休日は山にいます 平成9年10月30日

紅葉の山歩き その3 島根県日原町 安蔵寺山(1263m)

 QJY78

石見の名峰・ブナの森

安蔵寺(あぞうじ)山は島根県にある単独峰としては最も高い山だ。単独でなければ広島県と境を接する恐羅漢、旧羅漢などが群を抜いて高い。

山頂からの展望と全山ブナの高木、歩きやすい広い山道などハイカーには人気の高い山でオールシーズン登山客でにぎわう。

今回登ったルートは代表的な3ルートの内、最も一般的な奥谷口ルートで大駐車場まで用意してあり、幹線道路からの案内表示も十分で山歩きには不足の無い行程となる。

実際今はここを利用する人が一番多い。

中国道を西へ進むと春にコブシ(タムシバ)の純白の花が点々と車窓から見られたのを思い出した。QJY58号の時の話。

それが今は見事に紅葉してドライブの楽しさを満喫できる。

六日市ICを出てR187の日原町方面へも同様の紅葉ドライブだ。加えて、高津川は車の進行方向(益田市)へ流れることで遠くまで来たことを知り、また水の清らかさに心洗われる。

佐鎧(さぶみ)地区に入り橋の手前を右折、ポイントとなる横道だ、あ、川の名前も横道川。周囲の山の紅葉もなかなかきれいだ。

県道189を進み左に大元神社が見えてきた。登山口前の神社仏閣は要チェックポイント。きっと山に関するゆかりの場所で説明板など読んでおいて損は無い。ウラジロガシが実を落としイチョウの黄葉もきれい。だが結局ここでは安蔵寺山に関する説明は見つからなかった。こういうこともある。

その後舗装が切れ山道が続き、道の左右にヤマシロギクやノコンギク、ヤクシソウが目立つようになる。紫色はアキチョウジ、ここまでは何の変哲も無いが、心やすらぐ自然であることに間 違い無い。

舗装された大駐車場に着いた。意外にもトイレすら無い。2台の車で、本日の人の少なさを知る。ただし、石鎚山と比較してはこの山が可哀想だ。

MAP

人口の少ない島根県の最も山奥の町の山。

車は更にすぐ奥の登山口まで入る。10台くらいは停められる場所が登山口だ。

車は一台もいない。

枯れ葉で埋まった山道が続いている。

さあ、登ろう

歩き始めると大きな葉のミヤマイラクサが出迎えてくれた。ムカゴをつけたムカゴイラクサもある。見上げると登山口からブナの大木だ。明るい青空がバックで輝くがブナはややくすんでちょっと終わり気味。

ノブキの実のくっつき攻撃を避けながら歩いていると、薮の中に赤いトウモロコシ、マムシグサの実だ。

左にわさび田を見ながら上がった所が山の案内書では打原峠、看板では七村峠に着く。

ゴマギの葉はあまりいい色にはならないようだ。独特の香りはすでに消えている。

ミヤマホウソの黒い実が秋の深まりを感じさせる。ウバユリが倒れそうになりながらも、種を含んだ大きな実を抱えて立っていた。

その他、キバナアキギリ、オオバショウマ、クサアジサイなどいずれも忘れ去られた秋の姿。

中でも生き生きと色気を出しているのはムラサキシキブとヤブムラサキ、紫色の実を輝かせて逝く秋を惜しむ。

山道の樹木

足元の花は見られなくなって、興味の対象は高木のブナやウリハダカエデの落とす山道の落ち葉踏みとなる。

ハリギリやヤマナラシ、やけに赤いのはカエデ類だ。

樹木も大きくて高いからすっきりした感じがする。落ち葉の検索に飽きると樹肌の調査も楽しい。一番分かり易いのがナツツバキ、どれも高木だがリョウブもあるので間違えないように確認していると結構、頭のトレーニングとなる。

ミズナラ、コナラ、落葉樹ばかりでは無い、スギの大木が多い。ここのスギの形状に気が付く人は相当な「植物オタク」かも知れないぞ。

アシウスギだ。日本海型と言われ、枝が先で上に向いて曲がっているのが特徴。確かにここのスギは植林ではなさそうだ。

高鉢山分かれを過ぎてアップダウンを繰り返していると、前方から男性二人組みが下りてきた。「今年は紅葉は駄目だね、もう終わっているよ。上は枯れ木ばかり。」と、言われてはちょっと力が抜けてしまった。ただ「落ち葉の上を歩くのも楽しいよ。」とはまったく同感。

この二人、QJYの会員資格あり。

行程の半分まで来るとロープ囲いの中の大木が目につく。この囲いは昨年までは無かったものだ。

樹齢600年以上、幹まわり4.4m、高さ20m。原生的自然林と言われる安蔵寺山のヌシ、別名をナラ太郎、県下最大級のミズナラだ。足元には今年も過去600年と同じく大きなドングリを撒き散らしていた。

西中国山地はブナ、クロモジに代表される。ブナ極相林を構成するのはミズナラ、アシウスギ、カエデ類、オオカメノキ、クロモジ、それにゴトウヅルやサルナシが絡む。膝下の高さではチマキザサとオクノカンスゲ。

山道をずっと飾るのはコバノフユイチゴ。赤い実とベゴニア風、観葉植物顔負けの模様入りの丸い葉がすばらしい。別名マルバフユイチゴ。

山頂までの三つのピーク

三つのピークと言ってもそれほど辛いアップダウンではない。じわじわと頂上が近づくのを感じ、ますます高い落葉樹林の山道とササ原に気が休まる。

山の名の由来となった寺の跡「寺屋敷」では、またロープで囲った保護地があった。看板によると「コバイケイソウ」が咲く、とある。これは間違い、囲いの中には「バイケイソウ」の枯れた花穂が立っていた。

コバイケイソウは北海道や中部以北のみ生きる植物。

山頂までの近道が封鎖され歩きやすい新しい広い道が用意されていた。そして登り切ると二等三角点のある山頂だ。環境庁と島根県の連名の、これまた新しい木柱に安蔵寺山の名が記されている。

そう言えばここまで随分新しく整備された道が出来ていた。直登の滑りやすい坂を巻くように出来ている。

三角点の周囲に方位を示した石が埋めてあり、ここに20万分の1の地図をあてがうと平家ガ岳など島根県の代表的な山々が見られる。

特にその南東方向は大きく開け、羅漢山まで確認できる。頂上でのんびりバーナーで湯を沸かしていた男性が下山の準備をしていた。

普段の平日はクマでも出そうな奥山だが、さすがに季節は一番しぼりの紅葉シーズン、天候は晴れたり寒かったり、少々荒れ気味だが、秋の素晴らしさに魅せられた一日だった。


{編集後記}

グリーンフェスタ広島に行ってきた。平日とあって人も少なく、幼稚園児の団体が多いのに驚く。

植え込みや庭造りの展示会という印象で少々期待はずれ。最初にダンギクが多く植えてあるのを見て、「おお、ダンギクだ。」と、名札を見たら「ダンギク、キク科」と書いてあって、呆れてしまう。クマツヅラ科が正しい。

ちょっと情けない思いしてしまった。

旧理学部の被爆建物の淋しく建つ姿に感動したのが本日のポイント。