共生の心「八百万の神々を感じる心」を読み解く

今、自然との共生が問われています。しかし日本人には本来「八百万の神々を感じる心」という自然と共生する心がありました。

天地自然に「八百万の神々」を感じ、畏れ敬い、感謝と謙虚の心を持って、自然と共に生きていく。そんな日本古来の心があったのです。その心を、日本人はいつのまにか忘れかけています。自然との共生が問われている今こそ、その心を見つめなおし、本来の日本人の生き方に目覚める必要があるのではないでしょうか。

ここでは、現代人にとっては理解の難しいものとなってしまった「八百万の神々を感じる心」を、分かりやすく読み解いていきます。

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文章 最終更新
2004年06月21日

「八百万の神々」という言葉の意味

「八百万の神々」という言葉は、日本人の自然に対する心を表しています。

日本人は古くから自然やその背後に何か不思議な気配や存在を感じていました。そして、その不思議な気配や存在を「神(かみ)」と呼びました。

ではなぜ「八百万の神々」と言うのか。それは、日本人が天地自然すべてに神を見たからです。山、川、草、木、鳥、獣、風、雷、あらゆる物事に神々の存在を感じたのですね。ですから「数え切れないほどたくさんの」という意味の例え言葉「八百万」を用いて「八百万の神々」となったのです。

良く誤解されることですが、ここで述べている「神」とはキリスト教など一神教で言うところの神「GOD」とは違います。日本人が感じてきた自然やその背後にある不思議な気配や存在のことを「かみ」と呼び、「神」という字に当てたのです。ですから、「八百万の神々」の「神」は決してキリスト教などの唯一神である「GOD」ではありませんし、「GOD」と訳すこともできないのです。

「八百万の神々を感じる心」とは何か

現代人にとっては八百万の神々という存在は非科学的で信じられないと思うかもしれません。しかし八百万の神々が実際に存在しているのかどうか、それは重要なことではありません。肝心なのは、それを感じるかどうかなのです。

日本人は古くから、天地自然のあらゆる物事に、何か不思議な気配や存在を感じていました。そしてそれを「神」と呼び、畏れ敬ったのです。「八百万の神々を感じる心」とは言わば日本人の自然に対する情感なのです。

考えてみれば、自然とはまことに不思議なものです。天地自然は時に恵みをもたらし、時に猛威をふるい、多くのものの命を生かしも、殺しもします。また、時に心奪われるほどの光景を作り出してしまいます。

人にとってそれは尊いものであり、恐ろしいものでもあり、そして何より不思議なものそのものです。人の力では到底及ばないもの、人知を超えた何か計り知れないものを感じずにはいられません。そして、そこに日本人は不思議な気配や存在を感じ、八百万の神々というものを見出したのです。これはとても自然で健全な心の働きだと思います。

また、私は、人は霊的な存在だと思っています。人は本来的に、自然やその背後に何か不思議な気配や存在を感じる感覚を持っているのだと思うのです。それは世界各地の民族文化において、自然やその背後に神や精霊が宿っているという、自然に対する心の持ち方に共通するものがあることからも伺えます。

アイヌ(日本・北海道)、インディアン(アメリカ州)、イヌイット(カナダ、アラスカ)、アボリジニ(オーストラリア)、・・・。彼ら先住民族は遥か昔から、天地自然に神や精霊を見てきました。そしてそれは人類誕生の瞬間から、人が本来的に持っていた自然への情感なのだと思います。

日本人もまた同じ心を受け継いだ民族のひとつです。人が本来的に持っていた自然への情感に、さらに日本人独特の情緒や感性が加わった日本人の心が「八百万の神々」を感じさせたのです。「八百万の神々を感じる心」とは、まさに日本人が本来的に持っている心、日本人の自然観そのものなのです。

「八百万の神々を感じる心」が教えてくれるもの

「八百万の神々を感じる心」は、本来の日本人の生き方、日本人の心を思い起こさせてくれます。

古代より、日本人は天地自然に八百万の神々を見出し、畏れ敬ってきました。神々への畏れ敬いは、天地自然への畏れ敬いです。日本人は八百万の神々を見出すことで、天地自然への謙虚さを育み、共生して生きてきたのです。

日本人は天地自然の中で常に八百万の神々の存在を感じ、自然と共に、神々と共に生きてきました。自然から分け与えられた恵みは、神々からの恵みであり、自然の猛威は神々の力、自然の光景は神々の姿でした。傲る(おごる)ことなく、畏れ、敬い、謙虚な心、感謝の心を持って生きる日本人の生き方。自らも自然の循環の一部であり、自然の中でしか生きられないことを知っていたのです。

自然の循環とは命の循環、魂の循環です。一つの魂の終わりが、次の魂の糧となり、魂の輪廻(りんね)を形作ります。日本人は自らの魂もまた、天地自然の魂、神々の魂と繋がっていることを強く実感したのです。そして、その繋がりを大切にしてきたのです。

私たちはともすれば自分たちの力だけで生きていけると思いがちです。そして、その考えでやってきてしまったのが今の現状であり、既に限界が見えています。

私は、今の時代だからこそ、「八百万の神々」を感じることがとても大切だと思うのです。天地自然に八百万の神々を見出し、心から畏れ敬い、感謝と謙虚の心を持って、共生して生きていく。「八百万の神々を感じる心」とはまさに、自然と共生してきた日本人の生き方そのものです。この心は、人がこの地球で生きていくうえでも、とても大切な日本人の知恵であると思うのです。