Rational Software User Conference98 見聞録
最終更新日:7/13/1998

はじめに

オブジェクト指向開発言語やGUI開発ツール等下流ツールはかなり一般的になってきましたが、上流のオブジェクト指向分析/設計ツールは日本ではまだあまり普及していません。最近では、UMLについて雑誌に掲載され始めたこともあってこれから普及していくことが期待されます。

上流CASEツールの必要性は言われている割にはあまり開発の現場では使用されていないようです。その理由は、使い方が難しい、高価、メリットが疑問、ともかくなくても開発できる...等です。その原因は、オブジェクト指向分析/設計の方法論自体が普及していないことと関係あるようです。

オブジェクト指向分析/設計の方法論にはランボーのOMT法、ブーチのBooch法、ヤコブソンのOOSEを始め数十あると言われています。これらは表記法が異なるため、これらの方法論をサポートするツールも大変です。表記法については、これからはUMLに統一されるようで、表記法の違いによる混乱は収束しそうです

オブジェクト指向開発を進める上で、この方法論とツールは車の両輪です。両方をある程度マスターして行かないと実開発はできません。表記法は統一できても方法論の統一は難しそうです。例えばC++、JAVA等言語仕様は決まっていても、プログラミングの方法は自由です。そこで個性をだし、工夫し、腕を磨いてゆけばよいのです。

ツールにも分析/設計を行う上流系と実装を行う下流系がありますが、その結合が必要です。つまり、「方法論+上流ツール+下流ツール」のセットで使いこなしできることが必要です。オブジェクト指向を普及させるには、この方法論とツールを平行して普及させていくことが必須です。

【記:5/27/98】




Rational Software User Conference 見聞録(1)

6月13日(土)12:00成田発UA884便シカゴ行き、シカゴ・オヘア空港で入国審査を済ませ、フロリダ・オーランド行きUA1614便に乗り換える。時差があるので同日午後オーランドに到着する。オーランド空港を出るといきなり熱気でむっとする。東京を出たときは涼しくこの落差は大きい。高温多湿で日本の夏と変わらない。あとで新聞を見ると最高気温96°F、最低気温75°F、摂氏に換算すると35°C/23°Cで昼間外を歩くのはきつい。テキサスのダラスからきたという人に聞いたが、気温はオーランドと変わらないがダラスは砂漠でもっと空気がカラッとしてすごしやすいという。

オーランドはDisney Worldを中心とした一大観光地で、西海岸程でもないが日本からの観光客も少なくない。Disney Worldには4つの大きなアミューズメントがある。Magic Kingdom, Epcot Center, MGM Studioそれから今年新たにオープンしたAnimal Kingdomがある。日本にあるディズニーランドはほぼMagic Kingdomに該当するもので、これらのアミューズメントは見学にそれぞれ1日位はかかる。近くにUniversal Studioがあるが、こちらはDisney Worldに対抗してその周辺にかなり大規模な一大帝国を建設工事中である。レンタカーがあればケネディースペースセンターに行くこともできる。現在年間3000万人がオーランドを訪れるそうであるが、200x年には年間1億5000万人規模の観光客を集めることを目標にオーランド空港は拡張工事中である。

土曜日はすぐにMarriot Orlando World Center(写真)にチェックインして休養。翌日曜日は昼間はフリーで夕方から登録とウェルカムパーティ。参加者の目標は1000名とあったが、当日Rational Softwareの人に聞いてみたところ1200名位かな?と言っていた(Officialな数字ではない)
パーティー会場は巨大な部屋で、立食形式のパーティでMiller Liteのびんを片手にぶらぶら歩いていると目の前にランボーにそっくりな人がいる。少し接近して首からぶらさげている名札を見ると確かにRumbaughと書いてある。大胆にも"Hello, are you Mr.Rumbaugh?"と声を掛けてみると"Yes, I'm Jim Rumbaugh."と返事が返ってくる。OMT法であの有名なランボーと話ができた、と言ってもテクニカルな話ではなくただハローと言ってみただけなのですが、とにかくそのあたりにいた人にお願いしてランボーと2人で記念撮影を取らせて貰った。まずはこれだけではるばるオーランドまでやってきた目的の何分の1かは達成した気分である。もしかするとJacobsonもいるのではないかと探し始めると、それらしき人がすぐに見つかった。"Hello, are you Mr.Jacobson?"と声をかけると正しくユースケースの提唱者として著名なJacobson本人である。Dr.Jacobsonとは上機嫌で写真を撮らせて貰えた。UML3人組の仕掛け人であるBoochは会場には出てこなかったようである。

(写真上はRumbaugh、下はJacobson)

さて、Rational Software社はオブジェクト指向分析/設計ツールRational Roseの開発を行ってきた比較的地味な会社であったが、ここ2〜3年で少し変わってきた。ひとつは該社のBoochが2〜3年前頃からRumbaugh, Jacobsonらオブジェク指向のメソドロジストをヘッドハンティングしてきてオブジェクト指向分析/設計の表記法をUMLとして標準化作業を始めたこと、もうひとつは、ここ1〜2年経営戦略を拡大路線に変更し、CASEツール会社へ買収攻勢をかけ始めたことである。現在、製品ラインアップの整理がほぼ終わった段階である。(続く)

【記:6/28/98】


























Rational Software User Conference 見聞録(2)

私はRational Software=オブジェクト指向=UML=Booch+Rumbaugh+Jacobsonと、単細胞的に思っていましたが、今回の参加者には当然いろいろな人がいます。実際日本からのツアー参加者も私と同じ発想の人は少数派でした。お互いに何に興味を持っているか示すために名札の下にプロダクト名を表示します。私はRational Roseと書いた緑の札を貰って名札に入れました。その他ClearCase, preVue, SQA Suite, Visual Test, Purify, Apex, RequisitePro等実に沢山たくさんのCASEツールがあり、私にもそれらの違いがあまり理解できていません。

6月15日(月)8:00からRational Softwareを創立したPaul Levy(CEO)とMike Devlin(President)のキーノートでいよいよConferenceが始まる。Rational Software社をここまで育て上げてきた人はどんな人かと興味がありましたが、Paul Levyの方はまじめで慎重派の技術者タイプでMike Devlinの方がまだjokeもいえるくだけた感じの人です。舞台の上で見ただけでなので実際はどうなのかは分かりません。丁度Paul Levy=Rumbaugh、Mike Devlin=Boochといったところ。(Jacobsonはまんなか位?)いずれにしても性格の異なる2人がうまく役割分担ができると事業はうまく行くようです。

ところで早速もうランチの話になりますが、これが巨大な部屋です。(何につけこの「巨大」というのはアメリカの特徴のひとつですね。)10人程度座れるかなり大きな丸テーブルが一杯いっぱいあるのですが1000人程度として1000÷10=100個ほどあるわけです。一体どこに座ればいいのかと考えていると、首からぶら下げている名札のプロダクト毎にテーブルが割り当てられています。Rational Roseと旗が立てられているテーブルを見つけてひとりですわろうとしたらほとんど同時に隣に女性が腰掛け、"Hello, my name is Rose."と自己紹介します。RoseさんがRoseを使っているなんて、なんかしゃれのようですが、本当にRoseさんだそうです。この女性が冒頭に少し登場したダラスからきた女性です。(続く)

【記:7/6/98】








Rational Software User Conference 見聞録(3)

Conferenceは10のトラックに分かれて同時進行します。その内容およびRational社の代表製品については日本ラショナルソフトウェアおよび米Rational社のホームページにも紹介されていますが、以下のようなものです。

・構成管理 − ClearCase

・パフォーマンステスト − preVue

・ファンクションテスト − SQA Suite

・ビジュアルテスト − Visual Test(MicrosoftのMS Visual Testを買い取ったものです)

・インターネットテスト − SQA Suite

・診断テスト − Purify

・ビジュアルモデリング − Rose

・要件管理 − RequisitePro

・開発環境 − Apex

・ソフトウェアエンジニアリング − (後述)

私はもちろんRoseにも興味はあるのですが、キーノートを除いてほぼソフトウェアエンジニアリングのセッションに参加しました。今回参加した主目的である、Booch, Rumbaugh, Jacobsonを始めとするアーキテクト達はここのセッションに登場します。

Boochはコンポーネント開発、アーキテクチャパタン、RumbaughはUML、JacobsonはUnified Process、最利用等の講演がありました。話の内容の詳細はここでは記述できませんが、概ね今まで聞いてきた内容でした。

UMLはUnified Modeling Languageつまりオブジェクト指向のモデル記述言語であって、OMTのような方法論ではありません。実際に開発を行うには方法論が必要です。UMLは当初95年に公開された0.8版ではUnified Methodつまり「統一方法論」という形でスタートしました。その後Jacobsonが参加し、96年に公開された0.9版から「方法論の統一は難しいが表記法の統一は可能」ということで今日の形UMLになりました。

では言語の統一が終わったが方法論は統一しないのかという問題ですが、実際開発を進めて行くためには方法論が必須です。方法論の統一は各人、各社の問題であり標準化はないと思います。Rational社はここでUnified Processなるものを検討しているようです。Jacobsonがかって開発したObjectoryという開発ライフサイクルの体系を見直し、そこにUnified Processをはめ込んでいくのではないでしょうか。(続く)

【記:7/13/98】


Rational Software User Conference 見聞録(4)

General Sessionsの合間を縫って、昼休み、夜はProduct Lab、Exibit Hall2つの会場に分かれて展示会が開催されます。Product LabにはRational Software社の各製品が展示され、技術者に質問することができます。Exibit Hallは協賛企業の展示会場で、約40社程出展されました。(写真)

Exibit Hallを見学に行きましたが、熱心なところとそれ程でもないところがあるのは日本の展示会と同様です。これはその企業の方針と担当者の性格的なものにもよります。Blueprint Technologiesの前を通りかかると熱心な若者がいたので立ち止まりました。該社のFrameworkStudioという製品はFrameworkやComponentのモデルをRoseに、またはC++, Java, VBなどのコードを生成します。この若者は来月(7月)東京に行くといいます。何しに?と聞くと、Big SiteでKeynoteで話すといいます。名刺を貰うと"Thomas J. Mowbray, Ph.D. Chief Scientist"とありどこかで聞いた名前だと思いましたが"CORBA Design Patterns"という緑色の表紙の本の著者で、その道の専門家でした。営業マンとしても通用するといった感じの人でした。(写真。後で確認しましたが、ソフトウェア開発環境展で7/8 "CORBA-kami"というテーマで講演したようですが、出られませんでしたので内容は分かりません。)

現在のところRational Roseが生成できる言語は C++, VB, Java, Forte, PowerBuilderの5つです。ではこれ以外はできないのか、そこにビジネスチャンスがあるようで、例えばEnsemble SystemsはDelphi, JBuilder, Visual Cafe, Wordなどの製品と連携できるように付加価値をつけています。

Exibit HallでAddison Wesleyが書籍の販売をしていました。10% offということですが、例えばJacobsonのOOSEは$48.95 -> $44.06ですがフロリダのsales taxは6%で、\140/$で換算すると結局約\6,500になります。これではトッパンから出版されている日本語版(\6,214)より高い。\100/$位だとアメリカは物価が安いと考えいろいろ買って帰る気にもなりますが、\140/$では日本で買ったほうが安い。ちょっと横道にそれました。

話は前後しますが、コンファレンス初日6/15(月)夜Exibit Hallで Ivar Jacobson, Jim Rumbaugh, Terry Quantrani, Grady Booch 4名のサイン会が5:00から1時間毎交代でありました。Jacobsonのサインを貰おうと出かけて行きましたがそこには本はありません。持っていない人はAddison Wesleyの売店で購入して持参する仕組みのようです。"Software Reuse"を購入して戻ると 6:00 を過ぎていてもう Rumbaughが席についています。Jacobsonを見つけ出しなんとかサインして貰いました。次は Rumbaugh の本を探しましたがAddison WesleyではRumbaughの本は扱っていないというつれない返事です。Rumbaughはほとんどサインすることもなく暇そうでした。(写真)日本ではほとんど考えられないですが、サイン会のときは横で書籍を販売するのが普通だと思います。今更自分の本が何冊売れようが、興味なしと言った悟りの境地でした。次のTerry Quantraniは予想に反して女性でした。"Visual Modeling with Rational Rose and UML"を購入し無事サインを貰いました。彼女のひとことは"Happy OO!"でした。まだ夜の7時過ぎなのにここで突然睡魔に襲われ、次のBoochまで持ちそうもなく部屋に戻りました。日本時間では朝8時過ぎ、つまり徹夜明けの状態です。

【記:7/20/98】


Rational Software User Conference 見聞録(5)

コンファレンス2日目6/16(火)夜はスペシャルイベントがPleasure Islandでありました。ここはDisney Worldの夜のアミューズメントです。Jazz Club, Discoなど3つの施設が貸しきりでした。





















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オブジェクト指向と哲学
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オブジェクト指向/UML教育
(有)オブジェクトデザイン研究所
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