Il modo della musica antica
第1回:はじめに

 今回からルネッサンスからバロック時代の器楽演奏や楽器について、ふれてみましょう。 誤解が非常に多いと思うところに、古典派以前の楽器は「未完成」で、演奏技術も「未熟」 だったと思っている人がいらっしゃることと思います。ところが当時の楽譜のいくつかが 現代の同族の楽器では演奏不可能であり、また当時の楽器を持ってしても演奏困難(不可 能ではない)なものがあるという事実があるのです。このことより、古楽愛好家は現代の 楽器は「改悪」され、演奏技術が「退化」したと感じています。確かに古楽演奏という観 点からだけ見ればまさにそうなんですが、それも行き過ぎで、音楽はその時代の精神を反 映し、その時代で所謂「良い趣味」と見なされるように「変化」するのです。そして現代 の聴衆はバロック音楽の演奏に対して、その当時に「良い趣味」と言われたような演奏を 要求し始めているのです。
 さてここでちょっと用語について説明しておきましょう。演奏に使用する楽器が作曲さ れた当時の物、またはそのコピーである場合、それは「ピリオド楽器」、「オリジナル楽 器」、「古楽器」などと言われます。最近はロマン派までそのようなアプローチが取られ るため「ピリオド楽器」(当時の楽器)という使われ方が一般的です。また演奏方法や、 編成が作曲当時のスタイルである場合、「オーセンティック」(正統的な)演奏と言われ ます。なぜかこの反対語は「伝統的」な演奏で、戦後の19世紀音楽の演奏習慣をこう呼 びます。
 元来芸術音楽といっても19世紀までは新作で、昔の作曲家を後世に取り上げることは なかったのですが、メンデルスゾーンによるバッハ再演によってバロック音楽が演奏され 始めるようになりました。しかし、当時の「常識」から言ってその譜面は「校訂」され、 19世紀の趣味にあうように大幅な手直しが必要とされました。しかしバロック音楽を作 曲された当時のスタイルで演奏しようとする試みは実は早くも19世紀末に出てきていて、 パリ万博などに記録が残っています。20世紀に入るとドルメッチとその一族がリュート やリコーダーやビオラダガンバを復活させ、ランドフスカがハープシコードを復権させる など、古い音楽に対する興味が急速に増して来ましたが、現代に残る彼等の録音を聞くと、 ドルメッチ一族は演奏技術はアマチュアで、ランドフスカはまだ19世紀音楽の強い影響 下にあり、古楽演奏の現代の隆盛は戦後のレオンハルト等を待たねばなりませんでした。
 戦後になると、バロック音楽の演奏習慣や楽器についての研究が進み、音楽学者の研究 が実践家の手に移るようになり、また自らも研究者として名高い演奏家が何人も出て来ま した。彼等(レオンハルト、アーノンクール、ブリュッヘンら)の演奏は衝撃を持って迎 えられ、「伝統主義者」からは嫌悪と悪意の目で見られながらも、反「伝統主義」の反逆 者として古楽演奏の活性化と現代の地位を築いたのでした。こういったアプローチが最近 は「伝統的」な世界にも許容されつつあることはアーノンクールやガーディナーやコープ マンといった古楽界の指揮者が「伝統的」なオーケストラを指揮し、好意的に迎えられて いることを見れば明らかだと思います。次回から、古楽器について少し詳しく触れてみた いと思います。

↑目次に戻る次へ→

☆ホームへ戻る