QJYつうしん 第10号

休日は山にいます
平成7年11月4日

うちの裏山はみんなの裏山 東区/牛田山・広島市(261m)

登る人みんなが私有化してしまう困った山がある。うちの山だ。いや、そんな筈はないので正しく言えば、登る人がそれぞれここを「自分の裏山」としか思っていない山、それくらい身近に愛され、大事にされている山、牛田山。本名を「茶磨山」(ちゃすりやま)と言うが、そう呼んでいる人には会ったことがない。


私の住んでいる牛田新町はもとより、広島駅に近い側の、牛田町(大住宅地だ)、山をはさんで戸坂地区、中山町、この周囲に住む人の数は相当なものだが、いつも身近にある山だけにみんなが「うちの裏山」として親しんでいる。


頂上に登ると、あながちこの話がでたらめでは無いことがわかって貰えるものと恩う。

やはり毎日のように登っている人達が作ったベンチや小屋、花畑や植木、鉄棒まで。


トタンの箱の中には自由に書いて欲しいノートがあって、大勢の人達の「山」に対する意見や話が書き留めて有る。ああ、これを「私有化」と言わず、なんと言う。

従って、私も牛田山を「うちの裏山」と呼んで、他の山とは区別して、つまり「地権者」として宣言せざるを得ないのだ、


私の家はその登り口にある。ルートで言うなら「不動院ルート」。日曜ともなればリュックを背負った人が山に吸い込まれていくのを見かける。ゆっくり上がって1時間を越える事の無い山道は、春のミツバツツジの頃、夏はナツハゼ、秋は木ノ実がいろいろと山歩きの人達を歓迎してくれる。草花だけでは無い、都会地の緑の森は野鳥の楽園にもなる。春はウグイスを散歩させる人にも出合うし(まさか!、烏かごを持った人、声の練習だそうだ)、木陰で尺八や謡の稽古をしている人、クラブ活動の生徒達、多彩な顔ぶれがここに集まる。


そんな訳でここに登るルートはたくさんある。わが家の場合、他のルートに降りてしまうとまた家に帰るまでが遠くなるので選択の余地は余り無いが、どこに降りても交通の便ほ悪くないので登る度にルートを替えても面白い。出合った人同士の会話は必然的に「どこから登られましたか?」が多くなる。


 

それほど愛されるこの山の一番の魅力はな一んだ?

正解は「山頂からの眺め」。周囲が市街地だから、つまり広島市が見渡せる、と言うわけ。


特にここは広島デルタの頂点にあたる為、南方面の見晴らしは最高だ。すぐ前は「二葉山」の仏舎利塔、その向こうに「比治山」の緑、市内の川が銀色に光って宇品沖の「安芸の小富士」や遠く「厳島」が箱庭の様に見える。西には経済大学の「武田山、火山」、その向こうには「東郷山」や「窓ヶ山」、晴れていれば遠く「十方山」、北には毘沙門、或いは可部の山々、東はお隣、戸坂の「松笠山」や温品の後方だから県緑化センターや市の森林公園の山のはず。


一回り山頂の風見鶏を演じた後はベンチで山のノートに目をやる。いつものおじさんがいれば「ほ一い、ほ一い」とタヌキの家族を呼んでパンを与える筈だ。このタヌキ、わが家にふらふらとやってきた事もあったが、本で見るのとは大違い、毛は抜け(伝染病)、まあ臭いこと。大体、餌付けなどはしてはならぬと一般に言う事だが。


この周囲を人家に囲まれた閉鎖地で野生のタヌ公が自活出来るはずはない。大目にみてやる必要もあると思う。近くで見るとゲンメツだが、タヌキの親子連れを見てほほえましく思わない人がいればよほど冷たい人かも知れない。夜、ごそごそ歩き回るタヌキは野良ネコも一目置いているらしく、接近は避けている様子、ネコの方が逃げる姿を何度か見ている。


タヌキがどれほど生息しているのか知らないが、人との接近による病気や閉鎖社会の近親婚など課題が多いのも事実。

ところで、11月は4日に登ってきた。いつも登っているのでフィールドノートに書き留めるのをつい忘れてしまう。フィールドノートを書く癖は日頃から養わなければならない。

うちからのルートではまず娘が熱帯魚の水に利用している湧水を経てツバキの森に入る。

ヤブツバキは早春にならないと花は咲かないが、何やら鳥の声が騒がしい、メジロの群れだ。樹冠に咲くシロダモの花を囲んでおしゃべりに余念が無い。山道を南に取り、コウヤボウキの小枝の生える道を歩いているとヤブムラサキ、カクレミノ、ヒサカキの実が行く秋を惜しんで実っている。ピーピーうるさいのがヒヨドリ、ヤシャブシの実はもうすぐアトリの仲間が取りに来たような気がする、尾根道を歩くと戸坂からの道、神田山荘からの道などと合流する。

ほとんどが国有地であるため「将来の開発が」、という不安もそれほど無い。


山頂を越え南側には道がいくつも続く。女学院大学の構内へ降りる道まである、出口は正門だ。中でもお薦めは「神田山荘」への道、510円で入浴できる。温泉も出たぞ。

赤い実のカマツカ、タカノツメ、コシアブラ、ケヤマハンノキなど名前を覚えさせてくれたうちの裏山の樹木達よ。正月にはウラジロを、墓参りにはシキミを、豊かでは無くとも精いっぱいの「裏山の幸」を与えてくれる牛田山。


うちの自慢の裏山。

晩秋譜

words&music

bySetsuoManabe

ああ今夜は、星が見えそうだ

そして月が昇ったら

裏山に登って、むしろを敷いて

おまえのお酌で酒を飲む


ああ今夜は、風もなさそうだ

そして酒も切れたら

柿の木に登って、空を見て

星屑おかずに飯を食う


ああ今夜は、涙枯れそうだ

そして酔いがまわったら

とっくりを枕に寝そべって

すずむし集めて演奏会


ああ今夜は、語り明かそうか

そして夜明け前には

冷えきった体を寄せあって

最後のマッチで落ち葉焚き