Il modo della musica antica
第2回:金管打楽器編
バロック以前の音楽事情を紹介してきたこのコラム、今回から各楽器別に当時の様子を覗
いていくことにします。では金管打楽器編をどうぞ。
現在のオーケストラで主に使われている金管打楽器は、ティンパニ、トランペット、トロ
ンボーン、ホルン、場合によってチューバや、大太鼓などの各種打楽器もありますね。いわ
ゆる芸術音楽でティンパニ以外の打楽器が使われるようになるのはベートーヴェン以降の事
になるので、ここでは割愛させていただきます。
さて、ティンパニは中世イスラム圏発祥の鉢型ドラムであるネイカーが変化した物だと言
われています。バロック時代においてもティンパニは教会音楽や祝祭的な曲には欠かすこと
のできないアクセントです。現在の物は4つ(乃至2つ)の音が出せ、また足ペダルなどで
素早く調律ができるようになっていますが、バッハの時代の物は2つの音のみで、また調律
は皮をとめてあるねじで直接張力を調整したため難しかったと思います。また皮の厚みや材
質も現在の物とは違っていたようです。当時のティンパニの使われ方の特徴として、必ずト
ランペットとワンセットで、ティンパニの打撃音にトランペットの持続音をつなげていまし
た。映画「カストラート」のワンシーンに、主人公のファリネッリが歌で対決した相手がテ
ィンパニ+トランペットのコンビ、というものがありましたね。
では、トランペットが出て来たのでそちらに話を移しましょう。現在のトランペットにつ
いては御存知のように管が巻かれてピストンやバルブがついている構造をすぐに思い浮かべ
られると思いますが、こうなったのは19世紀後半と比較的最近の事です。それ以前は単純
に管を巻いただけで、音程はマウスピースのみで変えていました。現在の物と区別するため
にナチュラルトランペットと呼ばれています。管の長さも現在の倍の長さがあり、当時は高
倍音成分を上手く使ってそのシンプルな構造からは想像もできない技巧的な曲を吹くことが
可能でした。
トロンボーンはロマン派以前の曲にはあまり使われていないので新しい楽器のようですが、
その歴史は古く、構造も16世紀以来殆ど変わっていません。バロック以前は宗教曲にしか
使われなかったためその演奏の伝統が失われかけたこともありましたが、ベートーヴェンが
交響曲に採用し、一気にオーケストラ楽器としてその重厚な響きをとどろかせるようになり
ました。バロック期の曲ではガブリエリやシュッツなどのアンサンブル作品でその落ち着い
た響きを聞くことができます。
ホルンもトランペットと同様に19世紀前半以前はバルブもない管を巻いただけの単純な
楽器で、これも現在の物と区別してナチュラルホルンと呼ばれています。つまり狩猟用の角
笛がそのまま金属管の楽器になっただけです。ただ、その音の柔らかさが木管や弦楽合奏と
マッチしたため小編成の曲が多いバロック期には多用されています。はじめは調毎に楽器が
用意されていましたが、ちいさな長さの異なる替え管(クルック)を取り替えて調を変えら
れるようになり、それがのちにバルブによる切り替えに変わったわけです。
さて、チューバは金管楽器の最低音部を受け持ちますが、オーケストラに採用されるのは
やはり19世紀後半以降のことです。それ以前はビューグルの低音楽器オフィクレイドや木
管にマウスピースを付けた蛇のように曲がりくねった楽器セルパン等がありましたが、いず
れもバロック期の芸術音楽の分野にはあまり使われていません。最低音はコントラバスの前
身ヴィオローネが受け持っていました。
次回は木管楽器についてお話していきたいと思います。
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