QJYつうしん 第49号

     休日は山にいます     平成8年11月22日

一等三角点のある山・広島県のおへそ

      賀茂郡福富町/鷹ノ巣山 922m

 


46号でお伝えした鷹ノ巣山は別名「八幡鷹ノ巣山」、広島でただ鷹ノ巣山と言えば福富町と向原町にまたがるここをさす。

標高922mはこの辺りでは最高峰。

一等三角点があることで名高い。

県内には17箇所あるが、そのうち本点5、補点12となっている。鷹ノ巣山は本点であり正確な測量では922mと10cm、広島県のおへそにあたる。

福富町役場(9:00)

R375を左折、役場の脇を北へ入り道なりに車を走らせる。昼から晴れるとの予報は当たるのだろうか、降ることは無さそうだが窓を開けると風が冷たい。

そろそろ山歩きも、花の無い、山頂目的の「お遍路さん登山」になるのかなあ。

未踏の山ばかり目指す人達を「お遍路さん」と後ろ指を指していた自分が、ついに「改宗」してしまったみたいだ。

役場から2.5キロで左折、更に0.9キロで右折、ここまでは最後の紅葉が楽しめた。急に上りがきつくなる残りの0.7キロも普通の車で十分上がれる。

駐車場(9:20)

福富町の観光協会が曲がり角に案内板を立てていてくれているので迷うことは無い。

  25,000分の1の地図で事前にこの辺りは針葉樹の植林地域であることは頭に入れておいた。見回すとヒノキ、スギばかりだ。

左「たかのす山」と、書いた案内のあるここは十字路になっている。登山口までは車を降りて歩こう、でないと歩く距離が少なくなる。

ヒノキの幼木がプラスチックの囲いの中に入ってあちこちに立っている。鹿よけだろうが、何やら外国の墓地の様でいただけない。

コアジサイの黄葉が驚くほどたくさんあるのが救いだ。

登山口(9:40)

無理をすればここまで車で来れないことはないが、やはりさっきの場所に車を置くのが正解だろう、登山口も広いが、雨で道路が削られ岩もごろごろしている。

ここから急登。滑りやすい粘土質の山道はヒサカキやコアジサイがたくさん。植林している一帯を金網が囲っていてやはり鹿が入れないようにしてある。1m70位の高さだからイノシシよけでは無さそう。

時折陽が射して体も温まり、じんわり汗がにじんでくる。ふと足元を見ると、なんとシハイスミレが淋しそうに点々と咲いているではないか。ムラサキニガナも。ツルシキミは蕾を付け、ツルリンドウの赤い実、サンヨウアオイの愛らしい葉まで見つかると、「結構いける山だよね」、と納得し始める。

シカの足跡か、ひづめの二本線が坂道を滑った様についていた。滑って転ぶシカを一度見てみたいものだが。

水場(10:10)

味気ない植林の道が急に広葉樹林に変わった。「鷹ノ巣山ブナ植物群落保護林」と書かれた営林署の案内図。山頂がもうすぐだと分かる、がここにブナがあるなんて。

振り返ると「水場」の矢印、これは向原町商工会の作った標識。だから振り返らないと分からない。福富町からの登山者には見えないいのだ。水場の周りはモミジガサの綿毛の実。でも落ち葉の中にブナは見つからない。

山頂(10:30)

山頂が見えるより先に展望台が目に入る。まずは上がって周囲を見回すが、豊栄の板鍋山が樹木の陰なのが残念。しかしさすがに展望はいい。

一等三角点を改めて見ると、普通より大きいのが分かる。ここは広島県のおへそにあたる。測量の基準としての正点はそんな意味を持つのだろう。

カンノキ山との鞍部(11:30)

11時まで展望を楽しんだあと下山路をカンノキ山方面へと取る。

向原町が建てたらしい標識にはこの有名な山への案内が一切無い。滑りやすいがやけに広い道は落ち葉がびっしり重なって、晩秋の音がカシャカシャと足元から…。

カンノキ山を正面に見ながら、一気に下っていると向こうから一人登ってくる。変人は自分だけでは無いことでちょっと嬉しくなる。

下った峠は向原町との十字路だ。ここにもカンノキ山への案内は無かったが、地名として叶木と書いてある。カンノキは神の木だと思っていたら、願い事が叶(かなう)木だった。

県央の地(12:00)

ここからの下りで地図では車を置いた所に着くはず。不安ながらも初めてのヤブコギ道を進んだ。アキノタムラソウ、センブリ、ホタルブクロが一ヶ月前まで咲いていたことが分かる。おお、リンドウが一輪咲いている。

今まで少々味気無さを感じていたので、この下山路は新鮮だった。

そして出発点に近づいた頃、丸い大理石を乗せたモニュメントが建っているのが見られた。新しいものだ。そう、ここは広島県の方位上の中心地。

実は計画時点でここが県のおへそ、と考えたが本当にこんな石碑まであるなんて思っていなかっただけに、何やら嬉しさが込み上げてくる。

県央の地:北緯34度33分48秒、東経132度45分22秒とある、その根拠は、広島県の四方の端の中心点であるということ。ちなみに、

東端 福山市走島町宇治島

西端 吉和村字吉和西

南端 倉橋町白石

北端 高野町和南原篠原山、だそうだ。

いやはや、誰が調べたんでしょう。

おなかがすいたので帰ることとしよう。

予約を入れている福富町下竹仁のパン屋さん「カントリーグレイン」*に向かう。

平日なのに今日も駐車場は満杯のようだ。いつのまにか小春日和となって、外の里山風景を見ながらいただく食事は本当においしく、心が安らぐ。


{編集後記}

夏に素晴らしい花を咲かせた花オクラ、本名をトロロアオイと言い埼玉県などでは昔から紙漉きの糊の原料として栽培されてきた。

東広島での観察会で種を配ったので、咲かせた方も多いはず。

O157でずっと多忙の指導員仲間の榊女史(最近なぜか薬研掘の某スナックでしか会っていないが)が、「咲かせたんだけど、刺が怖くて食べれない。」と言う。

花オクラはその名のとおり花を食べる植物で、実は食べない。その実は来年の種を採るのに利用して下さい。

*{麦工房カントリーグレイン}

片岡敬士さんと奥様のこだわりの店、と言って過言では無い。思い出すのは昨年の夏、ふらっと訪れると奥様が「今、しばらくレストランは休んでいるんです。」と言う。「マスコミにも取り上げられ、お客さんの余りの多さに、つい人嫌いになってしまい、これでは駄目になる、しばらく店を休もう。」と、決心したと言う。

「真鍋さんはいつも山でいいですね。」と、ちょっぴりするどいご指摘にたじろいだが、休みなのに心尽くしのランチをすぐに用意して下さった、ツチアケビの咲いていた頃のこと。

クロボヤ峡のナツツバキがたくさん咲いていたことを話したときの奥様の嬉しそうな顔が、私にはとても嬉しかった。

素敵な店である。   0824-35-2326