QJYつうしん 89号 平成10年2月13日

モーグル女子金メダル 里谷たえ

お薬師さんの山歩き・温泉の島 広島県木江町 神峰山(453m)

五里霧中

9時45分安芸津港発のフェリーに乗るため、山陽道西条ICから蚊無峠を経由して海に向かうこととした。

まっしろけ。

西条の町では道路標識さえ見えないから、何処を走っているのか皆目見当がつかない。そんな急ぎ旅でもないし、危機感も無いので適当に走っていたら呉市広町へ通じるR375を走っていることに気が付く。これではまずいので三永の水源地経由で新幹線東広島駅方面へ向かう。

ここから標識に従いじゃがいもとビワの産地安芸津町に向かうのだ。

ぽかぽかと春の陽気に春霞、蚊無峠を過ぎてやっと視界が良くなる。

フェリーにも間に合い沖合い35分の船中でやっと本日の山について計画を練ることとした。

大崎上島は豊田郡の大崎町、東野町、木江町の3町からなるみかんの島だ。久しぶりの大西港は新しくなっていて、東側の長島に見える中電大崎火力発電所の標高200mの大煙突はすでに完成していた。1号炉で営業を開始するのは2年後のこと。さらに2年後2号炉も稼動すると言う。

100mばかり走り旧の大西港の前に植えられている木に実がなっているのを見た。葉脈がはっきりしない細い葉とオリーブのような実、ナギだ。沿岸部で良く見る。

登山口「金剛寺」

東方面の沿岸道路を走ると「神峰山」の標識は2箇所くらい目に入るが、それらは大崎町側からの林道で、登山道では無い。今日の登山口は南側木江町から。

ちなみに標識にはローマ字でしんぽうざんと書いてあるが、木江町役場ではかんのみねやまと呼ぶそうだ。

東野町に入ってすぐ「右・木江町」の案内に従い山越え道に入る。

トンネルをくぐり、道路端にスイセンが満開になっていた。海が見えて、木江町役場を過ぎてすぐ海岸べりにカラフルな中国風の七重の塔「木江港交流倶楽部」が目に入る。

車はその手前の広いスペースを利用するか消防団の車庫の隣が「金剛寺」の入り口なので置かせてもらおう。

暖かい陽射しと眠くなるような春霞は今日一日続くのだろうか。

帰化植物であるフラサバソウの米粒大の可愛い花、アメリカセンダングサの実。

高野山金剛寺への石段ではヒメウズのつぼみが目に入る。白梅は満開。石垣に絡まる蔓性のシダ類はカニクサだ。寺の境内に立つと南側(愛媛県)の島々が霞の中に浮かんでいる。

海面は鏡の様。

ホトケノザ、シロバナタンポポがもう咲いていた。カワラナデシコはまだ咲いていた。

これから海抜453mの山頂まで急坂を登る。今、一番寒い二月の中旬と言うのに、登る前から身体が暖かい。

つづら折りの尾根道

10分も歩けばアベマキの林の道、サカキカズラのユニークな実の殻、タツナミソウやアベマキのどんぐりが道端に。コウヤボウキのドライフラワーも多い。おや、ヤマツツジが山道にあちこち咲いている。相当早い春。シュンランは花芽をつけ、樹木ではシャシャンボ、ヤマモモ、ネジキ、アカマツ、ヒサカキ、ネズが目立つ。

そう、何でもありの山だ。

ところどころに数字の連番プレートが掛けてある。テリトリー意識の強い蝶、アカタテハが一緒に登ってくれている。bQ6では金剛寺より750m来ている、行程の半分くらいか。役場側からの道もあるようだ。

bQ8は展望台、直射が暑い、のんびりと海を眺める心地よさ。仕事を忘れるような気のゆるみ、と、思っていたら、気分を壊すポケットベルが鳴った。携帯電話で会社に連絡を入れると誰も鳴らしていないとのこと、「よしっ」気分を引き締めてもう一度山頂を見上げた。

海抜0mからは高いなあ。

しばらく行くと地蔵さまが立つ。ここまで1000m来ている。残り600mで石鎚神社だ。

赤い実のソヨゴも見られる。「あと500m がんばれ」、と標識が激励してくれる。

ここで、谷に寄り道すると「神峯山水汲守地蔵」があり水場となっていた。ひんやりとした空気、ミヤマウズラの葉、ツルアリドオシの赤い実。近づくと小鳥の羽音、メジロが飛び立った。コップの置いてある水場を覗くとおたまじゃくしが見える、ちょっと飲むのは勇気がいるぞ。

水場からはバックしなくても通過してそのまま元の山道に復帰できる。

ヤブコウジの赤い実もちらほら。

アンテナ施設を過ぎて、崖の上にソウシジュが一本立っていた。旧大西港で見たナギとの違いを確認。葉の厚さが違う。

map

山頂のお薬師さん

大きな展望台が見えた。商船高専の建物や大崎トンネルもはっきり見える。

前は神、うしろは佛 極楽の よろずの罪をくだく 石鎚

石鎚神社だ。そうか石で出来た鎚を持ってよろずの罪を砕いてくれると言う意味だったんだ。

QJY88で行者山にも石鎚神社があったのを覚えておられるだろうか?ここから四国の石鎚山はすぐ近く。分祠は西日本、特に島嶼部では多いと言う。

宮島さん、金毘羅さんもあちこちで見る。

ここでは林道を車で上がってきた人達に出合う。展望だけでも相当な価値がありそうだ。

東にもう少し歩けば薬師堂だ。地元の人は神峰山ではなく「お薬師さん」と呼んで親しんでいる。その尾根筋にソウシジュの大木、ミモザは黄色いつぼみをたくさん付け、赤いよだれ掛けの地蔵さまがずっと並ぶ。

木江小クラブの書いた植物名の看板も下げてありアラカシ、ネズミモチ、ウバメガシに囲まれて二等三角点。

その後ろに立派な薬師堂が建っていた。

御本尊は薬師瑠璃光如来、金色の像はいつでも拝観出来る。

ここまで休憩しながら二時間以内で上がってこられた。つづら折り道は直登と比べればはるかに登りやすいのだ。

頂上は少し風があるものの、今日に限り真夏と変らない。ビールが欲しいくらいだ。何しろTシャツ一枚で十分だった。

きのえ温泉

フェリーの時刻の関係で下りはちょっと急いでみよう。つづら折り道の良さはこの突っ走り下山が出来ること。

時間さえあれば「大崎島船の資料館」も寄りたいところ。

そして木江町の目玉商品きのえ温泉「ホテル清風館」だ。海を全部借景して入る露天風呂はちょっと他ではまねできない。

で、走って下りて30分。汗びっしょりになって車に戻った。風呂に入る条件と時間は十分。

タオル付き一人1000円はちょっと高めだが、この時間帯は空いているはず。はたして、大浴場と露天風呂は完全に一人占めの状態だった。

帰路、島内のスーパーに寄り、いよかんを一箱買うこととしよう。