QJYつうしん 43号

平成8年10月10日

天高く ムラサキセンブリの咲く頃 戸河内町/深入山(山県郡)1153m

あまりにも天気が良いので…

10月10日は体育の日、晴れることが多い日でもあるそうだ。それにしても良く晴れた。前日雨模様の場合、山は遠望がきいて最高。

本当は町内の牛田山ウオーキングの日であったが、家内の「もったいない」の一言。せっかくの秋晴れで裏山歩きはいやだという意味だ。なるほどねえ。

そこで、近くていい所をめざす。

過去に登った山で季節を変えて登ることとする。春から夏にかけての芸北の山々はお花畑の饗宴となるが、この時期はだんだん花が減って来て寂しさも加わってくる。

しかし、それでも目の付け所を変えれば12月になっても山は楽しめる。草花に代わって木の実やそれを求めてやってくる野鳥の姿を追うなら真冬でも楽しめるのだ。

さて、本日の目的地は深入山、あと1ヶ月でも十分花が楽しめる山だ。国体の炬火は県内七箇所で採火されるがここもそのひとつ。いこいの村にその火がランプになって置いてある。

登り口と下山路を変えてみる

当然車は大きな駐車場のある「いこいの村ひろしま」側に置く、しかしこちらからは登らない、何故なら急登で丸太の階段がわずらわしい。そして登り口となる「かも八」側を下りに使うと滑りやすく危険。

そういう訳で「運動広場」へ向けて歩く。道の山側はススキや花の終ったメドハギの合間にリンドウ、ヤマシロギクが趣を添える。

目指す「かも八」までにオートキャンプ場を

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過ぎ、右手に運動広場を見る。国体関連スポーツ行事として「グラウンドゴルフ」の会場となっている。芸北町ではこれが大流行とのこと、大佐スキー場が有名なコース。今日もたくさんの人達が練習に励んでいる。

「ツキノワグマを見たら刺激しないように立ち去りましょう」という変な看板のところから山道が始まる。ここまでの道路は深さ40センチと小動物には無情な側溝。行政の自然への冷たさを感じないではいられない。

登り口から見上げるとクヌギの木が目に付いた。足元はママコナ、ウメバチソウ、ホクチアザミが行く秋を惜しむように咲いていた。

じっと目を凝らすとセンブリのかわいい花。アキノキリンソウはこの時期普通の花。おや、ススキ原を登ると山道に直径3〜4ミリの赤い実が無数に落ちている。あたりにはクヌギ以外実をつけるものは無さそう。クヌギはご存知ドングリの木だから赤い実は落とさない。

赤い実のもとを探ると、結局クヌギの葉についている虫こぶだと判明、どう見ても植物の実に見えるから不思議。

五合目の看板

ヤマボクチがドライフラワーみたいに突っ立っている。葉を見るとキクバでないことは確か、ハバヤマボクチだろう、やや濃い紫色のひょうきんな姿が面白い。山道を振り返ると向深入山が手に取るように近く見える。足元にウメバチソウの群落、オケラ、ヤマラッキョウ、今日まで残ってくれたキキョウも一輪。

耳にはチョンギースの寂しい声。

ここに板に書かれた「五合目」の案内があった。いこいの村側には無いサービスだ。作ったのは大和製缶広島工場、とある。

この山はハイキングで訪れる人が圧倒的に多いが、意外と登る体力を試されてしまう。

そんな山に五合目の案内があるのはちょっと嬉しい、要は休み場所となる。

一息入れて下を見ると、おやキキョウにしては小さいがセンブリにしては紫が強い、しかも大きい花。

ムラサキセンブリだ、県内あちこちで見るわけでは無い。センブリと並んで咲いている、山道に沿って、そしてはずれても大きな群落まである。

リンドウの派手さには負けるが弟分のセンブリにははるかに優るその美しさ、ウメバチソウ、ヤマラッキョウと続く山道をこうやって次々と飾ってくれる。

深入山の人気のもとは山を飾る草花。昔はもっとあったよ、と人は言うけれど、いまでもここは全山が花畑。

展望の素晴らしさを誇る山

小学生の団体が下りて来た、花を見ながら登るから後ろからのハイカーにも結構追い抜かれる。狭い山道を避けながら休憩。

黒い実を付けたタンナサワフタギの木が一本だけあった。赤い実はウスノキか。ノギランが相変わらず咲いているのか、咲き終ったのか良く分からない姿で迎えてくれる。

頂上は大勢の人、ざっと50人、1153メートルの標識を背に写真を撮る人達。

周囲は展望の良いこと。なによりここの展望は直下の聖湖の青さで他を凌ぐ。高岳、聖山、恐羅漢が眼前に迫る。

きつい登りを一挙に忘れさせる、今日の天気の良さも無関係ではない。そして迎えてくれた山の草花のお陰、白木山も相当きついがここのように花に恵まれていないからきつさが倍増するのだろう。

太陽が直接あたる、日陰の無い山だが秋の日差しは何とかしのげるから助かる。

一口のビールがシアワセ。

刈尾(臥龍山)と掛頭山も近い、昔は深入山を起点に芸北の山歩きが普通だったと聞く。そして月日が経ち、向深入山も植林の山となり、炭焼き小屋も姿を消した。あたりに芳香を撒いたササユリも激減し、ハイカーの落とすゴミに悩まされる今、それでもこの山は依然として豊かな植生を誇る。

ブナとクヌギの下山路

下山路はいこいの村に向けての道だ。マツムシソウ、ナデシコが初秋の名残、ススキの原をマルバハギの実を見て下る。ぽつんとブナがわずかに黄葉を見せている。足もとのワラビはさすがに黒ずんで、ウドやコオニユリが実を付けて立っていた。

水場の辺りからゴマナが目立ち、再びクヌギの林になると眼下に「いこいの村ひろしま」の建物が見えてくる。スキーリフトのある所では草刈りが無残にもリンドウをなぎ倒し追いやられたバッタの姿も見えないが、待ち遠しい雪のシーズンを迎えたがっている人達も多いのだろう。


[編集後記]

庭でアサガオのつるに混じって可愛いが余りにも小さな白い花。帰化植物の雑草だろうが葉がきれいなのでそのままにしておいた。実がふくらんでびっくり、パンパンに張った風船、そうフウセンカズラだった。白のハートマークの黒い種が可愛い。