瀬戸内海の春の島 文珠山・嘉納山/周防大島(山口県)
ここは年中「春の海」。
気だるいような春の暖かさと潮の香りが郷愁にも似た雰囲気を作っている。ここ周防大島は本名を屋代島と言い、瀬戸内海の島としては淡路島、小豆島に次いで3番目の大きさを誇る。各地にある「大島」の中で1番の大島で有るといえる。
本土側は「大畠」。その間を大畠瀬戸といって有料の大島大橋が架かる。有料となって久しいがこの夏には無料化が予定されていて、島にとっては大きな変化がもたらされる事になろう。
そもそも島にとって、橋の存在は大きな社会変革だ。それは革命であり歴史の変わり目でもある。島民にとって橋が渡るということがどれだけ大きなことか、恐らく部外者には理解出来ないだろう。
どんな島でも本土とつながることを夢としてきた。小さい島なら近隣の大きな島と、大きな島は本土と。
それで生活が変わる、若者がとどまる。
そして、それでもある程度の隔たりをおいてきた本土との有料橋が今度「無料」になる。
吉とでるか凶とでるか。
心配されるのは釣りのメッカが荒れてしまう事、静かな春の海が都会のリゾートとして、繰り返されて来た「乱開発」と言う同じ轍を踏む暴挙を繰り返すのではないか、という不安。
老婆心からの心配事が思い過ごしで有れば良いのだが。
文珠堂
大きな島だけに最東端の伊保田まで車を走らせると約1時間かかってしまう。それだけに今回向かう文珠山までは大橋を渡り最初の港町三蒲まで着けばあとは一本道。
車の置ける文珠堂まではほとんどすれ違う車も無く、すいすいと来る事が出来る。
大同元年(西暦800年)、弘法大師の開刹という文珠堂は日本三文殊のひとつといわれ霊験あらたかな学問の神様でもある。いや文殊を神様と言うのは厳密には間違いであるが。
また何故かここでは文殊を「文珠」と書かれていて、その意味も調べ様も無く、無学を露呈してしまうからやはりここは学問の必要な山なのだろう。
文珠山(663m)
登山道は周防龍岩寺の文珠堂から始まる。
ウバユリの新芽が山道を新緑のみずみずしさで飾っていた。吹く風がやや冷たく、春はまだまだこれから、の感がする。
お参りに来ていた地元の人が、自分はまだ登ったことがない、と話し掛けて来た。地元の人というのはだいたいそんなもので、いつでも登れる、と思うとなかなか登らないものらしい。
突然、上空をかすめる様に米軍のジェット機がけたたましい音を立てて通り過ぎていった。
岩国が近いのだ。山歩きにはあまり似つかわしくない現実に晒される。
足元にかわいらしいサンヨウアオイだろう、ユニークな模様の葉を見せて春を感じさせてくれる。そっと根元を探るとこれまたユニークな花がついていた。
やや急な上りを30分も続けただろう、文珠山の山頂だ。立派な木造の展望台がある。
先ほど渡った大島大橋やその向こうの琴石山、小松や三蒲の町並みが見下ろせる。
アオキの森
背丈ほどのササ原を平坦な道が続く。目指すは大島の最高峰嘉納山、展望は悪いがなだらかな山道である。標高685mは小豆島の星ケ城に次ぐ第2の高さを誇る。
陽の当たらない山道はアオキが赤い実をつけていた。稜線沿いですれ違ったグループが「何も花が無いですね。」と、残念そうに言う。確かに時期的には春はまだまだ遠い。そう言われると風の冷たさが実感として分かってくる。
土手のような土塁が続いていて、その昔攻め寄せる外敵を防ぐための施設であると倒れた看板に書いてあった。周囲を海に囲まれた島だからこそこういうものが必要なのか。
約100年前は長州騎兵隊が討幕に立ち上がった歴史もある。大島は戦場でもあった。
頂上までのアオキの森をイタビカズラやコクサギ、クロキが趣を添える。
嘉納山(685m)
三角点に着くとぱっと広がる瀬戸内海の春の海だ。この日はややガスがかかって見晴らしは良くなかったけれど、第六管区海上保安本部とある無線施設までの頂上広場は、四方を海に囲まれた展望の良い山頂であった。
フキノトウやタチツボスミレの花が咲いている。金網に絡み付いていた大きな実は恐らくカラスウリであろう。
登山者の多い証でもあろうが、散乱したゴミはいただけない。
風を避けて昼食を山道でとっている人達もいた。
帰路はあっという間に文珠堂まで戻ってしまう。秋ならムベの実を食べながらの下山であったろうに。
果子乃季
今日が息子の17歳の誕生日である事は出掛けるときから分かっていたが、今更ケーキもあるまい、とはいえ、本人は結構期待しているかもしれないのでこの店に寄る事とした。
柳井市のあさひ製菓の直営店果子乃季だ。
名物はどらやき。チーズ、バター、各種あん7種類あって選択に困る。この店はコーヒーを自由に飲むスペースがあって、買った菓子を喫茶コーナーで食べる事も出来る。
客の絶えない訳だ。
和洋の菓子やお土産が豊富にある。
コーヒーとシュークリームを戴いたあと誕生日ケーキを買って帰ることにしよう。
こんな風に立ち寄れる店が有ると山歩きも楽しみが増える。
皆さんも一度寄ってみて下さい。
植物のことわざ 平木輝夫氏のノートより
コブシの花が咲くとダイズを蒔かねばならぬ
コブシの花が咲くとモミまきせにゃならぬ
散ると田植えを始めにゃならぬ
コブシの花の少ない年は凶作、
コブシの花が上を向いて咲くと豊作