(完売のため、当ホームページに転載しました) 『乱入?』 「ふうん・・・これが、願い事を叶えるとかいう滝か」 ジークは、一見興味なさそうな様子で、小さな滝を眺める。静かな森の中に、その水音だけが響いている。 「本当かなぁ。さっきの、脳天気な金髪女が言ってたこと・・・」 少し考え込んだ後、ジークはきょろきょろと周囲を見回し、人影がないのを確かめる。 そしておもむろに、滝の前に頭をたれ、祈り始めた。 彼の願い事といえば、もちろんこれだ。 「強くなれますように。・・・父上の仇を討つための、本当の強さが得られますように」 と、いきなり、近くの薮がざわざわと揺れた。そして、白い鎧と青いマントを身に着けた、大柄な赤毛の男が現れる。 「強さが欲しいとかいうのは誰かな? この、炎のオスカー様が力になるぜ!」 御剣に起こされたジークは、目をこすりながら言う。 「守護聖様の夢を見ちゃったみたい・・・」 「おい、寝ぼけてんじゃねえよ。ゲームが違うぞ」 『木は森の中作戦・2』 「御剣、今日、ジークとのデートすっぽかしたんだってね?」 タキの言葉に、御剣は一瞬ぽかんと口を開け・・・次の瞬間、 「ああっ、しまったぁ! すっかり忘れてた!」 ・・・彼らは今、神聖ローマ帝国辺境のとある城に、傭兵として滞在している所だ。 「ジークったら、可哀そうにねぇ。明日にも出陣だから、その前に、一緒に美味い店に行こうって張り切ってたのに」 ため息をつくタキに、御剣はおろおろするばかりだ。 「お、おい、どうすりゃいいんだよ? それであいつ、一体どこへ行っちまったんだ?」 「さあね。あの坊や、すっかりヘソ曲げて隠れちゃったから」 「・・・隠れた、って?」 タキはふっと笑うと、窓を開けた。城の中庭が見降ろせる。 中庭といっても相当広く、そして、出陣準備中の騎士たちで埋め尽くされていた。彼らは揃いも揃って、全身鎧に身を固めている。 「ま、まさか・・・」 「そう。誠意を見せたいんだったら、この中から探し出して謝らなきゃね」 木を隠すなら森の中。・・・で、2Pジークを隠すなら・・・。 『木は森の中作戦・3』 「ジーク、ヤバいぞ。この先に検問所が出来てて、『黒い風』の首領を捕まえようとしてるぜ!」 とある街道沿いの宿屋にて。御剣とジークは、これから出立しようとしていた所だ。ジークが鎧の装備に手間取っていたため、御剣は少しあたりをぶらぶらしていて、検問所を見つけたという訳だ。 ジークは驚いて聞き返す。 「何だってぇ? それで、人相描きなんかはあったか?」 「それは無かったな。でも、『ジークフリート』って名前と、騎士崩れの大剣使いだってことはバレちまってる」 そう聞いて、ジークはホッとしたように微笑む。 「なーに、心配すんな。それなら、半日もすりゃ、堂々と通れるさ」 「ええ? 本当かぁ?」 「大丈夫だって、まあ見てろよ」 そして二人は、検問所の側の岩陰に隠れ、様子を見ることにした。 程なく、大剣を持ち、髭を生やした、いかにも頑固な初老の騎士が通りかかった。 「ジークフリート・メッテルニッヒだが・・・何ぃっ! 盗賊団の首領だとぉ! このわしにそのような言いがかりをつけるとは、許さん! 成敗してくれるわ!」 検問所の兵士たちは、真っ青になって謝り、何とかその場を収めた。御剣は、その様子を見ながら呟く。 「ほう、同名さんがいたな」 と、そこへ、二十代後半らしい騎士が、馬を急がせてやって来た。 「おいっ、通せ、急いでいるんだ! 名を名乗れだと? ジークフリート・アドラーだ。・・・何だって? お前たち、主家に仕える騎士の顔ぐらい覚えろ! ほら、ご主君の書状だ。分かったらさっさと通してくれ!」 しばらくすると、赤ら顔の中年の騎士がやって来た。小太りの体型と、背負った大剣とのアンバランスが、少々笑える。 「ジークフリート・フォン・マイヤーだ。え? 冗談言っちゃいけないよ、兵隊さん。私はねぇ、今日バイエルンから着いたばっかりなんだ。一体どうやって、『黒い森』で盗賊やるっていうんだい?」 ・・・そんな様子を眺めつつ、ジークは苦笑しながら御剣に言う。 「実言うと、俺の名前って、そう珍しくもねえんだよなぁ。特に騎士だとさ」 結局、二人が検問所を通ったのは、数時間後のことだった。 「ジークフリート・シュタウフェンだが・・・」 そう名乗るジークの姿を眺めつつ、検問所の兵士たちは、またかという顔をする。そのひとりが、いかにも面倒そうに言った。 「ああ、こんな子供のはずがない、通れ通れ」 堂々の正面突破成功であった。 ☆これよりもあぶないネタは、隠しリンクにしてあります(笑)。 ヒント・「魂の歌」に戻って、ここのリンクの近くを・・・。 |