QJYつうしん 91号 平成10年3月20日

     休日は山にいます     発行 QJY通信社


春を見つけるドライブ
   どの時期にどこへ行けばいいの?

大田川上流のユキワリイチゲ           

大田川を柳瀬のキャンプ場近くへドライブするとその場所はある。

今日はいつ降り出してもおかしくない天気。沖縄以来、お天道様には恵まれない。

ユキワリイチゲは案の定下を向いてしぼんでいた。オオイヌノフグリでさえ花を閉じているのだから最悪。時期的にも少し遅かったようだ。

実はこのあと本命のユキワリイチゲを三良坂町の灰塚地区に見に行く予定だから、あとを期待しよう。

タネツケバナの点々と咲く道端に、うす紫色の小さな花はナガバタチツボスミレ。広島県内では非常にポピュラーなスミレだ。いがりまさし著「日本のスミレ」ではナガバノタチツボスミレと「ノ」が間に入っている。

これは地上茎のあるスミレの仲間で、同じく葉の裏が紫色のシハイスミレとの区別は地上茎があるか地下茎があるかで簡単にできる。

昔からスミレは好きな花だが、こうして曇天でも開花してくれるのがカメラマンとしてとても嬉しい。一方、早春のカタバミ類は決して開いてくれないから困る。

今は可愛らしいナガバタチツボも花期が終わると葉が大きくなり、背も高くのびる。広島県のものは葉が紫色を帯びているものが多い。でもタチツボスミレの仲間の特徴は何と言っても紫色の花の美しさ、スミレとして完成された姿、模様と言える。

葦嶽山のマンサク

広島北ICから中国道を庄原へ車を走らせる。総領町への途中から「ピラミッド」方面へ左折する。詳しい入りかたはQJYつうしん第56号で案内しているとおり、今も変わらない。昨年は3月14日、今日より約一週間早かった。

葦嶽山は登ればそれなりに面白い山だが、この時期は何と言ってもアテツマンサクの咲き乱れる愛すべき山だ。

別名のタニイソギは良く付けた名だと思う。ただ、花の時期はいくらこの厳寒地でももう遅い。それでも木によっては奇麗に咲いていた。

昨年は丁度満開時期だった。やはりここでは3月中旬までが時期だろう。

帝釈宇山のフクジュソウ

この場所を知りたかったら、上帝釈の郵便局で高尾要さんの家は?と聞けばいい。親切に教えてくれる。ただ、残念なことに目標物は一切なし。

でも帝釈宇山の高尾さん、と言えば知る人ぞ知るフクジュソウの高尾さん。

看板も立ててあり、なんとかたどり着くだろう。

花満開の時期はあと一週間後。これだけの違いでほとんど見つけることが出来ない。

目が慣れてくるとやっと花芽のみ無数にあることに気づく。テレビで放映するのはやっと最初のグループが咲き始めた頃なので、今までの経験から3月最終週に訪ねるべき、と思う。

初夏の花、フッキソウが入り口を飾る。最近道路の植栽に使われている花だから、あまり珍しく無くなったが。

高尾さんはこの他、ヒゴタイなど絶滅した植物を保護されている。

帝釈峡のスズシロソウとミスミソウ

上帝釈の駐車場は一台も観光客の車は無かった。雨はあがったのにこう寒くては誰も来ない。川は濁って水量が多いから長靴を履いて行くこととしよう。本日同行の人も雨の対策は十分だ。これから入る場所も思わぬ流れが出来ていて、この対策が無駄では無かった。

小さな沢を登ると岩の上に満開のミスミソウ。

いつもはもっと後の時期、例えば連休中であまり花を見ないが、そうかこの時期にくれば逢えるのだ。スズシロソウはいやでも目に付く。

総領町のセツブンソウとオウレン


セツブンソウの時期は割と早く終わる。もちろん早く始まるのだが、中でも一番に咲き新聞やTVニュースに出るのが神社のある場所。ここは日当たりが良いから一番に咲くのだ。私が好きな場所は役場の裏、川向こうの北斜面。この時期はセリバオウレンが咲き乱れていた。これほどの群落は他では見ない。

梅の木の下にはもうあまり目にしなくなったキバナノアマナが咲いていた。

寒い地方にしか咲かない。

そして先へ進むとちょっと寂しげな本日のメインフラワー、セツブンソウの群落、当然時期的にはもう終わりなのだ。

このちょっとしたエリアの中でセツブンソウとオウレンがきちんと場所の住み分けをしていることに注目して欲しい。4月に入ればセツブンソウにかわって花の大きなイチリンソウの名所となる。しかしセツブンソウが終わるとここを訪れる人は無い。

ちょっと三良坂方面に行けば灰塚ダムの立ち退き地域だ。豪邸が並ぶ。

 

灰塚のカタクリよ永遠に

ダム工事の進む三良坂町灰塚、来年にはもうこのカタクリの名所には入ることは出来ないかもしれない。今春は移植の予定もある。総領町からのルートをとると引っ越した空き地ばかりが目に付く。ここらへんはダムの底に沈むんだ、と思えばとても辛い。

引っ越しの保証金は庭木一本残らず処分することが条件だ。大きなツバキの木があったはずの場所も何も無い。それどころかサイハイランの多くあった秘密の場所がすっかり崩されて、工事車両に占領されていた。

さらに進んで灰塚小塩野には相変わらず植物採取禁止の大きな看板が立ち、民家の跡にはオウバイが黄色い花をつけている。

ところで、一年と三ヶ月続けた夕刊の連載も4月4日の土曜日で終了する。最後を飾る予定はこのオウバイだ。

主の去った廃虚の石垣でダムの底に沈む運命の花をどうしても載せてやりたかった。

何年も続く県内のダム工事、本当にこれほどのダムが必要なのだろうか。福富町のダム、加計町のダム、そしてこの灰塚ダム。住民の反対を押し切って公共事業のための公共事業が今日も続く。

一部の大規模建設業者が潤い、多くの自然が失われる。火力発電所も蒲刈に建設中、原発だって増えている。工業用水が更に必要とも思えない。なのにまだまだダムは増える。バブルの時代に計画されたダム工事が今頃、ピークを迎える。小塩野はダムの堰堤の場所。

橋を渡ってナラガシワの枯れ葉を見つける。

墓もすでに片づけられていた。本命、ユキワリイチゲは曇天で花びらを閉じ、固いつぼみのカタクリが3週間先を目指していた。

南原峡に行くなら

市内で春一番の自然あふれる場所、と言えば、南原峡。市内と言っても流川で飲むと「朝帰宅」になってしまう安佐北区だからちょっと遠いが、間違いなく多くの花に逢える。

広島県の植物相から言えば、沿岸の暖地ではアラカシ、中部のシラカシ、県北にはウラジロガシと雑木林を形成する照葉樹木相がここでは複雑に交差している。アラカシのそばにウラジロガシが立っているのだ。

この一週間後に見られる花は、コウヤミズキ、キブシ、ヤブツバキとアブラチャン。いずれも感動間違いなしの絶品だ。

特にアブラチャンの薄黄色は早春の色。油っぽいと言うか水っぽいと言うか、いっぺんに覚えるぞ。