208話「守護神」
今回は、本当にもうヘヴィな回というか、ギャグ突っ込みなど全く入る余地のないシリアス展開に思わず涙。
ペルFan、ペルビビ派の皆様、号泣だったでしょうね。
これまでのワンピじゃ、「メインキャラの近しい人物が死ぬ」というエピソードは、描かれるとしても「過去のこと」で、関わるキャラの中でも、それなりに心の整理がついていた気がします。
しかし、このアラバスタ編では、ビビの親しい人々が、リアルタイムで次々に倒れてゆく・・・見ていて辛いです。ビビ自身はもっと辛いでしょう。船長、みんな、どうかビビを支えてやってね。(つーかさっさとクロコ倒せ・・・)
ペルの最期については、様々なイメージが交錯しますね。ベースには、神話的な「生贄の神」のモチーフ。その上に「戦争」の影を持ついくつものイメージが折り重なっているような。
神風特攻隊、広島と長崎、そして貿易センタービルのテロ。現実の戦争では、「守るため」に飛び立つ者たちが、結果的には破壊を行う。
だからこそ「破壊するため」ではなく「守るため」に飛んだペルの姿に、純粋な気高さを感じるのかもしれません。
崩れ落ちるファルコン像のシーンが、涙出そうに切なかった。
優れたクリエイターの作品は、時に「現実とのシンクロ」を起こすと言いますが、9月11日のあの時点で、尾田先生の頭にはすでに、今回のプロットがあったことでしょう。だから先生自身、ある種の震撼と共に、その瞬間を描いたのだろうと・・・そんな重みを感じさせる回でした。
・・・でもって、勢いで思わず↓こんなものを。(今回、影も形もなかった連中の語りってのもどうかと思うが)
今週のミニSS 〜ペル様追悼編〜
「なあ、たしぎ。アラバスタでは本当に、色々なものを見たなぁ」
男は、葉巻に火をつけながら、静かに問うた。
「その中で、お前にとって、忘れられないものは何だ?」
女剣士は、目を閉じる。瞼の裏に浮かぶ、様々な記憶。
そしてアラバスタの事件の中、最大の山場であった、あの瞬間。
「はい・・・最速、最強の翼を持つ男の、誇り高き最期を・・・」
たしぎ率いる海軍の一隊は、バロックワークスの刺客を退けた後、
麦わら海賊団の援護のため、広場へ向かおうとしていた。
しかし、手間取っている間にゼロアワーは近づく。爆破阻止の成否は。
それに「砲撃」は防いでも、敵は最後の手段として、
砲弾そのものを爆発させようとするかもしれない。
その時。不意に、時計台の上から、飛び立ったものがあった。
「あれは・・・?!」
「曹長、隼のペルです! それと、砲弾らしきものと・・・」
たしぎは、部下の差し出した双眼鏡を、引ったくるように眼に当てた。
視界に捕らえたその「鳥」は、まっしぐらに空を指し、舞い上がってゆく。
脚に、巨大な砲弾をつかんで。
・・・彼女の脳裏を、一編の古詩がよぎった。
ここへ来る前、船中で目にした、アラバスタ王国の資料。
読み飛ばしたはずのその一節が、鮮やかに甦ってくる。
我はファルコン アラバスタの守り神
王家の敵を討ち滅ぼす者なり
強く気高き翼に、何十万の命と、運命とを背負って。
詩に描かれた姿そのままに、砂塵混じりの風を貫き、
隼は中天へと駆け上がる。
「アラバスタの、守護神・・・」
砂の王国を守る「隼の神」の似姿として生きた男。
最速、最強の翼を持つがゆえに、
今、最も重い役目を負い、飛び立ってゆく。
たしぎは夢中で、双眼鏡の調節リングを回した。
永遠にも思えた数秒の後、レンズが捕らえたものは、
本当に満足げな、誇りに満ちた、ペルの微笑だった・・・
そして次の瞬間、爆発が天地を揺るがした。
「もし私に、同じ力があったとしても・・・多分、同じことは出来なかった」
たしぎは、低く呟く。そこには、自らの無力への苛立ちより、
死んでいった男への畏敬があった。
「私は・・・あの瞬間、ペルの姿に、確かに『神』を見たんです」
「奴は、一人の能力者だ。それ以上でも、それ以下でもない」
スモーカーは、彼女の感傷を断ち切るように答える。
「この俺が、そうであるようにな。だが、確かに・・・
あの時、奴の中には、『神』がいたのかもしれねぇ。
そしてお前は、神話の一幕に立ち会ったんだよ。
あの国で永遠に語り継がれる、『隼のペル』の伝説にな・・・」
余談ながら、来週のタイトルは「グランド・ゼロ(爆心地)」かもしれない。
(予想外れたら笑ってやって下さい ^^;) |