QJYつうしん 第48号

     休日は山にいます    平成8年11月1日

紅葉の隠れた名所 その3

 山口県錦町/木谷峡〜平家ヶ岳 1066m

 


奢る平家は久しからず…、幼い安徳天皇を抱いた清盛の妻「二位の尼」は「浪の下にも都のさぶろうぞ」と、両手を合わさせ共に入水したと言う。

この話をしていたら誌面がいくらあっても足りないので、山についての話をしよう。

平家ヶ岳は知る人ぞ知る、人気のある山と聞く。取りつきの木谷峡に訪れる人が多く、林道も整備されたため車で楽に入れるのもその要因か。

ただ、入り口の平瀬地区でダム工事が始まった。木谷峡は少なからず影響を受ける。

広島も山口も大昔に決めた開発の決定を翻そうとしない。そう、中国地方はダムだらけ。

ただ「平家」と聞くと何故か引き込まれるものを感じるのは私だけでは無いと思う。山口県内には多くの平家伝説があり、平家に縁のある地名も多い。

木谷峡

錦川に沿ってのドライブは錦町まで来るとR187を左折する。出合という地区から5〜6キロで木谷口を右に曲がる。赤い橋を渡るともう木谷峡に入っているのは辺りの紅葉の山々が教えてくれる。

この日は天気予報は「雨」、しかし先程から時折陽光が差し青空も見えることがある。

最初に出合うのは「初瀬の滝」、車も一台置けるので余裕を持ってここで休憩しよう。

カラスウリやノブドウが実っている、「3.3キロで木谷峡」の看板にちょっと首をかしげる。まだここは木谷峡ではないの?

香椎神社(10:30)

「雄栗雌桜」という訳の判らぬ看板を過ぎ、「黒滝」「宮もみじ」と案内が続く。これだから車はなるべく降りて歩く事を薦める。

橋を渡ると香椎神社、今回は紅葉の山歩きを最大目的としているので、車はトイレのあるここに停めよう。木谷川の清流を上から見ると30センチの川魚がゆらゆらと泳いでいた。

歩きやすい舗装道路は右に渓流、左にジンジソウの咲く濡れた岩肌、イワタバコの葉も紅葉している。雨は降らないがガスがかかって不思議な雰囲気。紅葉は一級品の渓谷だ。店も無く、通る車も無く素晴らしい景勝地。頭上から次々と足元に舞い落ちる秋の樹木の紅葉がとても素晴らしい。

鹿落ちの滝(11:00)

ウワバミソウの茂る岸壁の反対側、川べりに珍しい葉を見た。シュスランだ、キッコウハグマも花を咲かせている。

そして木谷峡一番の呼び物「鹿落ちの滝」が勇姿を現した。高さ40メートルと言うがもっとありそう。絹糸を垂らしたような美しい滝。両側に紅葉の木々を従え貫禄のある滝だ。

ヤクシソウやヨメナが最後の花を咲かせる。

赤滝降り口(11:15)

空はどんより曇ってきた。いつ降っても仕方の無い天気、気温は高く、汗がびっしょり。

赤滝への降り口は即ち川への階段だ。しかし川で階段が壊れていて降りることのできない降り口であった。

苔むした地蔵が二体、中央の石碑に刻まれた「文化」の年号に歴史の重みを感じないではいられない。

ダイコンソウの実、センボンヤリの閉鎖花と秋の深まりを示す植物たち。

人家(11:30)

石垣にチャの花が咲いていた。クコもある。平家ゆかりの人かどうか知らないが人の住んでいる所もあったんだ。ヤマノイモの黄色、ヤブムラサキの実の鮮やかさが目に新鮮だ。

道を埋める紅葉の様々な種類。分類していたら時間が無くなる。


鹿野別れ(11:45)

左「長野山」、直「平家屋敷」の看板。それも平家屋敷までは4キロと長い。なだらかな登り道をあと1時間歩かなければならないが、何度も言うが車で通り過ぎても仕方が無い。

秋の散策にしてはちょっとハードな行程だが両側の錦のベールが疲れを取ってくれる。

ガイドブックではここから道は悪くなるなんて書いてあるが巾も広くバスでも問題無し。

カエルの手に似た黄色い葉、ダンコウバイかと思ったが、指先が外に広がる。シロモジだ。ソハヤキ系の珍種。手に取ると落ち葉でもとても良い香り。

イロハモミジ系の樹木が多いのは紅葉の名所の基本原則みたいだが、イチョウもあり木谷峡の樹木のバラエティに富んだ紅葉は、ここが広島なら連日満員だろうに、と想像させる。

 

 

平家屋敷跡(12:30)

頑張って着いた平家屋敷跡は何も無いところ。看板だけで広い空き地があり「吉川林業飯場」と書かれた新しい小屋がある。ちょっとがっかり。そして、期待の看板。

平家ヶ岳の登山口。だがそれでもあと1.5キロと書いてあると、ちょっと萎えるものがあるがもう少し頑張ってみよう。

それにしても空腹。

車でここまで来たい人は何ら問題無く来れる。駐車スペースも多くあきれる程。

ずっと木谷川が平行してせせらぎの音を聞かせてくれた。

登山口(13:30)

1時間かけて1.5キロを歩いたわけでは無い。道は確かに登りがきつくなったが遅れた理由は昼食。

時間次第では山頂まではあきらめようと思っていた。しかしいつ降り出してもおかしくない空がせっかく我慢してくれている。そしてこの素晴らしい日本画を見せてくれる。

最後の看板は山頂まであと0.5キロ。本日最初で最後の山登りだ。

イワカガミの葉が隠れたササ尾根は決して歩きやすい道では無い。前日の雨は影響していないが勾配が急で滑りやすい。

山頂(14:00前)

15分登ると最初のピークが現れる。かすかに六日市の町並みも見えたが、残念ながら今日の展望は期待できない。

しかし将来、植林されたヒノキが大きくなれば、晴天でも展望が利かなくなる恐れもあるのではないか。

風の強い山頂には二等三角点があった。

それにしても歩いたものだ。さっきの急登は下りにもきついぞ。車までは傘が必要だ。

紅葉の風景は帰りにも同様楽しめた。いや、帰りの方がゆとりを持って楽しめたかな。


{編集後記}

・山頂まで12000歩、帰りは10000歩。下りだと大股になるから。
センボンヤリの閉鎖花、スミレもそうだが結実の可能性はほぼ百%。ならば花など咲かせる必要は無さそう。しかしそれでは種の進化は望めない。閉鎖花は最後の手段。

 より強い種を作るため受精は必要となる。