QJYつうしん40号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成8年9月20日

 

山頂のデート 三島さいこ嬢と再会  薬草の山 東城町/猫山  1196m

雨がなんだ

朝から今にも降り出しそうな空、いつもはお天気次第でその日の行動を決めるが、今日はせっかくの休日、デートでもあり雨天決行。

山陰は雨というラジオの話、涼しくていいや、という「やせ我慢」、そう、山歩きに雨なんか関係ないぞ。

とは言うものの中国道は三次近辺で最悪の雨模様。霧と降雨で七塚原のサービスエリアでも傘をさす始末、まあ台風でも無いし頑張って行こう。

山頂のデート

なにしろ今日は目的地「猫山」で待っていてくれる美人がいる。静岡県の三島市出身の小柄な彼女の名は「三島さいこ」さん。「さいこ」は彩子でもないし最古でも無い。

彼女の名は三島柴胡、広島大学の薬草の大家「神田博史」先生によると彼女に会えるのは広島県ではこの山しかないとのこと。

実は昨年もここで密会しQJYつうしん第5号で登ったことを告白しながら彼女とのデートは秘密にしていた。

本当の事を言えば写真に撮った彼女の名前が分からなくて図鑑で調べること何ヶ月、初めて見る風貌に名前の見当がつかなかった。

そしてやっと見つけた彼女の名前。

ミシマサイコ(セリ科)、三島に薬草である彼女の自生地があったためこの名がついた。

漢方薬である。

中国から輸入された柴胡剤(ミシマサイコの根を干して、他の薬と配合し利用)が巾を利かす現代であるが肝臓の薬としての需要も多く、各地で薬品会社との契約栽培で生き延びてい

 

る。

アケボノソウと登山道

猫山は第5号で紹介しているが、いまいち登山口が分からない、と言う人が多く、質問も受けたのでもう一度明らかにしよう。

三角形の建物、道後山に面した猫山のスキー場のシンボルがあるが、要はスフィンクスコースのてっぺんに上がって欲しい。山に向かって右端の、一番上のリフトだ。右端の植林に沿ってチゴユリやツクバネソウの咲く登山道があるが初めての人は分かり難い。

リフトを目指すのがいい。

車は別荘の並ぶ中に停める。別荘と言っても実際はスキーシーズンの立派な山小屋である。

あたりはアケボノソウが咲き乱れる。せっかくだから暗い山道より明るい草原を上がろう。

うす紫色のシソ科植物ヒキオコシが点在する。別名、延命草は薬効の確かさを表わしたこの草の歴史を表わす。弘法大師が行き倒れの病人を引き起こし、この汁を飲ませたと言う。

出発地点からこれだけの花があるのだからこの山は見逃せない。

別荘の周りにはヤクシソウ、オトコエシ、センボンヤリ、アリノトウグサなどがあり、季節を間違えたタチツボスミレも咲いていた。昨年の種か、マツ、ヒノキ、スギも一年生が芽を出している。

茎(木通)を更年期障害に利用するアケビ(ここではミツバアケビ)のつるもあった。昨年実をいただいた木も今年は実っていない。

スキー場の山道は雨に濡れた草ででズボンや靴がすぐにびしょ濡れ、ゴマナやアキノキリンソウ、ヤマアザミが目を楽しませてくれる。

曇天の空をすっかり忘れる秋の山野草たち。

オトギリソウ(小連翹 しょうれんぎょう)はその薬効を恋人に漏らした弟を鷹匠の兄が起こって斬り殺したと言う伝説からついた名前。

下部の葉に付いた血の跡が赤く目にとまる。民間薬でもあり漢方薬でもある。

 

雨があがった

スフィンクスコース右から本来の登山道に合流しよう。雨具をつけたとたん雨があがってしまった。ここから役の行者を奉った祠のある小屋までも秋の花が勢揃い。

キバナアキギリの咲く足元にキク科のモミジハグマが可愛い花を咲かせていた。茎根が痔薬というサラシナショウマ(薬名・升麻)やアキチョウジは今が盛り、オオカニコウモリの花の香りを嗅いでみる。虫が喜びそうな強烈な香り。

この際、香りにもこだわってみよう。

部分的にヒノキ、スギの植林がなされている。スギヒラタケのやわらかそうな姿。

樹木でタムシバが多い。葉を噛む、噛むし葉の語源どおりハッカ系の甘みのある葉は忘れ難き香り。ここ東城町の花「コブシ」は実際はタムシバではないか?地方名としての誤認だから問題は無いが。

ミヤマシキミの赤い実、ミヤマガマズミも少しだが実を残している。丸いドングリのウラジロガシの葉は胆石、尿路結石に薬効あり。

ホツツジが見え始めた、白いもの、ピンク系、色はどうして決まるのだろう。

振り返ると道後山山系が雨上がりですっきり見渡せる。

ところどころに樹皮(薬名・和厚木)を乾燥させて胃薬とするホオノキがある。クロモジ、ダンコウバイ、ダイセンミツバツツジやアクシバも歓迎してくれている。

クライマックス、さいこ嬢

三角点のある頂上はあっけなくやってきた。花を見ながら約2時間、しかしここで引き返してはさいこ嬢には会えない。

さらに南へ進むと目的地の開けた場所に出る。晴れていれば一望の小奴可の町は雲海の下でまったく見えない。

ヒロハヘビノボラズの赤い実。

図鑑には蛇紋岩地で育つ、とあるが、そう言えばここのお花畑には岩がころがっている。

カワラマツバやシモツケソウの葉に混じって大型のフウロソウ「イヨフウロ」があった。リュウノウギクは残念ながら未だ蕾の季節、香りにこだわるならこの葉、これほど優雅な香りも珍しい。

一年ぶりに見るネコヤマヒゴタイも健在だ。中国新聞「続・ふるさとの山歩き」で「球状の藍紫色の花」とあるが、それは間違い、良く似たホクチアザミとの差違は葉の裏がすっきりと無毛であること。

晩秋の種子を薬とするカワラナデシコ、薬草でなくとも薬草らしいヤマラッキョウに混じって、あったあった「ミシマサイコ」だ。

雑草に見え隠れしてはにかみ屋の彼女は黄色い装飾品のような花を見せてくれた。周りにはトリカブトやワレモコウが秋を彩っている。

根は前者が毒(附子)、後者は薬(地楡)。

雨は結局ほとんど気にならない程度であった。ミシマサイコは背丈も低く、即ちブッシュが茂っている所では育たないはず。かろうじて数本のサイコを確認。コゴメグサも近くに咲いていた。これで安心して昼食がとれるぞ。

嬉しさで時間を忘れる山歩きだった。雲を下に見て露出した蛇紋岩の上に腰をおろす。

石英班岩、かんらん岩と特徴のある地質。

道後山に登る百人に一人もここには来ない。


 

{質問}風呂や水洗便所のある、安くて近くて         便利なキャンプ場を教えて下さい・・・。

{答え}はい、家にテントを張って下さい。