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パロディSS
遠山のかれんさん<前編>
「TVドラマ・遠山の金さん」より
狩野雅明
Up:2001.1.1 Mon


 神君家康公が天下を統一して早幾年。
日の本全国天下泰平の世の中であります。
ここ華のお江戸は八百八町、今日も平和な一日がやってまいります。
しかし、神君の威光篤いこの地でも悪党どもが根絶えることはありません。
あぁ無辜の人々が今日もどこかで泣いております。
ところが、ところが、そうは問屋が卸さねぇと言うものありけり。
その御方こそ誰あろう本日の主人公、人呼んで"遠山のかれんさん"その人であります。

パロディSS
遠山のかれんさん<前編>
花村かれん うぃず 村山おーるすたーず


ここはお江戸の一角、光が丘西長屋。
そのまた一角に1組の老婆と乙女がつつましく暮らしておりました。
「ゴホ、ゴホ」
「おばあちゃん、大丈夫」
乙女は老婆の背を優しくさすります。
「お夕、いつもすまないねぇ」
「何言ってるの、それは言わない約束でしょ」
あぁ麗しき家族愛。
「おう、ごめんよっ」
木戸が乱暴に開かれます。
「おうおう相変わらず辛気臭え家だなぁ」
「じゃまするぞ」
3人の男が口調通りのチンピラ加減で上がりこんできます。
(たく、なんで俺がチンピラ役なんだよ)
(ぼやくな山本。宏樹なんかほれ、見てみろ、やる気満々だぜ)
(隆之、山本、本番中だぞ)
((へい、へい))
「な、なんですか」
夕子が声をあげます。
「なんですか、じゃないだろう、あぁ、借金はいつ返してくれんだよ」
そう凄むのはチンピラB宏樹。
「ま、まだ期限は先のはずですっ」
「今のところはな。だが、出来なかった時はどうするよ」
チンピラA隆之が問い詰めます。
「そ、そのときは…」
「そのときは、身体で払ってもらうぜ。お嬢さん」
チンピラC光秀が夕子の顎を指で持ち上げると下品な笑みを浮かべます。
と、その時。
「その汚ねぇ手を退かしやがれっ」
若者の叫び声が長屋に響きます。
「あぁ、なんだてめぇ」
「武志君、達也君っ」
そこには2人の若者がチンピラ3人組みを睨んで立っていました。
「その汚い手を夕子から退かせって言ってるんだ」
「俺達に楯突こうなんて良い度胸してるじゃねぇか。ああぁん」
隆之が武志の胸座を掴み上げます。
「おまえら、図に乗るのも大概にしやがれっ」
武志の右が綺麗に決まります。
「てめっ」
それを見た宏樹、光秀がいきり立つと達也が2人の前に立ちふさがります。
「やろってか、良い度胸だっ」
たちまち取っ組み合いが始まりました。
「武志君も達也君もやめてっ!この人達に手を出したらあなたたちの商売が出来なくなるわっ」
夕子の声に武志と達也の動きが止まります。
その隙にチンピラ3人組は2人を蛸殴りです。
「おら、おら、さっきの勢いはどうしたよっ」
「ぐ…くそっ…このっ村山作品一影の薄いサブキャラクタ野郎!」
達也が宏樹に怒鳴ります。
「…てんめぇ、人が気にしてることを…ぶっ殺す!」
そう言うと宏樹が短刀を抜きました。
あぁ、絶体絶命の大ピンチ。
「待ちな」
「誰だっ」
皆が振り向いたその先に一人の女性。
「なぁに、表の椿に誘われてやってきた通りすがり。かれんって名の遊び人さ」
「遊び人風情が何のようだっ」
「手出しできない人間を寄って集って痛めつけるとは感心しないねぇ」
「関係ない奴がでしゃばるんじゃねぇ。おう、やっちまえっ」
かれんはひらりと隆之の拳を避けると……
ポコ、ポコ、ポコ
3人を手刀であっという間にやっつけ……てない…
(あんな軽く叩かれたくらいで倒れるほうが不自然だぞ by光秀)
周囲に気まずい雰囲気が流れます。
「えっ、えっとぉ…」
かれんは懐から台本を取出すとずいっと3人に見せます。
台本曰く"かれんの手刀を受けた3人はたまらず退散する"。
「……あ〜じゃぁ…え〜こほん、ぐあぁ〜やられたぁ〜」
「えっと、ぐぉ〜」
「ち、ちくしょぉ覚えてやがれぇ」
3人は退散していきます。
かれんは台本を懐に仕舞うと武志達のところへ。
「大丈夫?」
「あぁ、なんとかね。それより、助けてくれてありがとう」
達也はかれんに頭をさげます。
「なに、ちょっとしたお節介よ」
「大丈夫、武志君、達也君っ」
夕子が駆け寄ってきました。
「俺は大丈夫だ。武志は?」
「俺は…ちょとやばいかも」
武志の右足がざっくりと切れていました。
「きゃ〜大変。早く療養所に行かないと」
「だけどな……」
武志はちらりと達也の方を見ます。
「後のことは俺に任せておけ。夕子、武志を頼む」
「うん、分かった。行きましょう。武志君」
武志は夕子の肩を借りて療養所に行きました。
それを見送るとかれんは口を開きます。
「良かったら、事情を聞かせてもらえるかしら。何か力になれるかもしれない」
「……………分かった」

チンピラに荒らされた部屋を片づけると達也と老婆そしてかれんの3人が車座に座ります。
「夕子の親父さんは腕の良い大工だったんだ…」
達也は話を始めます。
夕子の父親はある日仕事の最中に屋根から転落し大怪我をしてしまいました。
治療の甲斐もなく父親は亡くなり、母親も既に流行り病で既に他界していました。
残されたのは夕子とその祖母である老婆、そして治療費を払うための小額とはいえない借金でした。
借金を返そうと夕子は日夜一生懸命働きました。しかし、借金をした先が悪どいことで有名な高利貸の千葉屋だったため利息を払うだけで手いっぱいだったのです。そして借金の返済日が近づいてくると息の掛かったチンピラを使って督促にくるようになったのです。
千葉屋の主人はこの一帯の顔役であり、彼の反感を買うことは飛脚として生計を立てられなくなることを意味し、嫌がらせに対抗したくてもできないのです。
「奴等に何も出来ない自分が情けないっ」
達也は悔しさを床にぶつけてしまいました。

場所は変わって小石川療養所。
夕子に連れられた武志は診察を受けていました。
「また喧嘩?」
手際良く手当てをしながら療養所の医師おりんは呆れ顔で言いました。
「ええぇ、まぁ」
「今度は誰とやったの?」
「千葉屋のチンピラとです…奴ら夕子に手を出しやがって…」
「………千葉屋のチンピラとね……」
おりんの表情に一瞬暗い影を見た武志は何か知っているのかと聞こうとした時。
「こんにちは、武志君。また喧嘩したんだって?」
やはり診療所の医師春妃がやってきました。
「ども、春妃先生。いや、ちょっと不覚をとったもんで」
「あまりおりん先生を心配させちゃ駄目よ。あ、でも怪我しないと武志君ここに来ないからそれはそれで寂しいか。ね、おりんさん☆」
「な、何言ってるんです春妃先生!わ、私は医者としてですねっ心配しているだけですっ」
「顔を真っ赤にして言っても説得力ないですよ」
くすくす笑う春妃に声が掛かります。
「春妃先生、歩太さんがお父様のことでお話しがあるそうです」
「はい、分かりました。今行きます。じゃ、私はこれで」
春妃の背を見送った二人はそろって安堵の溜息をつきます。
「もぅ、春妃さんったら…」
「先生、今日、会えますか?」
「……夕子さんに悪いわ……」
「夕子はただの幼馴染です。でも、俺にとってあなたは…」
「……今夜、いつもの場所で、良いかしら」
「はい」

達也の話を聞いた帰り道、かれんは思案顔で通りを歩いていました。
と、そこへ…
「ほら、ほら、どいてどいて」
2人の岡引が走ってきました。
「おや、星野の旦那に和泉の旦那じゃないですか」
「おう、かれんじゃないか。また遊び歩いていやがって、バチがあたるぞ」
「ははは、勘弁してくださいよ星野の旦那。ところで何かあったんで?」
「おぅ、神隠しにあった娘が見つかったんだ」
岡引A星野が言います。
「ほぅ、そいつはめでたいですね」
「いや、そうでもないんだ」
岡引B和泉は表情を暗くします。
「と、言うと、和泉の旦那?」
「水死体、なんだ」
「………そうですか」
「おっとこうしちゃいられないな、じゃ、かれん、今度飯食いに来いよな」
「はい、もう喜んで。ショーリ…じゃなかった和泉の旦那のご飯は大好きですから」
「そっ、そうか」
和泉は照れたように顔を赤らめて鼻頭を掻きます。
「うん」
かれんもほんのりと頬を染めます。
「はい、はい、はい、はい、行くわよっ和泉君!」
良い雰囲気の2人の中を不機嫌顔で割ってはいると星野は和泉の耳を掴んで引っ張ります。
「うわっ、ちょ、ちょ、星野っ、ミミ、みみ、耳引っ張んなってっ、痛い、痛いってばっ」
星野に引きずられるように2人は行ってしまいました。
「神隠し娘の水死体か…調べてみる必要がありそうね」
かれんは寄り道をすることにしました。

「ごめんよっ」
暖簾をくぐって入ったのは喫茶店"風見鶏"。
屋根に南蛮渡来の風見鶏なる飾りをつけているのが特徴です。
南蛮より伝わった珈琲なる飲み物を出す店で、通の間では茶屋とは言わず喫茶店と呼んでおります。
「あ、いらっしゃい」
「こんにちは、由里子さん、マスター」
「よう、かれん」
風見鶏の店員、由里子と店主のアキヒロがかれんを見て声をかけます。
風見鶏の常連は店主のことを南蛮の呼び名"マスター"と呼んでいます。
かれんは席に就くと最近の町の噂について何かないか聞きました。
「ん〜そうね…外国の交易船が数日中に港へ来るってことで売り物の買い付けが活発になってるわ」
「今回は大きな船団らしいな」
「ええ、商人達は一儲けしようと張りきっているわよ」
「その外国の船団のこと、もう少し詳しく分かりませんか?」
「ん〜そうねぇ…紺屋の飛鳥に聞けば何かわかるかもしれないわね。外国を巡っている知人がいるらしいから」
「へぇ、由里子さんって人気染物師のあの"白袴"飛鳥と知り合いなんですか」
「職人の寄り合いでたまたま知り合ったのよ。今度聞いてみるわね」
「お願いします」

屋敷に帰ってきたかれんはしばらく考えを巡らしていました。
そして手を2度叩くと障子の向こうに音もなく人影が現れました。
「お呼びでしょうか」
少女を連想させる女性の声にかれんが応えます。
「千葉屋の周辺を探って欲しい」
「畏まりました」
人影は再び音もなく消えました。
「さて、ヘビが出るか蛇が出るか……」
かれんの問いに答える者は誰もいませんでした。
<遠山のかれんさん 第1幕 了 >



次回予告!(後書きに代えて)―
千葉屋の周辺調査を進めるかれん。
「ボクはエイジ。江戸は狙われている」
「な〜に、最悪死ぬだけさ」
華のお江戸で交錯する様々な想い!!
「ソロモンよ、私は還ってきたっ」
「M・A・D…相互拡張破壊……」
「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ…」
炸裂する必殺技!?
「月は出ているか?」
「俺を踏み台にしたっ!!」
「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
はたして悪党達に正義の鉄槌は下るのか!!!
「ぷろとかるちゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
次回、遠山のかれんさん第2幕「強襲、阻止限界点」
「あぁ刻の涙が見える……」
(注:内容は予告無く変更されることがあります…つーか本気にしないでね)

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