ソウルエッジ本『不自然な君が好き』(97年発行)より。
(完売のため、当ホームページに転載しました)


   『乱入?』

「ふうん・・・これが、願い事を叶えるとかいう滝か」
 ジークは、一見興味なさそうな様子で、小さな滝を眺める。静かな森の中に、その水音だけが響いている。
「本当かなぁ。さっきの、脳天気な金髪女が言ってたこと・・・」
 少し考え込んだ後、ジークはきょろきょろと周囲を見回し、人影がないのを確かめる。
 そしておもむろに、滝の前に頭をたれ、祈り始めた。
 彼の願い事といえば、もちろんこれだ。
「強くなれますように。・・・父上の仇を討つための、本当の強さが得られますように」
 と、いきなり、近くの薮がざわざわと揺れた。そして、白い鎧と青いマントを身に着けた、大柄な赤毛の男が現れる。
「強さが欲しいとかいうのは誰かな? この、炎のオスカー様が力になるぜ!」

 御剣に起こされたジークは、目をこすりながら言う。
「守護聖様の夢を見ちゃったみたい・・・」
「おい、寝ぼけてんじゃねえよ。ゲームが違うぞ」



 『木は森の中作戦・2』

「御剣、今日、ジークとのデートすっぽかしたんだってね?」
 タキの言葉に、御剣は一瞬ぽかんと口を開け・・・次の瞬間、
「ああっ、しまったぁ! すっかり忘れてた!」
・・・彼らは今、神聖ローマ帝国辺境のとある城に、傭兵として滞在している所だ。
「ジークったら、可哀そうにねぇ。明日にも出陣だから、その前に、一緒に美味い店に行こうって張り切ってたのに」
 ため息をつくタキに、御剣はおろおろするばかりだ。
「お、おい、どうすりゃいいんだよ? それであいつ、一体どこへ行っちまったんだ?」
「さあね。あの坊や、すっかりヘソ曲げて隠れちゃったから」
「・・・隠れた、って?」
 タキはふっと笑うと、窓を開けた。城の中庭が見降ろせる。
 中庭といっても相当広く、そして、出陣準備中の騎士たちで埋め尽くされていた。彼らは揃いも揃って、全身鎧に身を固めている。
「ま、まさか・・・」
「そう。誠意を見せたいんだったら、この中から探し出して謝らなきゃね」
  木を隠すなら森の中。・・・で、2Pジークを隠すなら・・・。



   『木は森の中作戦・3』

「ジーク、ヤバいぞ。この先に検問所が出来てて、『黒い風』の首領を捕まえようとしてるぜ!」
 とある街道沿いの宿屋にて。御剣とジークは、これから出立しようとしていた所だ。ジークが鎧の装備に手間取っていたため、御剣は少しあたりをぶらぶらしていて、検問所を見つけたという訳だ。
 ジークは驚いて聞き返す。
「何だってぇ? それで、人相描きなんかはあったか?」
「それは無かったな。でも、『ジークフリート』って名前と、騎士崩れの大剣使いだってことはバレちまってる」
 そう聞いて、ジークはホッとしたように微笑む。
「なーに、心配すんな。それなら、半日もすりゃ、堂々と通れるさ」
「ええ? 本当かぁ?」
「大丈夫だって、まあ見てろよ」
 そして二人は、検問所の側の岩陰に隠れ、様子を見ることにした。

 程なく、大剣を持ち、髭を生やした、いかにも頑固な初老の騎士が通りかかった。
「ジークフリート・メッテルニッヒだが・・・何ぃっ! 盗賊団の首領だとぉ! このわしにそのような言いがかりをつけるとは、許さん! 成敗してくれるわ!」
 検問所の兵士たちは、真っ青になって謝り、何とかその場を収めた。御剣は、その様子を見ながら呟く。
「ほう、同名さんがいたな」
 と、そこへ、二十代後半らしい騎士が、馬を急がせてやって来た。
「おいっ、通せ、急いでいるんだ! 名を名乗れだと? ジークフリート・アドラーだ。・・・何だって? お前たち、主家に仕える騎士の顔ぐらい覚えろ! ほら、ご主君の書状だ。分かったらさっさと通してくれ!」
 しばらくすると、赤ら顔の中年の騎士がやって来た。小太りの体型と、背負った大剣とのアンバランスが、少々笑える。
「ジークフリート・フォン・マイヤーだ。え? 冗談言っちゃいけないよ、兵隊さん。私はねぇ、今日バイエルンから着いたばっかりなんだ。一体どうやって、『黒い森』で盗賊やるっていうんだい?」
・・・そんな様子を眺めつつ、ジークは苦笑しながら御剣に言う。
「実言うと、俺の名前って、そう珍しくもねえんだよなぁ。特に騎士だとさ」
 結局、二人が検問所を通ったのは、数時間後のことだった。
「ジークフリート・シュタウフェンだが・・・」
 そう名乗るジークの姿を眺めつつ、検問所の兵士たちは、またかという顔をする。そのひとりが、いかにも面倒そうに言った。
「ああ、こんな子供のはずがない、通れ通れ」
 堂々の正面突破成功であった。

TOPへ   「魂の歌」へ    同人誌紹介へ

☆これよりもあぶないネタは、隠しリンクにしてあります(笑)。
ヒント・「魂の歌」に戻って、ここのリンクの近くを・・・。