QJYつうしん 41号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社   平成8年9月22日

 

全山ブナ林、広い山を広く歩く     頓原町/大万木山(島根県)1218m

漢字でブナは「木へんに無」

何しろ私のワープロに入っていない字なので書くことが出来ないが、語源としては役に立たないという意味らしい。本当にそうだろうか?

辞書では薪炭用とあるから、あまりこれといった用途の無い材だったのかも知れない。

本日向かう山は大万木山、島根県民の森の一部を構成する。この山の特色は山全体を構成するブナ林の圧倒的な大きさ。

有効利用できない木でも、その存在価値は緑のダムとして異名をとる程、つとに有名。つまり大地に隠された保水力は里山の田畑を年中潤してきた。もちろん水害から麓の人々を守ってもきたのだ。

ブナの目立たない利点として、食用になる木の実がある。森の動物達を陰ながら支えてきたブナは日本の森林の原点でもある。

三つの登山路・舞鶴高速道路

車がもう一台あるととても便利な利用の仕方。二つの登り口それぞれに車を置いて登山と下山のルートを変えることができるのだ。

最初の門坂Pに私達の車を置き、本日同行の西廣さん御夫婦の車で、歩くと2〜30分かかる南側の位出谷Pに向かう。つまりここには登山口が左右にあり、それぞれ素晴らしいルートなのだ。左を滝見コース、右を渓谷コースと呼ぶ。名前のとおりきれいな水の流れに沿った、花の山歩きができる。ここの水は飲用可。

そして今回は利用しなかったが中央の権現コースも見逃せない。

私はこのコースを権現コースとは呼ばないで舞鶴高速道路、あるいはマイヅルバイパスと呼ぶ。其の訳は6月にここに来てみると分かる。中程の大万木権現あたりの植物群もいいが山頂直前のマイヅルソウ群落の素晴らしさ。なにしろ山道が両側足の踏み場に困るほどマイヅルソウで埋め尽くされる。

で、高速道路はここを利用すると早く山頂に立つことが出来ると言う事。ただし坂道は急峻で注意を要する。

よく「急坂は登りでは辛いから下りで利用しよう。」と登山計画する人がいるが、山歩きの観点から言えば間違い。このルートを利用してもしなくてもこのクラスの山はどっちみちシンドイ。

下りで膝を痛める危険性は良く考えておく必要があるのだ。

さあ、出発

ブナの原生林を楽しむのはどのコースでも問題無いが今日は太平洋岸を通過した台風の吹き戻しが強く、風下になる渓谷コースがいい。

キバナアキギリ、アキチョウジの咲く山道をゆっくり登ると、春には多いチゴユリ、ホウチャクソウの愛らしい葉が足元にある。

樹木は名札を適当に付けてあって訪れる人達にはとても親切だ。別名をアズサまたはヨグソミネバリ、本名ミズメの木があった。これなど名札が無いと気がつかない。幹を少し剥がすとサロメチールの香り、酔いそうだ。

ハクウンボクの赤ちゃんが柔らかい葉を一人前に付けている。水場もあちこちに見られる。

右手の道に入ると龍門滝まで寄ることが出来る。寄り道はしないで山道を進むとミヤマイラクサが花をつけていた。ヤブレガサやカニコウモリも。

やがて静かの森に入る。今日は上空をざわざわと風が強く名前負けしているが、普段は野鳥の声に耳を傾ける素晴らしいコース。

やっと半分の地点あたりから目指すブナが現れた。ここを初めて訪れたのはもう一ヶ月あとの紅葉のシーズンだった。ブナの黄葉がこれほど奇麗だとは、と感激したのを覚えている。

 

 

まるでこの山は植物園

ハリギリの大木、昨夜からの強風で特徴ある葉が落ちていた。

ジンバイソウ、オオイワカガミ、イカリソウを葉で確認。

オオユキザサは赤と白の丸い真珠の玉をたくさん見せてくれる。

キノコのシーズン真っ盛り、ツリガネダケは面白い形に似合わず固い。枯れ木になったブナに白いブリハナタケがついて、良い香りが漂う。林床のドクツルタケは白磁の陶器製の置物の様。

キノコは見るだけでも楽しめる。

やがて右展望台の別れに入り、陽の当たる尾根筋に出た。サワフタギの青い実が数えるほど。期待のツノハシバミも実が見られない。

春にはセリバオウレンの花道となるここから三瓶山がすぐ近くに見える。

山頂向けに道を返し、サラシナショウマやヒキオコシの花を見て、どうも道がやけに広々としているのに気づいた。最近草刈りされたらしい。草刈りでマイヅルソウなどが息を吹き返すのだから悪くはないがその時期の花がどうなるのか心配。

頂上近辺は行き交う人々とすれ違う。

ブナの大木が雪のせいだろうかブナらしくない形をしている。サワヒヨドリ、オトコエシの咲く山頂はまったく展望がきかない。風がおさまってきたが動くのをやめると肌寒い感じ。持ってきたビールはちょっと荷物になってしまったぞ。

下りは左の滝見コースだ。

このルートが一番長い(3.1キロ)、が季節を通して何らかの花が見られる大好きなコースでもある。

春はヤマエンゴサクやミヤマカタバミの可憐な花に始まり、サンインスミレサイシン、タチカメバソウ、チゴユリ、ユキザサ、ホウチャクソウ、そして五月半ばの山頂近くのサンカヨウはここを訪れる人達の大きな楽しみ。

花期の短いサンカヨウは時期が難しい。

途中には避難小屋も多く、トイレもある。

そしてこの時期の目玉アケボノシュスランを捜そう。先程から葉だけは見るがなかなか花を見せてくれない。ブナの木の根元で奇麗なピンクのシュスランは結局花の終りかけた一輪だけだったが、とりあえず一同大喜び。

宍道湖をながめながら

水場やブナ林を過ぎると休憩場所の地蔵堂に着いた。このコース唯一の展望場所で今日は宍道湖の水面も確認できた。道標に隠岐島と書いてあるのはちょっとどうかな、と思うが。

シュスランの葉が見られなくなると、代わりにイカリソウや樹木ではリョウブが出てきた。春にここで休憩するとウリハダカエデの花が奇麗だったのを思い出す。そして足元にセンブリの花一面、ツルリンドウやヤマジノホトトギスも姿を見せる。

コーヒータイムを終えて、更に下ると紫色の秋の代表花、トリカブトのお目見えだ。キッコウハグマはまだ蕾。トチバニンジンの赤い実、赤い実と言えば今回見られたものは、ツルアリドオシ、ユキザサ、ミヤマシキミ、ミヤマガマズミ、ウスノキなど、挙げればきりがない、但し例年に比べれば極端に少ないなあ。

権現滝に入ればもっといろいろ花があるが相変わらずのゆっくり山歩きでそろそろ帰宅の時間となった。

車を置いた場所では、地元の夫婦が採ってきたヌメリイグチ系のキノコをさばいていた。味噌汁に入れるのだと言う。あたりにはクリのイガが散乱している。

ここでは頓原町主催の自然観察会が時折開かれるので是非参加されたい。


{質問}山歩きをすると衣服にひっつく植物が有り、とても不愉快です・・・。

{答え}連れて帰ってトゲヌキで報復してやりなさい。