QJYつうしん61号

     休日は山にいます     発行 QJY通信社 平成9年4月30日

  秘密の花園へご招待  ヤマブキソウの咲く 東城町/帝釈峡(比婆郡)

 QJY61

雨などなんでもないよ

朝から雨の憂うつな連休の狭間。そう言えばフラワーフェスティバルはいつも雨にたたられる。山歩きの予定を変更して帝釈峡へ行くことにした。

暖かくなったことだし、少々濡れても震える事はない、この時期の帝釈峡は全行程すばらしい花園になる。せっかくだから秘密の花園を見せてあげよう。

花の写真はこれくらいの雨は我慢しなければ撮れない。ただ、花によっては陽が当たらなくて十分開かないものもあるので少しのあきらめも必要。

カメラは濡らしたくないのでレインコートの下に隠せるようにする。リュックは雨カバーが必携。足は長靴でもいいくらい。

そう、準備さえすれば雨など何でもない。

上帝釈

庄原からピラミッド入り口を経て中山峠を越える。昔は東城に住む人達にとってここは難所だった。学校、仕事は庄原に出なければならない、中山峠は丁度中間点にあたる。「ここでバスに酔って苦労した。」とは東城の知人、道が悪かった頃の話。

道路に車を停めて[i]コバノミツバツツジの濃いあかむらさきの花に見惚れる。[ii]ウワミズザクラが白いブラシの花を咲かせていた。

上帝釈の駐車場に入ると連休中とは言え平日のせいか一台の車も停まっていない。

雨はほとんど感じないくらいに小降りになっっていた。

田んぼのあぜ道に[iii]イチリンソウの群落、[iv]セイヨウタンポポがそばで勢力を増す機会をうかがっていた。それにしてもここのイチリンソウは大きくて元気がいいぞ。

帝釈郷土館の前の崖は[v]ヤマブキの黄色い花枝、その下には[vi]バイカイカリソウの可愛い花。道のそばの流れは雨で濁っていた。

うすむらさきの[vii]ヤマエンゴサクが緑のじゅうたんの中でアクセントになって咲く。

鬼の唐門

QJYつうしん37号で夏の花便りを載せたことがあった、その時紹介したのがここ鬼の唐門。早くも[viii]ミヤマイラクサが刺をつけて立っている。

この時期の売り物は何と言っても[ix]ヤマブキソウ、道行く人にはこの花の珍しさは分からない、ヤマブキと混同してしまうから。

イチリンソウが大きな花を見せているが可愛い二本の花をつけた[x]ニリンソウも満開だ。普通は時期が少しずれるはずだがいっぺんに春が来た帝釈峡では同時に両方の花が咲く。それも雑草みたいに乱舞する。

[xi]ラショウモンカズラも咲き始め、[xii]コチャルメルソウに混じって[xiii]フタバアオイの葉がみずみずしい。「この紋所が目に入らぬか」の徳川家の葵の御紋は双葉葵が三つと言うからややこしいのだ。

おや色の濃いエンゴサクがあるぞ、[xiv]ムラサキケマンだ。小さな流れに沿ってスミレが何種類か。いちいち種名を書ききれない。

奥へ進むと[xv]チドリノキの小枝が邪魔をする。[xvi]ワサビも花をつけていた。

そろそろここを出ようとすると遠くで犬の吠える声、観光地で猟をする者がいるのだ。鉄砲の音もしたぞ。何か急に現実に引き戻されたようないやな気分。

まるで犬に追われるように唐門を出る。

雄橋までの道

観光道路はやはり人がいない。雨はほとんど気にならないし花園が素晴らしかったのでこれだけでも満足だ。

[xvii]オドリコソウがラインダンスを踊っている。歩いている目の高さに[xviii]ユキザサも花芽をつける。紫の[xix]ヤマルリソウがきれいだ。

これだけ多くの花を見せられると山野草の図鑑は必携、そして何度も言うがフィールドノートも。鳥の声だって書き込む必要がある。帰ってから調べなければ。

目を凝らして地面を見ていると[xx]カテンソウ、[xxi]セントウソウなどの地味な小花も見えてくる。

良く並んで咲くが、「戦闘で勝てん」とは縁起の悪い語呂合わせ。お、葉はネコノメソウだが花は普通の花びらを持った可愛い花[xxii]シロバナネコノメソウが咲いていた、葉だけ見ると普通のネコノメソウなので花のあるこの時期しか気がつかない。

断魚渓

渓流に沿って[xxiii]カツラの木が新緑のハート型の葉を並べている、カツラの学名くらい知っておくこと。    アデランス(うそうそ)。

チドリノキも房状の花を垂らし、[xxiv]オオツクバネウツギが公園のアベリアの3倍以上ある大きな花をつけていた。

ヤマブキソウに良く似た[xxv]クサノオウが道端に。あれ、すごいアザミが、[xxvi]ヒレアザミだ。

花はまだつぼみだが茎がすごい、こんな表現は無いと思うがやはりすごい。(何じゃそりゃ)、読者は図鑑を見てよね。

断魚渓近くにトイレがある。チドリノキがたくさんの花をつけ、水の音が激しい。

そしてこの先通行止めになっていた。橋を渡りきる場所で「落石あり通行禁止」の看板。もう相当前の事と思うが、落石は新聞で読んだ気がする。残念だがここから引き返そう。

少々濡れたが持ってきた図鑑にある珍しい山野草をたくさん確認できた。雨でもあきらめないで良かったね。

脚注の説明(説明文から植物名をあててみて)



[i]   ツツジ科の落葉低木、三つの葉は細かい毛に覆われる。県内に多い。

[ii]  バラ科の高木、大木となり実はクマの好物,東北地方でつぼみの塩漬けを食用とする。

[iii] キンポウゲ科の春を代表する白い花。一輪だけ花をつけるのでこの名前が。

[iv]  キク科の多年草、日本古来のタンポポを駆逐して今や年中咲く大型のタンポポ。

[v]   バラ科の小低木、木の名前だけで表現される明るい黄色は皆に親しまれる。

[vi]  メギ科の常緑多年草、愛好者は鈴振り錨草と呼び、精力剤の薬草でもある。

[vii] ケシ科の多年草、葉の形にバリエーションあり、何とも優しい色合い。

[viii]いらいらするくらいトゲがあるので付いた名前、これが食用になるから不思議。

[ix]  ケシ科の珍しい花、4枚の花びらがヤマブキを連想させるから。ヤマブキは5枚。

[x]   キンポウゲ科の食用になる多年草。一本の茎から二輪の花をつけるので名がついた。

[xi]  シソ科の紫色した花をつける多年草、羅生門で鬼退治をしたのは渡辺の綱、その腕が並べられている様子でついた名前。

[xii] ユキノシタ科の渓流好きな多年草、小さな花は愛敬たっぷり。漢字で哨吶草。

[xiii]ウマノスズクサ科のアオイの仲間では葉がうすく花も紅色がきれい。

[xiv] ケシ科、シソ科のアキチョウジと混同する人が多いがこれは春、キケマンの仲間。

[xv]  カエデ科の谷間が好きな高木、秋にはシデの仲間と間違えるが良く見るとカエデ特有のプロペラの実がなる。

[xvi] アブラナ科の日本産香辛料、栽培種の大きな根を期待してはダメ。

[xvii]シソ科の多年草、甘いミツを吸った経験のある人いるよね。フレンチカンカンの娘達。

[xviii] ユリ科の多年草、県内のものは大型が多く、秋の赤い実も山歩きの友。

[xix] ムラサキ科の愛らしい花は県北の山に多い。

[xx]  イラクサの仲間で赤みのさした地味な花をつける。花粉は自力で飛ばす風媒花。

[xxi] 同じセリ科のヤブニンジンと良く似るが葉のデザインが少し荒いか。

[xxii]  ほとんどのネコノメソウが夜光塗料を塗ったように薄暗い所で光るが、シロバナ・・は普通?の花。

[xxiii] カツラ科の高木、渓流の好きな木で春のハート型若葉は陽を浴びてとてもきれい。

[xxiv]スイカズラ科、西日本では山間部で見られる。がくの形が正月の追い羽根に似る。

[xxv] ケシ科で茎を折ると黄色い汁が出る。

[xxvi]キク科のアザミの仲間、トゲだらけの茎に翼(つまりヒレ)があるので名がついた。