QJYつうしん 第38号

     休日は山にいます 平成8年8月17日

 

 花の名前を覚える秘策  例として、オミナエシを究JYする

 

花とのお付き合い

花の名前を覚えられない、という貴方。

観察会で良く「あれは何?この花は?」と、質問を受ける。其のたびに教えても、帰る頃にはもう忘れてる貴方。私も実は物忘れが多く、失敗談を披露すればキリが無い。

で、良く考えてみよう。

花とお付き合いをするつもりで名前を覚えてみようとしたことがある?

人間関係なら、結構人の名前を覚えているのに。人間と花とは違うのかなあ。

同じホモサピエンス、種の同じヒトを名前分けで区別できるのに。種類や属、科の違うものを分けられない筈が無い。

実際、近所の人や親戚縁者は個別に名前を判別できて、又、紹介された人を簡単に覚えている。ま、簡単でもないが、付き合いの深い人は何年かたって出会っても忘れない。

これはヒトという生き物を個体ごとに判別できる人間の特殊技能。

ならば、顔、形の違ういろんな花を判別するなど簡単なこと。要はお付き合いする気があるかないかの問題となる。

つまり、貴方に覚えよう、お付き合いしようという気持ちがあるか、と言う事。

覚えることは名前だけじゃ無い

人の名前を覚えようとすると、メモをとったり、名刺を交換したり、商売上では人間は努力を惜しまないようだ。

植物の名前でもそれは同じ事。メモは重要な覚え書き。それだけじゃない、知ってる人はその花の言われ、別名、用途、出合える他の場所

など付随知識を教えてくれる。

 

良く知ってるなあ、と感心する前に自分でも知る努力をして欲しい。

その日知った花はその日のうちに図鑑でもう一度確認してみる。基本は図鑑にも見た場所、日付を書き込むこと。

好きこそものの上手なれ

別に今日覚えたことを試験に出される訳じゃない。知らなくたって、明日からの生活に影響は無い。だけど、花の名前は知っていると「楽しいよ。」

私自身、知っていて損したことはないし、花に関する知識はまず名前を覚えてから広がる。

この花が薬用としてどう利用され何に効くか、などという知識は花を愛しているからこそ広がって行く。そう、好きこそものの上手なれ。

お付き合いは、いやな人とはしたくないよね。

花と付き合って、花の好きな人と知り合いになるのだからこれ以上いいことは無い。

お付き合いしようとする前向きな姿勢で覚えた花の数が今の知識すべてだ。

特に別名や地方名を一緒に覚えてしまうなんて、本名すら覚えられなかった先日までと自分が変わったことに気づくはず。

花も人も違いは無い。

好きになることで知り合いになる。

更に上級、オミナエシを究JYする

ある花を覚えたら次にその花の身辺を探ってみよう。

身上調査ではないが、名前だけでは知り合いとは言えないぞ。

ここではオミナエシを例にとり知識の輪を広げてみる。

オミナエシを漢字で書くと女郎花となる。秋の七草として有名。百科事典や植物の図鑑でこのオミナエシに関することを出来る限り拾ってみる。

まず科名、これはオミナエシ科。

単独の科名を持っていたんだ。図鑑で調べると、世界に13属、360種ある、と書いてある。

広島県内でみる仲間は、オミナエシ、オトコエシ、ツルカノコソウなど。

花の時期はオミナエシが丁度今からなので、実物で確認すべき事項をメモしておく。

特筆すべきは熟した子房(めしべの下部)を横に切ると3室ある種子の部屋のうち実際種が入っているのは1室のみであること。



これはオミナエシ科の特徴。

名前の由来は、花が粟メシに似ていてこれをおんなめしと呼んだことから。従って男の飯であるオトコエシは白い米のご飯だった。

植物の名は国の文化でもある。今は名を入れ替えた方がぴったりするかも。

オミナエシやオトコエシの花の咲いている場所はかなり多いはず、誰かに花の見られる場所を教えてもらう。そうして見つけた花はますます忘れられなくなる。私が山で目的の花に逢えた時恋人に逢った気持ちになる事を分かってもらえるだろうか。

醤油が腐ったような匂いがすることから薬用になる根を敗醤根と呼び民間薬で利尿、漢方で排膿に利用するそうだ。

さらに広島大学の神田博史先生の著書、広島県の薬草ではオミナエシとオトコエシを並べて植えておくとオトコオミナエシが出来る、と書いてある。

なんじゃそりゃ。

地方名や効能をこうやって自分で調べることは植物とお付き合いする上で中級以上のテクニック。

芸北町では春の菜の花畑みたいに畑一面黄色に染めてオミナエシが咲いている。

盆花(墓参りに手向けるための花)として栽培されているのだ。

純な黄色の花を見ると優しさが溢れている。もっとも花の匂いはいただけない。とても臭い。

 おみなえし さかりの色をみるからに

 露のわきける身こそしらるれ 紫式部

 女郎花少しはなれて男郎花       立子

さあ、これで貴方もオミナエシ博士。

秋の七草

ついでに秋の七草について知っていると面白い。春ほど知名度が無いので知っている人は少ない。関連事項はこうしてクリアーする。

え、試験勉強みたい?

まずは私のオリジナル覚えかた。

はぎ、おばな、なでしこ、ききょう、おみなえし、くず、ふじばかま これぞ七草。

@ 萩 言わずと知れた秋の代表、県内に多いマルバハギ、ヤマハギ、コマツナギを覚えよう。

A 尾花 はススキのこと。オギとどうやって区別するか。

B 撫子 という名のナデシコはあるのだろうか。優しい花の代表。

C 桔梗 昔はアサガオのことをこう呼んだらしいので要注意。山で出合うと感激するネ。

D 女郎花 この花のか細い茎を見ると、台風の後は倒れていないかいつも気になる。

E 葛 雑草扱いされるけど風邪をひいて寒気がすれば葛根湯。クズの根を利用した薬。

F 藤袴 今では自生を確認できない、植物公園でしか見られないが仲間のサワヒヨドリを湿原で見かける。

  もともと人が決めた秋の七草、見られない植物があるのなら、いっそ貴方の近所で見られる秋の七草を決めてみればいいのではないだろうか。自分が本当に秋を感じ取れる七草、さあリストアップしてみよう。

  最後に好きな句を

 秋草の名も無きを我が墓に植えよ 虚子