをほうばりながら、前の会社の同期を思い出した。
僕は、本当に絵にかいたような普通の平均的なサラリーマンだ。
多分、前途有望な若者が僕の生活を見れば、幻滅するような普通の
特段夢のない小さな人間だ。
別に商社マンのように世界をまたに掛けるような仕事をしているわけでもなく、
起業したアントレプレナーというわけでもない。
特別に面白い奴でもなく、特別にかしこいわけでもない。
ほんとに普通なのだ。

でも、僕には、たった一つ自慢できるものがある。
"サッカー"だ。
過去の栄光にしがみつくわけでもないが、高校時代全国3位に輝いた実績がある。
高校時代は、スポーツ新聞でも"かもしかの脚をもつ男"とか"ザ・ミラクル"とか
騒がれ、Jリーグ入りも噂されたほどだった。
結局、3位決定戦で左足靭帯を痛め、僕の輝かしいサッカー人生は、終わった。
こんなものなのだ。あれだけ騒がれても今は、こんな平凡な生活をしている。

でも、このサッカーがあったから今の交友関係がある。
サッカーが無ければ、僕の人生は、どうなっていたんだろう?
山本は、友達になってくれただろうか?
あるいは、大田は?
ネガティブな思いがぐるぐる頭の中を流れてしまう。

人生にもしもは無い。
人は、毎日無数の決断をしている。大小を問わずしている。
その分岐の行くつく結果が"今"なんだ。

ただ、今回のサッカー合宿だけは、どの道を歩いてきても
行き着いた様な気がする。そんな衝撃的な合宿だった。

_______________________________________________________

僕は、合宿にはいくかどうか迷っていた。
チームに入って4ヶ月。まだ、もう一つチームメイトの特徴をつかめずに
いた。
何か理由をつけて断ろうかとも考えたが、結局キャプの押しに負け、行く事に
なった。
キャプとは、大学時代の友人で、このチームに誘ってくれた僕にとって
恩人?
細身だが全身は筋肉の鋼に包まれており、往年のキラーコワルスキー(プロレスラー)*1に似ている。
特に握力が強く、文化祭でやった自然石を手で粉砕する芸には、
世界びっくり人間コンテストを見ているようだった。

朝、キャプの家にだいちゃんが迎えに来ると言う事で、OZAと一緒にキャプの家に
とまった。

だいちゃんは、キャプの友達。
見た目からは想像できないほどのかなりの大食いらしい。
つい最近知ったのだが、1998,1999年の奈良県ホットドッグ大食いコンテストで
史上初の2連覇を達成しているらしい。

また、一緒にとまったOZAだが、ちびだがサッカーは上手い。
北海道出身で、家は、五稜郭のそば。
実家が牧場をしており、将来は牧場を継ぐ事になっている純朴な青年だ。
実家がBSEの被害をもろに受けており、一時期は、悲壮な表情を
うかがわせていた。
断片的な情報だが、僕がOZAについて知っているのは、こんなものか。

朝5時僕、キャプ、OZAは、迎えにきただいちゃんの愛車パジェロミニに
乗り込み、さあ出発だ。

4人で友達の事、サッカーの事、今回の合宿の事、いろんな事を
話しながら、目的地に一歩一歩近づいていく。

話しているうちに分かった事なのだがOZAとだいちゃんは、千葉県に住んでいるらしい。
だいちゃんの家に近いチームメイトは、他にもいるらしい。
また、今回車を出す他のチームメイトの中には、キャプの近くに住んでいる人がいるらしい。
どうしてこういう配車なんだろう。
もっと効率的な配車があったはずだ。

「それだったらキャプの近くの人の車に乗るような形が良かったんじゃない?」

素朴な疑問を投げかけてみた。
言葉を発し終わらないうちにみんなの顔から笑顔が急に無くなってしまうのを
見てしまった。
僕は、何か言ってはいけない事をいってしまったのだろうか?

「ま、気にすんなよ。」

キャプは急に笑顔を取り戻し言った。
他の2人も笑顔が戻った。

なんだったんだ?ま、気にしないで置こう。

車内の空気は、僕が言葉を発する前の空気に戻っている。
今となって考えてみるとこの時もっと気にすべきだった。

ま、そんな事より
ほんと旅の始まりというのは、いつも新鮮だ。
純粋に楽しい。
その昂揚感は、目的地に近づくに従い大きくふくらんでいる。
みんなの昂揚感という風船がどんどん膨らんでいる、まさに
その時、事件は起こった。
これが全てのはじまりだった。

ガガガ、ガガガ
まるで路側帯に乗り上げたかのように車がゆれる。
僕らも始めは、高速道路に良くある眠気覚ましのでこぼこかな?
と思っていた。
しかし、だいちゃんは、真剣な顔をしている。
「やばい」
だいちゃんは、そう言い、一生懸命上下左右に揺れる車を制御している。
「パンクか?」
「どうやらそうみたい」
今、追い越し車線を走っているので、まず、左車線に入り、路側でとまらなければ
ならないのだが、なかなか左車線に行けない。
パンクによってハンドルをとられるのだ。

タイヤが既にバーストし、ホイールで走っている状態だ。
「しっかりつかまってろ」
だいちゃんは、声を荒げてハンドルをにぎる。
ガタガタ、ガタガタ、ブーー
後ろ、左の車からけたたましいブーイングの嵐に包まれながら
なんとか路側にたどり着き車をとめる事が出来た。

「う〜ん。」
どうやらOZAが頭を打ったらしい。
OZAの綺麗な富士額が大きく腫れ上がっている。

「おい、大丈夫か?腫れてるで。」
「うん、何とか。それより車を何とかしよ。
 遅れるよ。」

外に出てパンクしたタイヤを見てみると
タイヤはもう原型をとどめないほどの形になっていた。
なにか大輪のひまわりのようにも見えた。

だいちゃんはJAFには加入してない。
しょうがなく、パンクしたタイヤをスペアタイヤに替える
事にし、みんな動き出した。

「ぎゃっ。」
タイヤを触っていたキャプが突如叫んだ。
「どうした?」
「いや、手が、手が・・・」
キャプの顔面が青ざめているのが分かった僕は、
視線をキャプの手に写した。

そこには、真っ赤なマニュキアを施された手があった。
おそらくタイヤから飛び出した針金、コードに引っかかったんだろう。
その血は、キャプの人差し指、中指からどくどくと
心臓の鼓動に合わせ吹き出しているようだった。
あわててだいちゃんがハンカチでキャプの手を抑えるも
みるみるうちに真っ赤になっていく。
あわてる3人を僕は、静かに見つめていた。
なぜだろう?
冷静だった。
僕は、サッカーの時に使うかもしれないと携帯していた
包帯を取り出し、キャプのひじをぎゅっと縛り上げた後、
止血パウダーをふりかけ、指にも包帯を巻いた。

血が見えなくなったからだろうか、3人は、冷静さを取り戻し
タイヤの修理作業に戻った。

みんなこんな経験は、初めてなのであれはどうする、これはこうしたら、
等試行錯誤しながらなんとかスペアタイヤを替えることが出来た。
消費時間5時間。遅刻する事は必至だ。

その後、高速を一旦出、ガソリンスタンドで空気圧の調整をしてもらった。
「う〜ん。なんかおかしいですね。
 普通のパンクならこんな風にはならない。
 あらかじめ深い切り傷が無ければ起こらないですよ」
千原兄弟(兄)似のスタンド員は、だいちゃんの質問に答えた。

「そんなはずは無い。今日車を出すって事で、昨日スタンド
 で見てもらったんだ。」
だいちゃんは声を荒げるが、スタンド員はこういう状況には馴れているのか
鼻で笑って去っていった。
だいちゃんの気持ちは分かる。
こういう時何かに気持ちをぶつけたいものなんだ。

なんとかだいちゃんの気持ちを抑えようとだいちゃんの
大好物のチロルチョコを袋の中から出そうとした時、

「まあまあ、なんとかみんな無事なんだから」
OZAがみんなの気持ちを代弁してくれた。

「ごめん、ごめん。
 なんか大人気なかったね。
 大幅に遅れてるから行こう!」

だいちゃんも普段無口なOZAが発言した事に我を戻したのか
表情も元の明るいだいちゃんにもどった。

ただ、僕は見逃さなかった。
その後ボソッとだいちゃんが言った一言。
そしてその言葉に顔を凍らせるキャプ、OZAの姿を。

「やつだ。・・・」

何時間走っただろう。
車内は、重苦しい空気に包まれている。
さっきのだいちゃんの一言はなんだったのか?
"やつ"って。
何回かこの重苦しい空気を打開しようと
僕の祖父の寝言の話や、車好きの弟の話を立ち上げてみるが
反応は芳しくない。

「集合は、12時30分だけどだいぶ遅刻しちゃったね。
 でも、しょうがないよなぁ。」

僕の発言が気に障ったのか、だいちゃんはじろりとこちらを見、
また、視線を果てしなく続く道に戻して言った。

「あいつには、弱み見せたくないねん。
 あいつには。」

集合場所のセブンイレブンに着いたのは、結局2時30分。
1時間20分の遅刻だった。
1時から5時までフットサル場を予約していたので、
フットサルは約2時間くらいしか出来なくなってしまった。

集合場所では、他の車は当然到着していて、チームメイトも車の外で
たわいも無い話をしているのが見えた。

車を降りた僕らを待っていたものは、唯一つ "罵声"だった。

「なにしてんねん。何時や思てんねん。」
「お前らのせいでサッカーする時間へったんやぞ。」
「車治すのにそんな時間かかんねえだろ。
 どっかで遊んでたんちゃうん?」

文句を言うチームメイトの中でも最も熱かったのがottiだった。
ottiはチームの中でも喧嘩早い男だ。
もともとは、渋谷のチーマーだったらしい。
その後、ホストクラブのホスト、用心棒を経て、現在の
会社でSEのエースとして働いてる。
男から見てもなんかかっこいい生き方をしているniceguyだ。

「stop! keep calm!
If you don't shut your fuck'in mouth, make you kiss my ass」

突如、沈黙を通していたキャプが本場仕込みの英語で
口を開いた。

その後、キャプは今までの経緯を延々と説明した。
どうやらキャプの話を聞いて、みんな納得したようだった。

「ごめんな。なんか。
 久しぶりのサッカーやから俺かなり気合入っててん。」

ottiも自らの非を認め、キャプと握手した。
僕も内心ほっとして、ふと視線を横にそらすと
TOKが"ちっ"といいたげな表情で唾をはいた。

TOKは、僕もあまり分からない。
キャプとTOKが話している所もあまり見た事がない。
僕も入ったばかりでキャプとよく一緒にいるせいか
僕自身もあまり話したことはない。
大体、いつもottiとあとエアロビの先生のシヴァとつるんでる。
だから何をしている人かも分からない。
ただ、いつも胸にふくろうのブローチをしている。
サッカーの時、ユニフォームに着替えてもブローチを付け替えてる。
一度、サッカーの時、競り合いでブローチが落ち、
必至の形相で探していた事があった。
その後、僕が見つけ「あったよ」と渡そうとすると、
「触るな」と言わんばかりに取り上げるように持っていかれた覚えがある。
理由はどうあれTOKにとっては、相当大事なものなのだろう。

10名揃った僕たちは、その後、フットサルをし、心地いい汗を流した。
天気予報は、降水確率50%で、現地も雨が小ぶりだったが、
そんなことはお構いなし。
逆に涼しくてやりやすかったのではないだろうか。

フットサル後、ペンションに着いた。

ペンションの入り口に1人の男が立っていた。
全身黒づくめ、パーカーのフードを顔が見えなくなる位
深くかぶっている。

「誰かいるよ。オーナーかな。」
僕は、キャプに聞いた。
「え、どこに?」
「ほら、あ・・・」

振り向いたときには、男は、跡形も無く消えていた。
「あれ、あそこにいたんだけどな。」

ペンションは、きれいな洋館風の建物だった。
ペンションの中には、古めかしい絵や、置物がたくさん飾られていて、
ホテルとは違い、オーナーの家に招待された気分になる。
これが"アットホーム"なという事なんだろう。

部屋に荷物を置き、みんなで温泉パークに行こうという事になった。
ロビーに5時30分に集合という事で、各自、風呂の準備をし、
僕もロビーに行った。
先程の黒い男がいた。
「kuniさんです。」

くろちゃんが黒い男を紹介してくれた。
「あ、どうも」
黒い男は、フードをとった。
正直その容貌には驚いた。
スキンヘッドに額には、ジョーカーのタトゥー。
まぶたには7つのピアスが光っていた。

「こんちは。
 この前入ったばかりで。」

僕の言葉を言い終わらないうちにkuniは、
後ろを向いて入り口を出て行った。

「あー見えますけど、結構いい人なんですよ。」
と、くろちゃん。
くろちゃんは、現在弁護士を目指し司法浪人をしているヘヴィメタ好きの
青年だ。
80年代のヘヴィメタを崇拝しており、要望も長髪に
不健康そうなやせ方をしている。
姓名のどこにも"くろ"という文字は出てきていないが
くろちゃん。
体のある一部が異常に黒いからという説もある。
あだ名ってのは、そんなもんだ。
くろちゃんもkuniに劣らず、いかつい感じだが
いい奴だ。

くろちゃんも自分がその容貌から周りから
いろいろ言われているつらさを知っているから
kuniのフォローをしたのだろう。

「kuniさんは、あんな感じなんですが、
 実は、趣味は、囲碁なんです。
 一緒に飲むとアニメの"ヒカルの碁"の"ヒカル"の
 声のまねをしてくれるんです。
 囲碁の世界では結構有名で、"囲碁界のカートコバーン*2"
 なんていわれているくらいです。
 カートコバーンと言えば、うんたらかんたら」

それからなぜか話題がくろちゃんの趣味の世界にいってしまい、
温泉パークに行くまでくろちゃんの演説は、とまらなかった。

僕は、この合宿を楽しもうと思っていた。
だから、温泉パークは、あえていつも一緒にいる
キャプとは、離れ、くろちゃん、せろ、まつといっしょに廻った。

あんまり話した事なかったがくろちゃんをはじめ、
3人の大体の人となりは把握する事が出来た。
せろは、最近彼女ができたらしく、彼女の話ばかりする。
"なんでやねん"とか関西人でもないのに無理に関西弁を
話そうとするところ以外は、好感のもてるいい奴だ。

また、まつは、東工大の2回生。
甘いマスクで女の子には、結構もてそうだが付き合っても
すぐ振られてしまうらしい。
その理由は、風呂に入るとき明らかになった。
彼が服を脱いだ瞬間、なんともいえない匂いが
扇風機の風に乗ってやってきた。
甘酸っぱい、それでいてなつかしい、
そう、彼は、強度のわきがだったのだ。

くろちゃんは、こっちを見て人差し指を口にあてて
"だまっててあげてください。"と言わんばかりの
表情でこちらを見つめている。

そっか。
まつは、自分がわきがだって事を彼はしらないのか。

温泉パークでゆっくり温泉につかった後、ペンションに戻り、
オーナーの手料理を食べた。
「今夜は楽しんでくださいね。」

料理は、パンプキンポタージュスープから始まり、
オードブル、そしてメインディシュのステーキが出てきた。
レアで焼かれており、血がしたたっており、いつもなら
おいしそうな感じなのだが、今朝のキャプの血まみれの手を
見た後では、食べる気をなくしてしまう。

食事を終えた後、僕らは、ロビーでゆったりくつろいだ。
テレビを見ながらくつろいでいる中、TOKがある"もの"を見つけた。
いや、今考えてみると"もの"に見つけさせられたとでも
いうべきか。
"もの"は、カードゲームのようだった。
TOKは、ふたについたほこりを振り払い、ふたを取り、
中身を取り出した。

僕は、ふとふたを手にとり、眺めていた。
メキシコ語で"はげたかの餌食"と書いてある。
そして、ふたには、大空に羽ばたく大きなはげたかの
羽の上で家族4人が仲良くこのゲームをしている図が
描かれている。
よく見ると奇妙な事に家族4人ともどこかに怪我をしている。
お父さんは、手に釘が3本刺さって机に固定されている。
お母さんは、殴られたのか顔に青あざが数箇所出来ている。
子供は、2人共涙を流している。
しかし、その涙は、赤かった。

よく見ると気持ち悪いそのふたには、更にメキシコ語で
"負けたら地獄、勝っても地獄"
とも書かれている。

何か気持ち悪くなり、ふたを放り投げた。
「OKU,ちょっと説明書読んで俺らに遊び方を説明してくれよ。」
と、僕に対してTOK。
「オーナーに聞いた方が早いんじゃない?」
と、まつ。
「そうだな。
 オーナー!
 これ、どうやって遊ぶの?
 メキシコ語で読めないよ。」

食器洗いをしていた老紳士風のオーナーは、水道の蛇口を
閉め、こちらにやってきた。

「さあ、どうなんでしょうかねぇ。
 私にも分かりません。
 お客さんが忘れていったんじゃないですか。
 外国には、行った事が無い私には、
 たとえ、英語で書いてあっても分かりません。」

「そうっすか。
 じゃ、OK読んでよ。」

結局、メキシコ語が読めるのは、僕だけ、ということで、
僕が説明書を読みながらゲームの説明をする事になった。

ゲームは非常に簡単で、まず、同じ色の1から15までの数字の
手札が配られる。
そして山からー5から10までの得点カードが1枚出される。
プレイヤーは、同時に手札の中から1枚番号カードを出し、
その中で一番数字が大きいプレイヤーがその得点カードを
ゲットできる。
逆にマイナスの得点カードは、一番数字が小さい数字の人が
とらされる。
最終的に山の得点カードがなくなった段階で持っている
得点カードの合計が一番大きい人が"勝ち"という事だ。

TOKを中心に3人が×ゲームをきめ、みんな盛り上がった。
僕は、疲れたのでタバコをふかしてプレーヤーの盛り上がり振りを
見物していた。
僕も見るのに飽きてところせましと並んでいる本棚の所に行った。
オーナーの趣味はなんなんだろう。
劇画、少女漫画、経済学、心理学、政治学、
スキー、スノボ、テニス等あらゆる種類の本が並んでいた。
その中で僕の興味を大きくそそられたものがあった。
"はげたかに見る行動心理学"
先程のゲームが"はげたかの餌食"ということで
頭に"はげたか"と言う文字が強くインプットされていたんだろう。

本を手にとり、ページをめくる。
はげたかに見る行動心理学
1.ユングによる解析
2.フロイトによる解析
    ・
    ・
ページをぱらぱらめくってみると蛍光ペンで
いろいろとアンダーラインがひいてある。
オーナー?
その時1枚の写真がページの間から抜け落ちた。
拾ってみてみると一人の男が写っていた。
どこかで見た事のある男だ。
顔の傷をみてわかった。男は、若い頃のオーナーだ。
笑顔でピースしている。
ただ、場所は・・・。

後ろの寺院を見て僕は唖然とした。
これは、ペチュケ寺院だ。
僕は、小学校5年生から高校1年まで親の都合でメキシコで
育った。
日本人の僕は、学校でのけもの扱いされ、
よくこのペチュケ寺院の裏庭にある樹齢500年の巨大サボテンの
下でよく泣いていたものだった。
あと、サボテン祭りが有名だが、日本からの観光などありえない。
ここは、ペチュケ市民でないと入れないはずの場所だ。
なぜ?
オーナーは、外国には、言った事が無いのでは?
ペチュケにいると言う事は、ある程度メキシコ語も
出来るのでは?

僕は疑問を残しつつ、写真を元のページに戻し、
本棚に戻した。

ロビーに帰るとまだ、ゲームで盛り上がっている。

また、kuniは、携帯囲碁セットを持ってきており、
それでくろちゃん、シヴァ、せろに囲碁を教えていた。

「kuniさん。やってくださいよ。」
とくろちゃん。

何をするんだろう。

「どうしょうかな。」
とkuni。

「わかった。
 いくよ。」

「みんなkuniさんがやるよ。」

ゲームをやっていた3人もゲームを一時中断し
視線をkuniに集めている。

明らかに作った甲高い声で囲碁の石を手に取りkuniは叫んだ。

「千日手!」

周りは、爆笑の渦に飲み込まれた。

あ、これが今日くろちゃんが言ってた"ヒカル"の
まねか。
って、"千日手"って将棋じゃなかったかな?

みんな笑っているので僕も笑う事にしよう。

「じゃ、全員でプレゼント交換しようぜ。
 普通に交換しても面白くないから
 これで決めようぜ。」

TOKは、このゲームを相当気に入ったのか、
カードを上に振りかざしながら言った。

そう、僕は、キャプからこの合宿でプレゼント交換するから
なんか面白いものを用意しておいてくれ。家で使わなくなったものとかで
いいから と言われていた。
僕は、そういうのが苦手だ。
面白いものって言われても、難しいな。
僕は、なれない事に頭を悩まし、あるプレゼントを選んだ。
面白いものじゃないかもしれないが"阪神の井川のサイン"を
持っていった。

ゲーム前にキャプが全員のプレゼントを回収した。
なんかみんないろんなものを持ってきているようだった。
シヴァなんかは、明らかにバーベルとわかるものに
ミッフィーちゃんの包装紙で包んでいた。
これを持って帰ることになった人は大変だろうな。

そして、特に異論も無く、ゲームが始まった。

僕は、kuniが持ってきた赤ワインがあたった。
僕のとなりのキャプは、Hなビデオ五本セットがあたったみたいだ。

「酔いも回り、盛り上がってきたところで
 これ続けようぜ。」

どうやら"はげたかの餌食"を続けるようだ。
罰ゲームは、始めは、優勝者がべべにでこピンをする
ということだった。
最初のゲームは、ottiが負け、OZAがでこピンを
した。
「いってー
 絶対次勝と。」
ottiも気合が入ったようだ。

何回かやり、誰かが、
「ベベが全員にでこピンやる事にしよう。」
みんなは、無言でうなづいている。
よく考えるとこのあたりからおかしかったんだ。

ゲームは、TOKの負けだった。
みんなのでこピンを終えた後、TOKの額は、真っ赤だった。
特にだいちゃんがTOKの額のにきびをねらってでこピンをした
のがきいたらしい。

「やってくれたなぁ、だいちゃん。
 おぼえとけよ。」

眼は、真剣だ。
みんなも特に気にしてないようだ。
ゲームなんだからそんなに熱くならなくても・・・

次の試合は、だいちゃんが負けた。
TOKがでこピンがした時、
普通のでこピンと違う音がした。

がりっ

だいちゃんの額から徐々に血がにじんでいる。
今朝見たキャプの血とは違うにごった血だ。
おそらく爪をくいこます感じででこピンをしたのだろう。

TOKは、してやったりといった表情でビールを飲んでいる。

「お前・・」
と、だいちゃん。

「別に普通にやっただけや。
 文句あるんやったら勝てばいいだろ」

その後も何も無かったかのようにゲームは続いた。

みんな額を真っ赤にさせている。
血がにじんでいるものも数名。

血がにじんでいる額に更にでこピンをやるものだから
みんな右手の中指にも血がついている。

ずっと沈黙だ。なにかおかしい。

「でこピンも飽きたし、次はどうしよ。」
「じゃ、負けた奴は、みんなから平手打ちってのは」
「いいねぇ、そうしよう」

みんなうなづき、ゲームは始まった。
負けるのはいやだな。
ま、平手打ちって言ってもでこピンと違って
手加減はあるんだろう。

配られたカードを見ている時、僕は、視線を感じた。
後ろを向くとオーナーがニヤニヤしながらいすに座って
こちらを見ている。
僕は、さっき見た写真のことを話そうとした。
「オーナーは、メキシコ行ったことが有るんですね。
 住んでたんですか?」

「いや、さっきも言ったとおり、
 外国には言った事がないよ。」

「かってに見ちゃったんですけど、
 本の間に写真がはさまっててその
 写真には、オーナーが写ってましたよ」

「そんな写真は、見た事無いねぇ。
 私も見てみたいよ。」

「TOK、ちょっと待っててください。
 ちょっと本棚に行ってきます。」

「早くしろよ。」

僕は、本棚のある部屋に走り、"はげたかに見る行動心理学"
を探した。

無い。
どこにも無い。
僕は混乱し、本棚の本を次々と取り出しては、ページをめくったが
写真もない。
本を探している中で本と本の間から一枚のメモが見つかった。

"秀夫、なんかみんなおかしいよ。
 このゲームやってからもう5時間だよ。
 しかもなんで殴り合いなんかしなくちゃなんないの?
 今日は、私たちの部屋に戻りましょ。"

どうやら恋人が彼氏に対して送ったメモだろう。
みんな集中してるから口に出すのも悪いと思い、
本にはさんで渡したんだろう。

それにしても
殴り合い?
このゲームってまさか?

「OKさん。」

突然、後ろからの声に僕は、びくっとした。
振り返るとオーナーだった。

「皆さん、お待ちかねですよ。」

「オーナー、このメモは?」

「知りませんよ。
 おきゃくさんじゃないですか?」

「このゲームってまさか、今僕らが
 やってるゲームの事なんですか?
 そうなんでしょ?」

「そんな事より、OKさん。
 負けないようにね。」

オーナーは、含み笑いをしながら部屋を去っていった。

くそっ、どういうことなんだ。

僕がロビーに戻るや否や、

"ぴしっ"

せろがくろちゃんに平手打ちをしているところだった。

「おー、遅いからお前抜きでやってたぞ。
 よーし、みんなたたき終わったな。
 OK,入れや。」
と、だいちゃん。

くろちゃんの左頬は、赤黒く大きく腫れ上がっている。
歯茎からは、血がにじんでいる。

「ちょっと待ってくれよ。
 罰ゲームは、もっと他のにしない。
 ビール一気とかさ。」

しかし、僕の意見には、皆反応はなかった。
やるのはいやだ。

結局このままで続ける事になった。
この場も僕もなんとかブービーで切り抜け
負けたのは、TOKだった。

始めは、まつの番だ。
"ぴしっ"
まつは、思い切り手を横にはたいた。
TOKの左頬は、一瞬で腫れ上がっていく。
次は、だいちゃんの番だ。
「公の場でお前を殴る事が出来てうれしいよ。
 お前やろ。タイヤに傷つけたん。
 おれに"ようこ"を取られた事をいつまでも
 ひきづりやがって。」

"ぴしっ"

だいちゃんの渾身の一撃にTOKは吹っ飛んだ。
せろ、くろちゃん・・と続き、最期は、ブービーの
僕の番だ。

僕は、これ以上赤黒く内出血した頬をたたく事は出来ない。
僕は、やさしく頬を触れる程度で平手打ちをした。

これ以上僕は続けられない。

「僕、ちょっと酔ったからもう寝るよ。」

僕は逃げたかった。

「おれらと仲良く出来ないの?」
「じゃ、OKUさんの酔いが覚めるような罰ゲームにしましょうよ。」
「そうやな。まぁ、OKU座りーや。」
「寝るなんて無しや。」

「負けた人は、一枚爪をはがされるってのはどう?」
「よし、そうしよう。」
「オーナー、ペンチある?」

後ろに座っていたオーナーは、待ってましたとばかり
すっと立ち上がり奥からペンチを持ってきた。

僕は、逃げられない。
多分、部屋に戻って、ベッドに入っても
誰かが連れ戻しに来るだろう。
いや、誰かではなく、オーナーが。

ゲームは、始まった。

みんな、いや、こいつらは、本気だ。
負けられない。
得点カードは、ラスト2枚。
僕は、まだ1しかとっていない。
僕より下は、−2のせろと、0のシヴァだ。
場に出された次の得点カードは、"−5"
これを取っては、負けてしまう。
だが、僕は、こういう時のために手札の中に
12の番号カードを持っている。
これを出せば、12より下の奴がいるだろうから
僕が取る心配は無い。
−5さえ取らなければ、僕のべべはない。

「せーの」

僕は、自信を持って12の番号カードを出した。
僕は、場に出されたみんなのカードを見て
青ざめた。

みんなのカードは、8と9ばかりだった。

はげたかのルール上、同じ番号カードが複数出された場合には、
その次の番号のカードを出した人が得点カードをゲットする。

通常なら一番小さいカードは、8だ。
ただ、8は、複数出ているので次の番号は、9だ。
ここで9も複数出ているので結局このー5のカードを
ゲットする人は、12をだした人になる。
要するに僕だ。

僕の額から汗がにじみ出る。
明らかにサッカーの時に出るさわやかな汗とは違う。

次の得点カードは、3だ。

現時点で僕は、−4、せろはー2、シヴァは、0.
このカードを取ればべべは無いのだが、
もう僕には、勝負できるような大きい数字の番号カードは、
ない。
残ってる番号カードは、6だ。

「せーの」

当然のように6では勝てない。
3は取れなかった。

僕の負けだ。
「う〜ん。誰がやる?」
「ottiは、どう?」
「あ、じゃ、俺しよっか?」

僕以外のものは、誰が爪をはがすか盛り上がっている。
もし、僕が爪をはがされてもゲームは、続くんだろう。

ottiがペンチを持って僕の横につく。

「嘘でしょ。
 みんなこんなのおかしいよ。」

「負けなきゃいいじゃん。」

ふと見るとオーナーもニヤニヤしながら
うなづいている。

「手を机の上において。」
とotti。

「ちょっと待って。
 これをひいてくれ。」
とオーナーがビニールシートを持ってきて
机の上に広げた。

逃げようとしても多分取り押さえられるだろう。
次で勝てばいいのだ。次で。
僕は、観念し、手を机の上においた。

「爪ってのは、意外とあっさりとはがれないねん。
 しかもすばやくやると爪が割れてはがせないから、
 ゆっくりやるんだ。ゆっくりとね。」

ottiは恍惚の表情を浮かべながら言った。

ペンチを爪にセットする。
ちょっとペンチを深く押し込み、
ペンチでつかむ。

"ぎゃっ"

ottiが徐々にペンチを動かしていく。
そのたびに音はしないが爪がはがれていくのが分かる。
爪と肉がはがれていく。ゆっくりと。ゆっくりと。

"あーーー"

深夜にもかかわらず、大声を出してしまう。

「ここからが痛いんだよ。」

とotti。

そう、つめは、半分くらいはがれ、後半分。
爪の根元あたりが熱くなっている。

"OKU!、OKU!"

みんなの声が聞こえる。

実際には、音がしていないが僕には、聞こえる。
肉の悲鳴が。

"ミシ、ミシ"

"OKU!、OKU!"

"OKU、OKU"

はっと飛び起きた。
夢か? 
全身汗まみれになっている。

「OKU,OKU。」

青い制服の男が僕を呼んでいる。

「今から判決だ。
 出ろ。」

僕は、ドアを出て、青い制服の男についていく。
無機質な通路を僕と男の足音だけが聞こえる。

通路を曲がり階段を上がる。
階段で2人の制服の男とすれ違う。
2人は、聞こえないように話しているつもりらしいが
静かな館内では、どうしても聞こえてしまう。

「おい、あいつだぜ。例の」

「おお、今日判決の日だったな。
 あんな奴は、死んだ方がいいんだよ。」

「しー、聞こえるぜ。
 俺も極刑には、反対だけど、
 あの事件を聞くとな。」

「あぁ、11人だろ」

言い訳をするわけでもないが
もう途中から覚えてない。
ただ、気持ちよかった。それだけだ。

階段を上り、また、通路だ。
僕は、もう何も考えない。
全てに従うだけだ。

僕は、通路の先の光の方にあるいていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。

以上。


*1
キラーコワルスキー
トップロープからのニードロップが必殺技の名選手。
自らが放ったニードロップから相手選手の耳をちぎってしまい、
それ以降肉を食う事が出来なくなり、菜食中心の食事をとるようになった為、
細身だが、力は強烈だった。
*2
カートコバーン
ニルバーナの伝説的なボーカリスト。
ロック界の常識を打ち破った革命的な寵児。
晩年、麻薬におぼれ自殺。

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