休日は山にいます平成9年11月14日

QJY80
紅葉の山歩き その5 島根県仁多町上阿井 鯛ノ巣山(1026m)

和南原大根

この時期の山は一雨強く降れば葉が落ちて、枯れ木がたたずむ晩秋の様相を刻一刻深めていく。天候の良くない今日なんかはシーズン最後の紅葉ハイクとなるだろう。

一雨ごとに暖かくなった春の頃のまったく逆の現象、一雨ごとに冬に近づく。時雨れて雷でも伴えば山陰地方では「雪起こし」と呼び、冬の準備を急がなければならない。

山に褐色の葉を付けた樹木が多いのは10月から雨が降っていないことを物語るか。

三次を抜けて「森の泉」という温泉施設の出来た君田村にさしかかると、山々が「秋色」に染まり「急いで見てね。」と語り掛けている様だ。

早く今日の目的地「阿井の名峰・鯛ノ巣山」へ登りたいのだが、高野町ではどうしてもりんご園の直売所に立ち寄りたくなる。少し酸味のある「陽光」、上品な「ジョナゴールド」が売られていた。さらに進むと無人市では大根2本で100円。そう、ここは大根の産地高野町・和南原、広島ではブランドの大根だ。高地野菜の名産地。

R432を更に北上し王貫峠を越えれば島根県の仁多町上阿井。猿政山の島根県側登山口である可部屋集成館が右手にある。

絲原家、田部家とともに奥出雲の旧家。

たたら角炉伝承館を過ぎ槙原トンネルをくぐれば左・掛合の標識が目に付く。郵便局などのある阿井の古い町並みだ、500mで左折し、さらに進んで左に工事中の橋げたが見えれば、福原幹線農道の入り口だ。白い杭に「鯛ノ巣山登山道入口」と書いてある。

阿井の名峰

さらに1キロ以上行けば、大きく右カーブする地点で左に未舗装の山道、先程と同じ白い杭があるから、見逃さないよう注意して入る。

一度に曲がりきれないヘアピンカーブをふたつ過ぎれば登山口駐車場だ。5台くらいは停められる。看板には阿井の名峰・鯛ノ巣山と銘打ってあり広島の人には無名ながら、地元では親しまれている人気の高い山であることが分かる。

案内図が丁寧に書かれており、鯛ノ巣山の住人達についての説明が面白い。

クマ、サル、キツネ、タヌキ、イノシシそして最後にツチノコ

空は明るいのだが小雨が降り始めた。風が無いということは回復も遅いということ。

林道をさらに進めば先に大滝を見ておくことも出来る、音の静かな細い滝だ。車は途中の駐車場らしき広場に置かないとだんだん道が細く険しくなるぞ。

map

登山口

最初の駐車場から歩き始める。植林の若いスギと雑木林の道が続くが、急坂の山道であることを覚悟しなければならない。

イヌシデ、エゴノキが黄色い葉を見せる。カエデ類が多いのがここの良さ、まずはイタヤカエデが黄色く色付く。春に期待できるのはミヤマカタバミ、コチャルメルソウ。終わったホトトギスの葉も黄葉している。

雨が都合よく完全にやんだが、濡れ落ち葉の山道はかさかさと音を立てるはずも無い。

緑はジュウモンジシダ、キバナアキギリの特徴ある葉。右に沢を見て赤いサンゴがたくさん落ちていた、ミズキの実だ。

色付いたハウチワカエデの葉。オオバアサガラの大きな葉がすべてぼろぼろに虫に食われている。余程うまいんだ。

大きな岩が道をふさぐようにころがっていた。

静かな山だ。落ち着く風景と風の無い秋の終わりの暖かい日。年によってはミゾレも降る頃かもしれない頃だ。なにしろ、猿政山と大万木山に挟まれた秘境中の秘境。

三合目

三合目の標識と小さな沢に出合う。鯛ノ巣三清水・鯛流水と名付けられたその場所はミヤマイラクサが大きな葉で占有していた。炭焼きの跡もある。たたら製鉄にも関連したこの山の歴史の遺産。

スギ林が再度出てくるが、あたりは落葉樹が多くなった。さらに沢に出くわす、名前は清流水、エイザンスミレやマルバスミレ風の葉が残る。

お盆くらいあるヤマブドウの大きな葉は触ると手まで赤紫に染まりそう。

明るい林間だ。チゴユリの黒い実、ユキザサの赤い実、ホウチャクソウの黒紫の実。

最後の植林と雑木林の間は黄葉したイワガラミの葉が落ち、ナナカマド、クリ、コハウチワカエデなどが折り重なる。

ふと上を見ると、葉が残っている樹木の方が少ないではないか。下ばかり見ていて十分楽しいものだから気がつかなかった。

ブナの葉が目立つぞ。同様に渋色の葉はヤマコウバシ、コシアブラ。オオカニコウモリも黄葉することが分かる。

前方に見える大岩は夏なら樹木の陰で良く見えなかったかも知れない。坂道にベンチが配置してあり、ここがこうもり岩であることは誰でも分かる。

こうもり岩だけでなく、大きな岩がたくさん。

振り返ると巨木は皆枯れ木となって、遠望もきくようになってきた。相当高いところまで登った。

サクラのような木肌がはがれやすく、ヤシャブシ風の実をつけた木が多い。サロメチールの香りのする別名ヨグソミネバリ、ミズメの木だ。

こうもり岩の左脇を抜け、二つのクサリを利用して沢登りをする。この山はあまり人に知られていないが「山屋さん」達には喜ばれる山だろう。

苔むした岩の下に重なっていたのはタカノツメの落葉。黄色が明るい。

三清水の最後は竹流水だ。あまりにも統一性を欠いたネーミングだが、夏はうれしい飲み水の多い山である。

ふーふー言って最後の尾根筋の登り口にたった。看板によると右200mで先程のこうもり岩の上に出る。

ヤマドリに驚かされて山頂へ

最後の急坂、何度も休憩しなければ登れない。下ばかり見ているからアケボノシュスランが群生しているのに気がつく。ブナの大木が左右に立っている場所だ。

ウリカエデの紅葉した葉、ウリハダカエデやナツツバキの木肌、相変わらずブナは多い。

と、2〜3mすぐ横で「ドドドドド」と大きな羽音をたててヤマドリが飛び立った。もう、びっくりさせるなよ!向こうもびっくりしたのだろうが。

まるで外車の重量級オートバイ、ハーレーのエンジン音を聞かされたみたい。

静かな森で寝ていたのだろう。クマでなくて良かった。

見上げると、明るい山頂がもうすぐだ。晩秋なので残る葉は少なかったが、なにしろ猿政と大万木の間にあるのだから、春は私のようにカメラを下げた「花屋さん」の期待を裏切らない山なのだろう。

山頂にはベンチがふたつ。展望は良いはずだがあいにくのガスの中、それでも北の阿井方面は開けていた。更に尾根沿い、南に展望の良い断崖もあると言う。他にも登山路はあるようだ。気になる山名の由来など、どこかに書いてあって欲しかったが。

下山の頃は我慢していてくれた雨もぱらぱらと降り始めて、ついに本降りの天気予報どおりとなる。それにしても急坂の山だ。

当然、急坂が大変な試練を与えてくれたことは言うまでも無い。家に帰って叱られながらズボンを洗うさびしさよ。