QJYつうしん 55号 平成9年3月7日
自然環境とゴミの散乱に目を向けよう 安佐北区可部町/備前坊山 789m
太田川の河川敷
春の一日、まだまだ花盛りの春の風景、と言う訳にはいかない。戸外は4月の気温というが草花はどれだけ咲いているのだろう。
昨年の秋に出かけた太田川の河川敷(QJYつうしん第45号)が今はどうなっているか気になるところ。
この時期河川敷と言えばネコヤナギがその代表格、もちろんすでに終りの頃で、川面には冬の間たくさんいた水鳥も見られない。
ヒメオドリコソウやホトケノザがオオイヌノフグリの間で誇らしく咲いていた。春の七草のナズナも今が盛り。七草と言えば食用のホトケノザはキク科のコオニタビラコの別名で、ここの河川敷にあるシソ科のホトケノザは毒草である。気をつけて。ヒメオドリコソウは食用可。
秋にあれほど威勢の良かった花がドライフラワーとなっていた。ハッカ、セイタカアワダチソウ、オオアレチノギク、アレチマツヨイグサ。
それにしても河川敷に来るといつも気になる事がある。だから余り来ないと言った方が早いが、それはゴミだらけ、ということ。
わざわざここにゴミを棄てに来る人があるのだから手に負えない。あまり長居をしたくない。 犬を連れて来て放す人もいて子供連れは迷惑している。
太田川橋
可部の町への入り口は太田川橋、その手前を川に沿って上がると細野神社がある。
阿武山の麓の河川敷は昔から草花の豊富な自然溢れる地域。神社に車を置いて散歩コースを歩いてみた。
支流はすっかり護岸され、見る影も無い。工事中だが、いったい何を作ろうとしているんだろう。地域の公園として子供たちに愛された「太田川遊園地」も遊具が錆付いて遊ぶ子らはいない。
もちろんゴミだらけ。
貴重なユキワリイチゲがゴミに埋まりそうになりながら咲いていた。大切にしたい自然。イヌビワ、コクサギが実をつけて頑張っている。
どうして人はゴミを棄てるんだろう。
他人が片づけてくれると思っているのか。交差点でタバコの灰を棄てたり、空缶を投げる人、楽しんだ後の弁当のカラやビニール袋が見苦しい。
南原峡
可部の町に入ると相変わらずの車の混雑。
自然環境とゴミを話題にする時、南原峡の昔を知る人は悔しい思いをする。
特に水力発電所の明神、南原のダムが出来てからは汚れは一層増してしまった。
結論から言うと南原の水は飲めない、辺りを見回せば誰でもそう思う。
南原峡は広島市街から近く、キャンプやファミリーハイキングに人気の場所だが、今では静けさが無くなりバイクの急増、落書き、ゴミの散乱で見るも無残な状況。
バス停から振り返って見る白木山にしても林道建設で露出した岩肌はゴミ問題と同様、アンテナ建設の社会悪である。
ついでに柳瀬キャンプ場にも寄ってみた。想像どおり、ビニール袋があちこちに。
もうゴミの話ははかんべんして。
このまま可部冠山(736m)の山頂に向かうことも考えたが、山登りの大先輩、山田廸孝氏の著書「広島百山」の可部冠山の項には次の様に書かれている事に落胆してしまう。
{その岩の下にもおびただしい空缶や食べがらが堆積している。頂上に先着者がある場合は声を出したほうが無難である。何を投げつけられるかわかったものではない。}
氏の独特の毒舌であるが、余程の悔しさがにじみ出る。
備前坊山(びぜんぼうさん)
そこで近隣の山から可部冠山を眺望してみよう。コウヤミズキの花芽のふくらむ南原峡の加賀津の滝から少し下がり「やまめ」と書いた釣り堀の方へ向かう。備前坊である。
名前が昔から気になっていた。安芸の国にありながら備前である。つまり備前で区切るのは間違い、正しくは「備前坊」の山である。
その由来くらいはどこかに表示があるのだろう、いつかは登りたいと思っていた。
釣り堀を過ぎ、しばらく進むと左へヘアピンカーブとなる。
そこの空き地に車を停める。なぜならその先は舗装が切れるのだ。車の底を石で擦っても構わないならどんどん進めば良い。
40分は歩くだろうか、ソヨゴ、ヤマコウバシ、クロモジ、ヒサカキが花芽で出迎えてくれた。「広島県自然歩道」の看板まであって、南原峡で興ざめた気持ちを癒すことが出来そう。
すると谷の途中に引っかかった冷蔵庫の廃棄物が見えた、どうしてこんなものを棄てるのか、この山では見たくなかった。
休憩所に着く。トイレはあるが汚れ放題で余り利用したくない。山のトイレは誰が清掃するんだろう。税金が高いと文句を言う前に、共同で使う施設は経費のかからないように、きれいに使いたいものだ。
それでも県内の山がすべて心配するほどゴミが多い訳でもない。その一因に登山者の高年齢化が挙げられる。若い人が余り山に来ない事が、幸か不幸かゴミ投棄による山の汚染をある程度押さえているのかも。
しかしトイレの汚れ放題は残念。外国の人には恥ずかしくて山を案内できない。
休憩所の向かいにDDI第二電々の中継設備の巨大な鉄塔が目に付く。分かり易く登るためその白いフェンスに赤テープを巻いておいたが、それに沿って植林の山道を登って行こう。
春の陽射しを浴びているのに残雪が随分残っている。登る間は赤テープが頼り。
赤い実は足元のヤブコウジとツルシキミ。
ズボンに絡むイバラのトゲがうっとうしい。そして30分して急に左方向が開ける、植林の為に木が切られているからだ。尾根に沿って登り詰めると北方向は千代田町、北を見て左には可部冠山の頂上の岩、その後方には海見山、そのまた後方に猿喰山。
先程までのチマキザサに代わってクマザサが出てきた。クマザサは熊笹ではなく、隈笹である。冬の葉の化粧が歌舞伎の隈取りを想像させるのだ。
山道をそのまま進まずヒノキに私が巻いた赤テープの所で南に取るとアセビの多い道が待っている、5分程度で山頂だが、気を付けていないと通り過ぎてしまう。山頂を告げる先人のカマボコ板がこんな時有り難く思える。
展望がきかないのと散々見せられたゴミで憂うつな気分は残雪の雪渓が癒してくれた。
休憩所から1時間の行程である。
備前坊の名の由来は結局ここでは分からずじまい、まだ鳴きかたのぎこちないウグイスの声を聞いたのが嬉しかった。
<編集後記>
娘が送られてきた資格取得の案内状を見せてくれた。「樹医」と書いてある。
無試験で取れるらしい。「へえー」と感心していると、「お父さんもだまされるネ、樹木医じゃ無いのよ。」とのこと。