特選・幻のシーン集 最終シナリオ編その2

★もうひとつの「勝元&オールグレン」没シーン 
ラスサムDVD版に収録されるという「勝元&オールグレン」と題された場面。詳細はまだ不明なものの(4月10日現在)、例の「殿お着替えシーン@東京」に違いないと、あちこちのファンが萌え転がっているようですが。
この二人の没シーンは、他にもあるのです……もしかしたら、そっちの方である可能性も無くはない。
氏尾と引き分けた後のオールグレンが、勝元とデート……もとい、野外で話している場面があります。萌え度では「お着替えシーン」に及ばないものの、オールグレンの思い出話が出てくるのは、結構重要ではないかと。

舞台となるのは、稽古場の近くのデートスポッ……もとい、見晴らしの良い丘の上。以下、やり取りをざっと訳してみました。(私の萌えコメントは青字にしてあります)
 勝元  : 腕を上げたな。(ほめてますほめてます!)
オールグレン: まだまだ初心者だよ。(謙遜してます!)
 勝元  : 謙虚だな、まるで日本人だ。(日本式の謙虚さを身につけた、と認めてくれてます!)
 (オールグレンは微笑むが、眼下の侍たちに目を留める)
 勝元  : 彼らは優れた武人だ。
オールグレン: あの全員を、榴弾砲の一撃で殺せる。榴弾砲、この言葉を知ってるか?
 勝元  : 知っている。どれだけ撃てるのだ?
(殿、新型兵器の知識はちゃんと有るのです)
オールグレン: 1分に3発。砲手の腕次第では4発。ゲティスバーグの戦いでは、3千人を15分で殺した。
(このセリフをどんな表情で言ったのか、すごく見てみたい……オールグレンは、この戦いで名誉勲章を貰ってます。「3千人が15分で死んだ」のは、ただのデータではなく、おそらく彼が目の当たりにした光景なのです)
 勝元  : 射程距離は?
オールグレン: 最大1マイル、有効射程は半マイル。
 勝元  : 半マイル先から人を殺すのに勇気は要らん。お前は、殺す敵の眼を見据えねばならない。
オールグレン: どの道、そいつは死ぬんだ。
 勝元  : 命を奪うなど大したことではない。名誉は奪えぬのだから。
オールグレン: (首を振って)名誉……。
 勝元  : お前は、それを信じぬのか?(ゆっくりと刀を抜き)帝が400年前、我が一族に賜ったものだ。多くの祖先たちが、帝に仕え死んでいった。我らの生は無意味だ……名誉無くしてはな。
オールグレン: 南北戦争で、南軍は彼らの信じる名誉のために戦った。貴方のように。そして何万人もが死んだ。
 勝元  : ならば、それは良い死だ。
オールグレン: 良い死なものか! 彼らの土地は踏みにじられ、家族は飢え苦しんだ……命に何の価値もないというのか?
 勝元  : お前が、命の何を知っている? 金目当てで戦いに来たのであろう。お前の家族はどこにいる? 妻は、息子は? 祖先より受け継いだものは?
(殿、容赦ありません。大村を詰問した時のあの口調でしょうか。それとも、突き放すように冷たく? どちらにせよド迫力間違いなし。……しかし、妻子発言は微妙だなぁ。オールグレン、映画本編では独身っぽいけど、『実は離婚歴が』なんて裏設定があったらどうしよう(笑)。それはそれで萌えかもしれんが)
オールグレン: (激しく)貴方はどうなんだ? 名誉なんかで、鉄道も近代化も止められやしない! 南軍には出来なかった、インディアンにも、そして貴方にも!
(オールグレンも一歩も退きません。ここまで真っ向からぶつかり合うシーンって、他に無いんじゃ? と思うと没ったのが惜しい)
 (勝元はただ、オールグレンを見つめている)
 勝元  : アメリカ人は、扱いづらいと聞いていたが。
(原文では「difficult people」。「気難しい」あるいは「扱いづらい」人々。そうか、気難しくて扱いづらい虎猫ちゃんなのか(笑))
オールグレン: 日本人は、お人好しで礼儀正しいと聞いていたけど。
(殿は、言いたいことをズバズバ言っちゃうタイプ。ある意味「日本人離れした」キャラですよね)
 (ようやく、わずかな笑みが通い合う) ←仲直りー☆
 勝元  : 帝に接見を申し込んだ。あの方はまだ若い、申し上げねばならぬことがある。返事を待っている所だ。
(これは「Perfect Blossom」シーンの伏線。勝元の「明日上京する」発言には、ちゃんと前置きがあった訳ですね。本編ではいかにも唐突で、殿に振り回されるグレンたん萌え……もとい、「いきなりだなオイ!」と突っ込みが入る所でしたが)
オールグレン: いつ峠道が開けたんだ?
 勝元  : もう開けている。
オールグレン: 俺を東京へ帰すつもりか?
 勝元  : そして、お前は大砲を持ち、我らを倒しに来るのか?
 (オールグレンは、その問いに打ちのめされる。その時が来たら、どうすればいいのか?)
「打ちのめされる」って。すでに敵だったことなんか忘れて、勝元を慕っていたってこと? ……なお、この後に祭りの夜のシーンが来ます。当日ではなく、多少時間が過ぎてるようですが)
南北戦争の話は、オールグレンの背景を考えるのに、実はかなり重要かもしれないですね。
思うに彼は、当時から「命を捨ててまで守るべき『名誉』とは?」という疑問を持っていたのかと。南北戦争は、単純な「奴隷制に賛成か反対か」じゃ片付かない、様々な政治的事情から起きたもので、南軍側にも愛郷心と譲れないプライドがあった。彼はそれを理解しつつも、その結果を見てしまうと共感しきれなかったのでは。
そして「自分にとっての名誉=無力な人々を守って戦うこと」という結論を出したものの、ウォシタの事件はその「名誉」を踏みにじるものだった。インディアン村の死者たちの背後に、オールグレンは、南北戦争の何万人もの戦死者を見ていたのでしょう。
屍の山を踏み越えて生き残り、戦士たる誇りをもって自分を支えてきたのに、行き着いた先は「ただの虐殺者」だった、という結末に絶望しながら。

なお映画本編では、インディアンとサムライのイメージを重ねる感じで描いていますが、さらに「南北戦争での南軍」のイメージも重ねるのが、ズウィック監督の意図だったようで。この部分を切ったのは時間の都合か、他の事情があるのか……いずれにせよもったいない。もう、4時間行っちゃってもいいからディレクターズカットが見たいですよ。

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