QJYつうしん 87号

平成10年1月30日

休日は山にいます

瀬戸にそそぐ佐波川の流れ 山口県防府市 矢筈ヶ岳(461m)

一年前を思い出して

QJY通信第53号で防府市の右田ヶ岳を紹介した。防府は山が豊富、西にあるから西目山(312m)その右が右田ヶ岳(426m)、佐波川を挟んで本日のターゲットは矢筈ヶ岳(461m)、東に寝そべる大平山(631m)と低いが魅力のある山々が並ぶ。

昨年、山中で出合った登山者がそれぞれの山ではとても良い山歩きが出来ることを熱っぽく語ってくれたのを思い出した。

今朝は冷え込みが相当だったが快晴の暖かい一日。先日の七国見山のように春を満喫できる山として矢筈ヶ岳に登ろうと思う。

矢筈ヶ岳は昔は敷山と呼ばれ、建武の中興以来の戦乱の世の移り変りに翻弄された悲しい歴史を持つ。周防国府の重要拠点で、足利尊氏勢力に潰されるまで10日持たなかったと言う。南北朝戦乱期のお話。

で、矢筈と言うのは何かというと、矢の末端の弦をかけるくぼみをさす。この形は右田ヶ岳からこの山を見れば納得する。佐波川から見上げた写真ではちょっとピンと来ないようだ。

右田城の武士が名付けたのかも知れない。

登山口

広島方面からはR2を西走し防府市へ入ると右手にアンテナ山頂の「大平山」が聳え立つ。雄大な山だ。

R2を走行すればそのまま防府バイパスだ。山陽自動車道の右側に沿って走ると、すぐに大平山交差点の信号だ。目指す矢筈ヶ岳が右手前方に見えた。この交差点から信号の無い交差点の二つ目を右折(右折レーンがある)、すぐ左折、「キハラゴルフ」への案内看板に従ってまた右折する。

あとは舗装道路の行き止まりが登山口だ。

但し、新幹線の下を潜る時、車高1.8m以上の車は西側の4.2m高の通路に迂回しなければならない。

割と広い舗装道路の行き止まりの駐車場は車が4台しか停められない。またトイレも無いので要注意。

登山口は左の階段、カラスザンショウのぶつぶつの木、オオバヤシャブシの実、すぐに竹薮が始まり広い山道が続く。高度を稼ぐたびに瀬戸内海の光景が大きく広がり、右田ヶ岳よりは海が近いことが感じられる。

大岩の展望

ヤブニッケイとシロダモが見つかり葉の裏の違いや大きさなど参考になる。ヤマツツジ、リンボク、カクレミノも多い。

防府市教委の立て札と「史跡敷山城址」と書かれた石柱があり、奥にはタブノキが立っていた。さらにその上の石垣で組まれた平坦な場所には大きな「梵字岩」と意味ありげな石をくりぬいた手水鉢が置いてある。

そして敷山験観寺本堂の跡。

もっとも、いきなり鳥居が建っているので寺か神社か戸惑う。敷地内は礎石が並べてあり歴史の重みをを感じさせる。またヤダケがあるのは弓矢を作る為だったのだろう。

30分たったこのあたりで八合目というから山頂はあとわずか、里山のハイキングといった趣きだ。

振り返ると暖かい陽射しと海の輝き。

山頂のアンテナが印象的な東の大平山は雄大な姿で防府の町を見下ろしている。ロープウェイがあり、車道も付き公園化されたレクリエーションの山だ。ツツジの公園として名高い。

左手から山道が始まり足元にヤブコウジの赤い実が可愛い。

シハイスミレが一輪花を咲かせていた。

「山の自然はかなり破壊されている。」とは、中島篤巳氏著「山口県百名山」だが、丸木階段の道があるわけでは無いのだから、結構自然そのままの山だと思う。

急坂を登り切ると右手に主峰、左に西峰の丁度矢筈の中央部に来る。ここでは是非「大岩」に上がってみて欲しい。この山の最大のポイントである。

昼食などはここで摂ることをおすすめ。

map

何とかよじ登る。名前のとおり大岩で、まっ平なのがいい。瀬戸内海の展望は天下一品。

きらきら輝く海面の向こうに九州は国東半島の山並みがくっきりと見える。右田ヶ岳との間を走る佐波川は自然の形で瀬戸内海に流れている。のどか、のどか。

西峰では5〜6人の登山者がわいわい言っている。奥の主峰にも人影が。そして女性が二人やってきて大岩によじ登ってきた。

西峰に隠れて右田ヶ岳の山頂は見えない。

主峰、西峰

景観とお茶の休憩を済ませ主峰に向かう。

主峰までの小道はヤブコウジの赤い実が切れ目無く続く。この道を名付けて「薮小路」、また勝手に名前を付けてしまった。先日の大雪は山口県地方ではこんな沿岸部にも降ったようで、残雪が道に続いて楽しい。

ポカポカ陽気なのに解けないようだ。

コウヤボウキの大群落もある。シュンランやツルアリドオシ、武田山のようにヒトツバも多いぞ。最後の坂を上がるとあっけなく山頂に辿り着いた。なるほど樹木に囲まれ展望はきかない。冬なのでそれでもある程度見通しがきくが夏はだめ。

青ペンキが塗られた三等三角点。

サクラの木に巻き付いたムベが根元で切られていた。どうして人はこんなことをするのだろう。サクラの花なんかどこでも見られる。山頂で植栽の花なんか見たくない。ムベのかわいい花やおいしい実のほうがいいに決まっている。

だいたい、蔓に負ける様な樹木があるわけが無い。どちらが大事?冗談じゃない、どちらも大事!そもそも、自分の山でも無いのにナタを振る人がいるのに呆れてしまう。

さらに北方面に道があり違う場所に下りることも出来るようだ。

元の道を引き返し、大岩で昼食とする。

西峰にいたグループは佐波川方面に下って行った。そうか登山口はたくさんあるんだ。

ここで昼寝をしたいくらいののどかさ。

下山は西峰に寄り、もと来た道を引き返す。

陽が幾分傾き、瀬戸の海面からの照り返しが眩しいくらいの春の海だ、こんな風景を見ながら登れる市街地の山、防府はまことに山が豊富。

新南陽市のゆめ風車

帰路はR2を東に走り徳山東ICから山陽道を利用しよう。徳山市の中に居心地悪く新南陽市がすっぽりはまり込んでいる。

その中央付近で、帰路右手の丘の上に巨大なオランダ風車が回っているのが見えた。ちょっと休憩を兼ねて寄ってみることとする。

永源山公園と書いてある。

駐車場など無料なのがいい。

ドンキホーテが勇敢にも立ち向かった大きな風車は「ゆめ風車」と名付けられ、今日は南からの風を受けて大迫力で回っている。

そばで見上げるとますますその大きさに圧倒される。構造を見ると、頂部の回転羽根の塔が風向きにあわせて全周回転する仕組みになっているようだ。

休憩所に昔流行った「金のなる木」の一抱えもある大鉢が置いてあり、花が咲いていた。

人間魚雷「回天」の大津島や黒髪島を正面に見て瀬戸の風景はここでもゆったりと時を刻むかのよう。

春は瀬戸の光が柔らかい。